【更新情報】(2020/3/22)
2019年決算データを反映し、リライト。
ゆーたんです♪
世界有数のグローバルたばこメーカー、フィリップ モリスの銘柄分析です♪
フィリップ モリスってどんな会社?
フィリップ モリス(Philip Morris International Inc. ティッカー:PM)は、アメリカのニューヨークに本社を置き、たばこ事業を展開する企業です。2008年に、アメリカでの訴訟リスクの高まりを受けて、アルトリア(Altria)から分社化されて誕生しました。

それ以降、アルトリアがアメリカ国内での事業、フィリップ モリスが海外事業というようにすみわけが図られています。
日本では、Marlboro(マールボロ)や、煙やにおいが少ないとされる加熱式たばこのIQOS(アイコス)が有名ですね。IQOSは、日経トレンディの2016年ヒット商品ランキングで3位に選ばれました。私のまわりの喫煙者もそのほとんどがIQOSを愛用しています。
2019年の収益は298億ドル(約3.2兆円)となっています。たばこの出荷量は7,664億ユニットであり、全市場の約28%を占める、世界最大級のグローバルたばこメーカーです。
なお、"グローバル"としたのは、喫煙者が3.5億人おり、世界のたばこ消費量の約4割を占める中国では、中国煙草総公司が市場を独占しているためです。海外のシェアはわずかですが、国内市場が巨大であるため、生産量・売り上げともに他社を圧倒しています。市場シェアは43%(2017年、Statista)で、2位のフィリップ モリス(14%)の約3倍となっています。
フィリップ モリスの業績
※グラフはIRデータより作成。
収益、営業利益、純利益

収益はほぼ横ばいで推移しています。営業利益率は、近年は、40%前後で推移していましたが、2019年度は35.4%まで落ち込んでいます。
これは、マーケティング・管理・研究費用の増加、具体的には、カナダでの訴訟関連費用の計上、フィリップ モリスの子会社で、カナダにあるたばこメーカー、ロスマンズ・ベンソン・アンド・ヘッジズの非連結化(決算から切り離す)に伴う費用の計上などが影響しています。
たばこ出荷量の推移

たばこ出荷量は、2012年をピークに減少に転じており、2019年は12年比で17.4%減少しました。落ち込み幅はアルトリアより緩やかですが、出荷量の減少を値上げで補っている構図は変わりません。
たばこ出荷量の内訳(2019年)

Marlboro(マールボロ)が約3分の1を占めています。紙巻きたばこの出荷量は前年比で4.5%減少していますが、マールボロはわずか0.6%の落ち込みにとどまっており、相対的な強さが際立ちます。
他方、加熱式たばこ(IQOS)の出荷量は、前年比で+44.2%という成長を遂げていて、全体の8%程度を占めるまでになっています。そのうち約43%は日本市場が占めていますが、2019年はロシア、イタリアでの出荷量が大きく増えています
加熱式たばこ市場で大きくシェアを占有
加熱式たばこは、競合他社であるブリティッシュ・アメリカン・タバコはglo(グロー)、JTはPloom Tech(プルームテック) というブランドを展開しています。しかし、IQOSは他2社を引き離して大きなシェアを獲得しています。
ロイターの記事によれば、日本市場におけるシェアは、IQOSが約7割強を獲得しているようです。世界でのシェアはわかりませんでしたが、今後加熱式たばこが普及するにつれて、IQOSもその恩恵を大きく受けることになると思います。
フィリップ モリスも、通常の紙巻きたばこから加熱式たばこへの切り替えを推進していて、「無煙の未来」の実現に力を入れています。公式HPによると、既に800万人もの消費者が加熱式たばこに切り替えたということです。その意味で、日本市場はまさに成功例といえるのではないでしょうか。
ただし、加熱式たばこの歴史はまだ浅く、「無煙だから、健康への影響が少ない」という明確なエビデンスがあるわけではないことに注意が必要です。WHO(世界保健機関)は、加熱式たばこの長期における健康への影響は不明だとしつつも、通常の紙巻きたばこと同様に規制するべきだと主張しています。
フィリップ モリスの地域別収益(2019年)

特定の地域への偏りはなく、バランスよく分散されています。このグラフでは、東アジア・オーストラリアとなっていますが、そのうち日本での収益は約39億ドルで、約13%を占めています。
フィリップ モリスにとって日本市場は最大のマーケットになっています。「No!けむハラ(ケムハラ)」という、一見公的な機関のものかと勘違いしてしまうようなサイトをオープンさせるなど、ずいぶん熱が入っていますね。
フィリップ モリスの製品別収益(2019年)

