吉本新喜劇では異例…「パチパチパンチ」と「ぶっさいく」を主役に
放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(59)
東京の放送作家として新しい笑いを期待され、吉本新喜劇の台本を書くことになった私。自分の固まった役にこだわる演者もいて、反発があったのは確かですが、喜んでくれる人たちもいました。
私が書いたのは脇役を主役に抜てきした物語です。主役にしたのは、両手で胸をたたく「大阪名物パチパチパンチ」の島木譲二さんと「ぶっさいく」キャラで売る浅香あき恵さん。当時の新喜劇では異例でした。
ダブル主演で、警察官役の島木さんとあき恵さんとの恋物語。それまでの島木さんはやくざ役が定番。あき恵さんも「なんですかその顔。今までよう生きてこられましたね」とか「せっかくの不細工が台無しじゃないですか」といじられていました。
主役を演じることになった2人は不安そうな顔をしていましたが、意気に感じてくれたようで、演じるうちに自信を持ってくれました。内場勝則、未知やすえといった普段は主役を演じる役者たちも理解を示し、喜々として脇に回ってくれました。お決まりのパターンを破った台本でしたが、新鮮で好評でした。脇役が主役を張ることがなかった分、いろいろと新しいアイデアが浮かんで楽しかったですね。
才能のある演者たちもいました。内場は何でもこなせるし、若手を引き立てるのがうまい。石田靖は池乃めだかさんへのいじりが絶妙。180センチ近くある石田は小柄なめだかさんを子どものように自由自在に扱って、うまく怒らせて笑いを取りました。
安尾信之助は他人の家を訪問するときに「おじゃまします」ではなく「おじゃましますか」と語尾に疑問の「か」を付けたギャグで笑わせました。他にも、人にサボりを詰め寄られると「サボってたわけやないんです。怠けてたんです」ととぼけてみせる。悪役の小籔千豊(こやぶかずとよ)が不適な笑みで「俺はとんでもないワルや。怖いぜ。殺し、誘拐、強姦(ごうかん)、覚醒剤、強盗…以外は全部やった」とか、東京にはない笑いを知ることができ、回を重ねるごとに充実感が増しました。
あるとき「話があるさかい飲まへんか」と関西の放送作家に声を掛けられました。その人が「東京は好かん。箱根から東には行きとうない。大阪が一番ええ」と公言しているのは知っていたので、東京から来た私にケンカをふっかけるつもりかと身構えながらも…。ほな、行きまひょか。
(聞き手は西日本新聞・山上武雄)
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海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。
※記事・写真は2019年08月26日時点のものです