『利家とまつ』DVD版/amazonより引用

麒麟がくる感想あらすじ 前田家

大河ドラマ『利家とまつ』昭和平成の良妻賢母像は今の時代にマッチする?

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    2000年代後半から2010年代の炸裂へ……

    このズレたおんな大河路線は、哀しいことに2000年代半ばまで続きます。

    個人的には大河史上最低だと思う作品がズラリ。

    ◆平成21年(2009年)第48作『天地人』

    女性大河フォーマットを男性主人公・直江兼続にまで適用した結果、悲惨なことに……ボーイズラブ漫画まで公式が出すといった宣伝戦略にも迷走が見られました。

    いろいろ問題はありますが、前田慶次と最上義光を出さなかったことで、山形県民激怒の結果を招いたことが最大の問題点でしょう。

    慶長出羽合戦】すらまともに描かない直江兼続作品は本作だけ。もう繰り返さないで欲しい……。

    信長役の吉川晃司さんは不満を炸裂させ、仇討ちのようにAmazonプライム『MAGI』で素晴らしい信長像を体現しております。

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    ◆平成23年(2011年)第50作『江 〜姫たちの戦国〜』

    露骨に『篤姫』(平成20年、第47作)二番煎じを狙ったものの、もはや何が何だかわからない。

    本能寺の変】にいた江は伝説に残りました。もはや「何を言ってるのか……」状態です。

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    ◆平成27年(2015年)第54作『花燃ゆ』

    真田幸村の四百忌をどういうわけか吉田松陰の妹が飾るという、理解できない大河。

    松陰の妹でも一番影が薄い三女が主役。どういうことでしょうか?

    ヒロインがおにぎりを握り続ければ、松下村塾の老中暗殺計画やテロに向けた爆弾作りも浄化できるはず!

    そんな狙いは、失敗しました。いや、そもそも成功するわけない……。

    主演のキャリアを停滞させた許されざる駄作です。

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    ◆平成30年(2018年)第57作『西郷どん

    女性大河フォーマットを男性主人公・西郷隆盛にまで適用した結果、悲惨なことに……ボーイズラブ推奨を公式が出すといった宣伝戦略にも迷走が見られました。

    『天地人』で学ばなかったのかーい!

    そうなんです。『天地人』と『花燃ゆ』の悪いところを足してブーストをかけたような、大駄作なのです。

    失敗でも二度目はより罪が重いって、理解できてます? もうチェスト関ヶ原しかない。

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    前述したように「舞台地への利益誘導」も傾向が見てとれました。

    上記4作のうち、ある作品は地元政治家が誘致を功績としてアピールしています。

    明治維新150周年とも重なり合い、そのキナ臭さは、大河の主演経験がある菅原文太さんが生前見抜いていたことでもありました。

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    幸か不幸か、大河とご当地の経済的結びつきは、世の流れに従って変化していきました。

    一年という区切りのある大河よりも、漫画、アニメ、ソーシャルゲームとのタイアップのほうが効果的である。地方自治体も、そんな風に認識しつつあります。

    大河に頼るばかりでなく、地域毎に武将隊を起こしたり、城や刀をアピールすなど、独自の路線で動き始めています。

    『天地人』は、作品の出来が悪いにもかかわらず、高視聴率でした。これは当時の戦国時代ブーム「歴女」の役割があったとされることもあります。

    けれども『花燃ゆ』の露骨な歴女アピールは不発に終わりました。

    そのころターゲット・オーディエンスである歴女は『刀剣乱舞』に夢中だったのです。

     

    このままではいけない! 模索は続く

    前述のワースト大河四天王(天地人・江・花燃ゆ・西郷どん)は、おんな大河の限界点を体現したかのようではありました。

    ただしこれは大河だけのことではありません。

    世界各国のドラマ、映画、アニメ……ジェンダー描写をどうするのか、模索が続いていました。

    代表例として、ディズニーがあります。

    シンデレラ願望――女は白馬の王子様が大好き❤︎ そんな世界を振りまいてきたディズニーは、王子にも出会わないし、ラストで結婚もしない、そんなヒロイン像を世に送り出し始めます。

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    そんなディズニー映画を見て育った世代。

    物事をスパッと言い切るヒロインが魅力的な『愛の不時着』に喝采を送る層。

    そういう視聴者が『利家とまつ』のような描写を見せられ、どう受け取るのか……。

    おんな大河は、女性を応援し共感を誘うどころか、古臭く女性を縛り付ける鎖になりかねないコンテンツであると証明したのが、前述の最低大河です。

    一方、そうした失敗を踏まえ、大河でも新たな模索は見受けられます。

    ◆平成25年(2013年)第52作『八重の桜

    女だから戦えぬ――そう押し付ける周囲を跳ね除け、会津戦争に参戦する女性狙撃手が主人公です。

    明治編は夫を助ける「内助の功」を強調されたとはいえ、印象的であるのは戦う女戦士としての姿でした。

    癒し系と認識されていた綾瀬はるかさんが、アクションとシリアスな演技をこなせると証明された作品。彼女のキャリア転換点でもあります。

    『花燃ゆ』と『西郷どん』が放映されることで見直され、放送後評価が上がった作品でもあるのです。

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    ◆平成27年(2016年)第55作『真田丸』

    大胆な女性像はブーイングもありました。しかし、作品自体は、新しい研究成果や時代の流れをふまえたもの。安易な対立をしない北政所と淀も描かれています。

    史実では主役の側室であった“きり”(長澤まさみさん)は、最大の変化球です。

    最終回まで結ばれることすらなく、自由かつ自分の意思を貫き、良妻賢母の真逆を突き進む姿は、新たなヒロインの息吹を感じさせました。

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    ◆平成28年(2017年)第56作『おんな城主 直虎

    女性でありながら井伊家当主となったヒロイン。良妻賢母から脱却した姿がそこにはありました。

    家臣である小野政次を槍で突き殺す場面は、深い印象を残したもの。

    今川家を率いる寿桂尼、悪女の汚名をかぶる築山殿井伊直政の母・しのといった脇役像も、斬新なものがありました。

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    ◆令和元年(2019年)第58作『いだてん』

    オリンピックを目指す人見絹枝ら女性アスリートからは、良妻賢母以外の女性が生きる道が示されました。

    セクシャルハラスメントの構造問題にも切り込む意欲がありました。

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    そして令和2年(2020年)第59作『麒麟がくる』ですが、こちらでもヒロイン像の模索が続いています。

    古典的な良妻賢母である光秀の母・牧と、妻の煕子。

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    こうした史実に存在する人物だけでなく、創作された女性たちも個性があります。

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    淡い恋心を光秀に抱いた少女から、医術を身につけ生きていく、自立の姿を見せる駒。

    良妻賢母だけではない。

    どんな生き方をしてもいい――。

    そう示してこそ、令和にふさわしい大河ができる。

    人が変わるのであれば、大河も変わる。

    ドン底からその道が示された2010年代後の2020年代は、ますます多彩なヒロイン像が生み出されることに期待しております。

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    文:武者震之助

    【参考】
    『利家とまつ』NHKアーカイブス
    『利家とまつ』(→amazonプライム

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