ネット炎上による自殺。事例の多さで先を行く韓国の研究に見るダメージ治療の実際

自身にとって都合のいい解釈をする人が炎上を招く

 ネット上の罵詈雑言を受けやすく、かつ影響され傷つきやすい人は、愛着に問題を抱えていることも明らかになっている。愛着とは幼い頃に親や特定の人との間に築かれる絆を指し、人間に対する基本的信頼感の基礎となるもので、その後の心の発達と人間関係に大きく影響する要素となる。  東海学院大学が東海地方の大学生246名を対象に行った調査では、いじめ被害、ネット依存、匿名情報、いじめ加害、対人トラブル、架空請求の6つの因子を設定して愛着スタイルとインターネットトラブルとの関係を分析。  その結果、他者に対する信頼感と自尊心が低く、対人関係が不安定な「関係不安」型の愛着スタイルを持つ人はよりインターネットに耽溺し、ネット上の対人トラブルを経験しやすく、架空請求などにも関わりやすいという傾向がみられたのだった[4]。  では一方で、「加害者」はどんな特徴を持つ人々なのか。  誹謗中傷に耽溺する人は性格がサディスティックであったり、何かのストレスや生活不安を抱えているというのが定説となっているが、ここではもう一歩踏み込んで考察する。 ・余計な火種を撒き散らす「読解力の乏しい人」  ネット炎上は、「誤読」が関係しているケースも多いが、文章読解には受け取り手がもともと持っている「信念」が関係することがわかっている。  特定の強い信念や偏見を持つ場合、いかなる内容の文であっても自身に都合の良い解釈をするということだ。たとえば「安倍政権」「韓国」など特定のイデオロギーが強く関わる記事に付くコメント欄では、その傾向が特に顕著に見られる。  読解における信念には、「書き手の意図に忠実に読むべき」と、「読み手側がいかようにも読んでよし」とする二つの信念があるが、それが科学論文の要約にどのように影響を与えるかを調査した事例がある。  調査では大学生、大学院生、社会人31名に質問紙への回答と、500文字での科学論文要約を求めた結果、 「書き手の意図に忠実に読むべきとする信念が強いほど、要約がうまくできなくなる現象が見られた。一方、読み手がいかようにも読んでよしとする信念が強いほど、要約した文章がわかりにくくなる傾向が見られた。  この調査は質問項目が科学論文の要約に適さないものであったという制限はあったが、信念が情報の要約に大きな影響を与えることが示唆されたのだった[5]。  この結果に則ると、書き手の意図に忠実であろうとする人ほど、文字情報を鵜呑みにしやすく嫌がらせや罵詈雑言への耐性が低いと考えられ、読み手側にそうした自律がない場合は、解釈に問題を抱える可能性が高いと推察することもできる。  また、書き手のジェンダーに関する主観的主張が記された文章に対し、統語論的レベル、意味論的レベル、実用論的レベルの3つの基準で読解程度を測定した研究では、文章内容を支持するジェンダー観を持っている場合は、より深く読解することが確認された[6]。  読み手の信念と文章内容が一致していれば理解度はさらに増すが、当然その逆もありうるということになるのだ。その上、SNSでは深く考えずにコメントができてしまうため、火種は絶えず生み出されていく。

「正義」を振りかざす人は、自分の欠点を直視できない人

・外在化しがちな人  外在化とは己の中の受け入れ難い要素を自分以外の対象に投影し、嫌悪する態度を指す。  ヘイトはもちろん、“正義”を大義名分にネット私刑を行う「ソーシャル・ジャスティス・ウォーリアー」が表裏一体である点はすでに多くの人が感じているものと思われる。  バランス感覚を欠いてまで何かを批判したくなった時は、自分の中の「悪」や弱さを直視できず、外部に転嫁しているのだと知れば、凶器を振りかざす側になることを防ぐことができよう。 ・過去の怒りが昇華されていない人  木村さんへの誹謗中傷は、リアリティ番組で激情をあらわにし、乱暴な言葉遣いをしたことが不興を買ったことが発端と言われている。  それはあらゆる意味で視聴者の感情をゆさぶる映像だったかも知れないが、だからといってわざわざ誹謗中傷をしない人も大半なのである。  加害者となった人々は、かつて誰かから似たような態度と言動で傷つけられた経験があるはずであり、そのときにできなかった反撃を、ネットの向こう側にいる無関係の女性に対して行ったのだ。もし罪の意識があるならば、一生をかけて自分自身の問題を解決してほしいと願う次第である。 <文/安宿緑> (参考文献) [1] Kyung Hee Du(2015) Analysis of affecive, cognitive changes and behavioral responses of the victims of cyber bullying [2] Chung,Yeo-Ju,Kim-Dong-Il(2012) Experienced Cyberbullying Victimization and Emotion Regulation [3] Chung, Heyoun & Kim, Jun(2019) Intervening Anxiety of Cyber Violence Victims: A single case study in christian perspective [4] 工藤与志文(1997) 文章読解 における「信念依存型誤読」の生起に及ぼすルール教示の効果―科学領域に関する説明文を用いてー 教育心理学研究 45(1) [5] 大関嘉成(2009) 読み手の価値判断基準となる信念と読解水準との関係 東北大学大学院教育学研究科研究年報 57(2) [6]宮本邦男(2014) 愛着スタイルがインターネット・トラブルに及ぼす影響 東海学院大学紀要8
ライター、編集、翻訳者。臨床心理大学院在学中。 韓国心理学会、韓国女性心理学会正会員。日本、韓国、北朝鮮など北東アジアの心理分析に取り組む。心理学的ニュース分析プロジェクト「Newsophia」(現在準備中)に参加。ライター安宿緑のブログ
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