地下の水資源、“化石水”が枯渇する?

2010.05.05
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リビアの水輸送プロジェクトで設置される導水管。

Photograph by Thomas Hartwell, Time & Life Pictures/Getty Images
 雨が少なく乾燥した地域では、「化石水」が貴重な資源になっている。化石水は地中に残存した海水が地下水となったもので、太古の昔に生成され、地下の巨大な貯水場である帯水層に蓄積されている。しかし、化石燃料と同様に確かな埋蔵量はわからないが、徐々に枯渇しつつあるという。 イギリスのオックスフォード大学の水文地質学者マイク・エドマンド氏は、「限られた地下資源を消耗している点では石炭や石油と同じだ」と話す。「掘り尽くせばそれで終わりとなる」。

 化石水は水資源に乏しい多くの国々で唯一の拠り所となっている。例えばリビア国民の生活を支えているのは、1950年代の石油探査中にサハラ砂漠の地下で発見された7万5000年前の帯水層だ。

 北アフリカに位置するリビアは、地中海に面し降水量が少ない。大半の人口が沿岸部に集中し、一帯の地下水は半塩水化が進み枯渇寸前だ。

 同国では最高指導者カダフィ大佐が1980年代に大規模人工河川プロジェクトを開始して以来、導水管や貯水池などの大規模な基盤整備が行われている。約1300カ所の化石水の井戸から一日当たり650万立方メートルの水を汲み上げて送水する予定だ。

 だが専門家は、化石水の保全対策や技術を確立しないと一時しのぎに終わってしまうだろうと警告している。

◆放射性物質による汚染

 ヨルダンでは、技術者チームが大規模な化石水資源を利用して慢性的な水不足の解消を目指している。

 ヨルダン南部の辺境の砂漠から首都アンマンまで、全長320キロにわたるパイプラインを設置する計画があるのだ。大部分が上り坂の経路になるが、年間9900万立方メートル輸送可能なシステムとなる予定である。

 予算約600億円のこのプロジェクトの目標は、ヨルダンにとって最後の大規模水資源であるサウジアラビア国境周辺のディジ(Disi)帯水層からの採水である。

 だがプロジェクトは予想外の問題に直面した。最近になって、ディジ帯水層には飲料水として安全なレベルの20倍の放射性物質が含まれていると判明したのだ。この地の化石水は、長い年月の経過とともに砂岩からゆっくりと浸出した放射性物質で汚染されていた。

 この問題を最初に発見した一人、アメリカ、ノースカロライナ州にあるデューク大学の地球化学者で水質専門家のアブナー・ベンゴーシュ氏は次のように話す。「ディジ帯水層の状況は珍しくない。イスラエル、エジプト、サウジアラビア、リビアでも同様の汚染が見つかっている。放射性物質による汚染は簡単な硬水軟化処理で解決できるが、費用がかかる上に、処理後に残る放射性廃棄物の処分にも手間がかかる」。

◆新技術で水資源調査

 一方、限られた資源の化石水は埋蔵量の把握が難しい。しかし特定地域に限れば技術の進歩により可能になりつつある。

 地球物理学者のステファン・サラデス(Stefan Saradeth)氏によると、例えば欧州宇宙機関(ESA)の「帯水層プロジェクト(AQUIFER)」では、衛星画像を利用して宇宙から水資源量を推定し、国境を越えた資源管理に役立てているという。

 このプロジェクトのチームはサハラ砂漠とその南縁部のサヘル地域について、灌漑地域や穀物の栽培パターン、揚水後の土壌の変化などを指標として調査を行った。

「水資源や化石燃料の開発が進むと、地表がわずかに低下する。それを宇宙からミリ単位で計測するのだ」とサラデス氏は言う。

 水利用の可能性に関する情報は、各国が連携して貴重な資源を共有するのに役立つ。「どこの国でも国境を越えて状況を把握できるようになる」と同氏は語る。

 このほかに、化石水の貯蔵量を直接測定する技術もある。インド北部のニューデリーやジャイプルでは、毎年のモンスーンが水を供給すると同時に化石水は流出している。そこで科学者チームはNASAの衛星GRACEを使って帯水層から流出量を測定した。

 地下水位が変動すると、地球の重力場がわずかに変化するが、480キロ上空にあるGRACE衛星ならその変化を十分に検出できる。衛星データをもとに水利用の地図を作成したところ、インド北部の気がかりな状況が判明したのだ。

 NASAの研究の結果、人間の使用量は雨水の供給量を超えており、地下水位は2002~2008年に毎年平均30センチ低下していることがわかったという。

Photograph by Thomas Hartwell, Time & Life Pictures/Getty Images

文=Brian Handwerk

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