このグラフでは、「可燃性たばこ(Combustible Products)」「リスク低減たばこ(Reduced-Risk Products)」となっていますが、ほぼ「紙巻きたばこ」「加熱式たばこ」という解釈でよいと思います。加熱式たばこが収益に占める割合はまだ19%ほどです。とはいえ数量ベースで見たときは8%でしたから、加熱式たばこが高収益であることがわかります。
たばこ需要の減少傾向が続くなか、フィリップ モリスが今後も成長を続けていくためには、「いかに紙巻きたばこから加熱式たばこへの移行を促せるか」「加熱式たばこでどれだけ新規顧客を掘り起こせるか」にかかっていそうです。
EPS、BPS

停滞する業績を反映してか、EPS(1株あたり純利益)は横ばいで推移しています。BPS(1株あたり純資産)は、2012年以降マイナスで推移していて、債務超過の状態となっています。
安定した収益を源泉に、借金をしてまで投資家に還元しようという姿勢、それ自体は素晴らしいのですが、純資産は2019年末時点で-959.9億ドル(-1.03兆円)となっています。これはアメリカの大企業の中でもボーイングを抑えて、最悪の数字です。
新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、債務超過であることを心配する方も多いと思いますが、新型コロナウイルスの感染が拡大したからといって、依存性のあるたばこを買わなかったり、やめたりする人が劇的に増えるというのはなかなか考えにくいです。ちゃんと利益を稼げているうちは、あまり心配はいらないと思います。
しかし、案の定というべきか、喫煙には新型コロナウイルス感染症のリスクを高める可能性があるという報道もなされています。2020年のたばこの出荷量が想定以上に減少、結果として収益・利益・キャッシュフローが減少し、株主還元も危うくなるリスクは意識しておく必要があると思います。
キャッシュフロー(CF)

営業CFは、2014年以降緩やかながら右肩上がりとなっていますね。設備投資がほとんどかかっていないため、フリーCFは潤沢であり、投資家への手厚い還元が可能です。営業CFマージンも30%台で推移しており、安定しています。
フィリップ モリスの配当

配当は順調に伸びてきており、分社化以降、連続増配となっています。ただし、配当の伸びにあわせて、配当性向も上昇してきています。
2017・19年と配当性向が100%を超えています。特殊要因を除いた調整後のEPSで計算すると、2019年の配当性向は89%となりますが、それでも高水準であることに変わりはありません。
フィリップ モリス(PM)の株価チャート
S&P 500との比較(2008/3〜)

フィリップ モリスの株価は、2017年6月に一時123ドル台の最高値を付けました。しかし、その後は一転して下落基調となっており、2018年末には一時64ドル台をつけるまで下落しました。その下落率は約48%に達しています。
わずか2年足らずで、株価が半値とは…個別株の怖さを思い知らされますね
その後、株価は70~90ドル台のレンジで推移していましたが、2020年のコロナ問題でレンジを下抜けています。配当利回り(2020/3/22現在)は7.68%と高配当です。
S&P 500との比較では、2017年までは一貫して上回ってきましたが、2018年に逆転され、その後は差が広がり続けています。
S&P 500との比較(トータルリターン)(2009年末~)

配当を再投資した場合のトータルリターンでみても、S&P 500をアンダーパフォームしています。この10年間平均の年率リターンは、S&P 500の+13.6%に対し、フィリップ モリスは+10.8%です
私の保有状況・所感
私は、たばこ株ではブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BTI)とアルトリア(MO)を保有していることもあって、フィリップ モリスは保有していません。ただし、高配当株式ETFであるSPYDを通じて間接的に保有しています。
たばこ産業は、規制産業であり、少数のプレーヤー(企業)が市場を占有する寡占市場となっています。
新規参入は困難で、ビジネスモデルは安定していますが、一方で、たばこの需要自体は縮小傾向となっていて、いわゆる斜陽産業となっています。また、人々の健康に悪影響を与えるということで、ESG投資の観点からも敬遠されがちです。
私も高配当なのでポートフォリオ(PF)に組み込んではいますが、「将来性がある」とはお世辞にもいえず、あまりPFに占める割合を高めたくないというのが正直な思いです。たばこ銘柄がPFに占める割合が10%を超えないよう、気を付けています。
とはいっても、フィリップ モリスは、全世界的にビジネスを展開しているので、新興国の需要も取り込むことができますし、加熱式たばこで先行している点も強みです。たばこ産業が衰退していくなかでも、相対的に強みを発揮できると思っています。個人的には、アルトリアとの再合併を期待したいですね