世界の新型コロナウイルス感染者数が日本時間28日午後7時時点で、1千万人を超えた。中南米の感染急増に加えて米国も再拡大しており、増加ペースは加速している。感染急増が目立つ国では、検査体制が追いつかず実際の感染者数は数倍だとの見方もある。世界は医療崩壊を食い止められるかの瀬戸際にある。
米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、1日あたりの世界の新規感染者数(7日移動平均)は直近で16万人台と過去最多となった。
同大が集計対象とする188カ国・地域のうち、過去1週間の感染者数の増加数が最も多かったのは米国の25万人超で、ブラジル(24万人超)、インド(約11万人)が続いた。過去1週間以内に1日あたり新規感染者数が最多を更新したのは中南米などを中心に60カ国に達する。
感染再拡大の兆しのある国や地域も40以上にのぼる。半数以上の国が感染対策を十分に打てていないことを意味する。新興国など一部の国や地域では検査が追いつかず、感染者数の正確な把握が困難になりつつある。症状のある患者優先で検査せざるを得ないためだ。
英オックスフォード大学の研究者らのデータベース「アワー・ワールド・イン・データ」によると、メキシコは検査の陽性率が5割超と、世界で突出する。メキシコ国立自治大学は国内感染者数が10月までに現在の12倍の259万人に達する可能性があると指摘した。
医療インフラが脆弱なチリでは検査結果が出るまでに1カ月以上かかるケースもあり、対策が後手に回っている。
米国では18州で過去1週間に新規感染者数が最多を更新した。アリゾナ州など24州・地域で検査の陽性率が世界保健機関(WHO)が経済活動再開の基準とする5%を上回る。ジョンズ・ホプキンス大のジェニファー・ヌッツォ氏は「ウイルスの感染が検査の拡充よりも速まっている兆候だ」と懸念を強める。
米疾病対策センター(CDC)は抗体検査などをもとに、米国の実際の感染者数は約10倍に達する可能性があると推計する。単純計算で実際の感染者が2500万人超に達する。レッドフィールドCDC所長は「若者が感染拡大の大きな要因となっている。これまで無症状の若者は検査していなかった」と指摘する。
米政府集計によると、足元の新規感染者のおよそ半数が35歳未満。経済活動の再開に伴い営業を始めたバーなどに若者が繰り出すケースが増えており、南部のテキサス州やフロリダ州はバー営業停止などに乗り出した。
このまま、世界の感染拡大に歯止めがかからなければ、経済活動の正常化を模索する世界経済に深刻な影響が出そうだ。経済協力開発機構(OECD)は10日、年内に感染が再び拡大した場合、2020年の世界の実質経済成長率がマイナス7.6%に落ち込むとの予測を公表していた。
景気や雇用への副作用の観点から、再び大規模な都市封鎖に踏み切ることには慎重な国が多い。世界各国はすでに巨額の財政支出を実施しており、余力は限られる。
世界の累計死者数も28日、約50万人となった。約5000万人だったスペイン風邪など代表的なパンデミック(世界的な大流行)と比べるとまだ少ない。ただ、2002~03年にアジア中心に広がった重症急性呼吸器症候群(SARS)や、12年以降に中東などを襲った中東呼吸器症候群(MERS)と比べると被害は大きい。WHOによると関連死者はSARSが813人、MERSが858人だった。(黄田和宏、千葉大史)