開発で特に気を配ったのが、プライバシーやセキュリティー、デザインだ。「プライバシー面ではとにかくアプリがデータを持たないようにした。ホワイトハッカー(悪意を持った攻撃からソフトウェアを守る人)にも解析してもらって、セキュリティ面でも安全という評価をもらった」(廣瀬氏)。
デザイン面では、「多くの人が亡くなっている病気であるため、10年以上の経験があるデザイナーが監修しながら、感情を揺さぶらないものにすることを心がけた。また、普及を進めるため、ITに詳しくない人でも直感的に使えるようにした」(プロジェクトで政府との交渉などを担った安田クリスチーナ氏)。
開発スケジュールは急ピッチだった
配信開始が6月中旬となったことを遅いと指摘する声もあるが、アップルとグーグルのAPIが正式に公開されたのが5月下旬だ。廣瀬氏らが本格的に作業を始めたのは6月に入ってからで、アップル・グーグルのAPIを活用したアプリの開始は先進国としては早かった。
「確かにスケジュールは厳しかった。(配信開始時点で)不十分なところもあったが、ユーザーからのフィードバックを受けながら、日本の皆で一緒に育てていこうと、厚労省とも話した」(廣瀬氏)。ソフトウェアは広く使われる中で機能改善を進めていくのが定石だ。特に官民で連携し短期間でアプリを開発するのは異例であり、一筋縄ではいかない。
政府の接触確認アプリ有識者検討会に参加した一般財団法人「日本情報経済社会推進協会」(JIPDEC)の坂下哲也・常務理事は、「有事の際には政府のスピーディーな対応が求められるが、『縦割り』ではそれが難しい。このコロナ禍では、市民のためのテクノロジーを迅速に実装し、わかりやすく説明できる存在の必要性が明確になった」と振り返る。
前出の安田氏も、「日本がデジタル国家になっていくうえで、新しい手法が見えた。ピンチはチャンスであり、今まで進んでこなかった政府のデジタルトランスフォーメーションも進んでいくだろう」と期待する。