三つの願いをかなえてくれるランプの精、空飛ぶじゅうたん、砂漠の中のきらびやかな王宮-。そんなアラビアンナイトの世界観を表現した遊園地が、20年以上前に神戸市西区にあった。その名も「アリバシティ神戸」。西神南ニュータウンが開発された1990年代、たった5年だけ営業していた“幻の遊園地”だ。その姿を追った。(伊田雄馬)
インターネットによると同遊園地は、西区井吹台西町1の地下鉄西神南駅前に広がっていたという。そこには現在、ホームセンターやマンションが立ち並ぶが、遊園地としては手狭な感じ。「本当にこんな場所に?」という疑問が残る。
◆アラビア世界がテーマ
東京の老舗遊園地「浅草花やしき」を経営していた、機械製造会社「トーゴ」社が手がけたという。だが同社は2004年に経営破綻。現在の運営会社に問い合わせても「当時の資料はない」と、にべもない返事だった。
情報を求めてたどり着いたのは、市都市局。残っていた当時の報道向け資料の冒頭には、「新しい時代のアーバンミニテーマパーク」という、勇壮なキャッチフレーズが躍る。
資料によると、「アラビアンナイト」というテーマは、「物語の持つ不思議さやエキゾチックな雰囲気」を演出することを目的に選ばれたようだ。約3ヘクタールのコンパクトな敷地に、メリーゴーラウンドなどの遊具が並んだ。
王宮をイメージした門をくぐると、スカーフやショールを身につけた踊り子がきらびやかに舞い、ラクダにも乗れた。日本人がイメージする「アラビアンナイト」を具現化した施設だったようだ。
◆なぜ短期間営業?
気になるのは、開業前から営業期間を「1993年からの5年間」と明記している点。人気を集めたかもしれないのになぜ?
疑問に答えてくれたのは、西神ニュータウン研究会の大海一雄会長(87)。実際に訪れたこともある大海会長によると、「開園は同ニュータウンのまち開きに合わせ、地域のにぎわいづくりが目的だった。そのため、当初から長く営業する予定はなかったようだ」という。
予定通りアリバシティ神戸は97年11月末、わずか4年8カ月で閉園。しかし当時の神戸新聞によると、阪神・淡路大震災が起きた95年、3月には営業を再開。被災地で失われた娯楽を求め、1週間で4万人が入場した。最終営業日にはおよそ6千人もの人が訪れ、閉園を惜しんだという。
閉園から22年後の今年、ディズニーのアニメ映画『アラジン』の実写リメーク版が日本でもヒット。もし今もあれば、相乗効果できっと盛り上がったはずだ。砂漠の蜃気楼のように、はかない運命をたどった遊園地。だが訪れた多くの人々の心には、今も楽しかった思い出として刻み込まれていることだろう。