とにかく、雇用の確保は人の命に関わることであり、各国のマクロ経済政策の一丁目一番地だ。金融緩和で「金利」が死んだとしても、「人」を死なせてはいけない。当たり前のことだ。実際、今回のコロナ対策で、のべ146の国と地域が利下げを断行している。
およそ90年前に起こった世界恐慌では、こうしたマクロ経済政策の常識が浸透しておらず、逆に米国が金融引き締めの悪手を取ってしまった。金融政策が火に油を注いだ世界恐慌に比べてみれば、今回の世界のコロナショックへの対応はまだマシなほうだと言える。
日経新聞の記事は、低金利が市場の調整機能を低下させるとともに、債務の増加にも影響する、と懸念している。
同じような意見を出しているのが、コロナ対策の諮問委員会のメンバーに任命された経済学者の小林慶一郎氏が所属する、東京財団政策研究所である。同研究所は「緊急共同論考―社会保障を危うくさせる消費税減税に反対」と銘打った声明を発表した。
消費税減税に反対という立場は、まさに財務省の意向をなぞったような主張である。経済規律が失われる、借金が大変という、いつもの財務省節を代弁する御用団体と化しているようだ。そして、日経新聞の今回の記事も、主旨は違うが、財務省の言い分をそのまま書いているとしか思えない。
なにかと増税が必要だという論に繋げたがるが、経済混乱時に必要なのは金融緩和による雇用創出である。日経新聞も、「金利」ではなく「人」の死を防ぐためにはどうしたらいいか、ということを報じたほうが良かったのではないだろうか。
『週刊現代』2020年6月27日号より