光栄だった直木賞作家との仕事…期待ふくらんだ矢先の悲劇

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(45)

 1994年春。テレビ東京の特番「山口瞳の行きつけの店」は好評のうちに終えました。落語家の古今亭志ん朝さんが出演し、ナレーションも務めました。構成を担当した私にとって思い入れのある番組です。主戦場だったドリフ、風雲たけし城などのバラエティー番組とは違う世界を経験できました。

 「行きつけの店」のエッセーで掲載された名店を山口さんや志ん朝さん、脚本家の倉本聡さんらが巡りました。洒脱(しゃだつ)な店の味だけではなく、雰囲気、そこで働く者たちの心意気を画面で表現したつもりです。この作品は、放送批評懇談会が優れた放送をたたえるギャラクシー賞を頂くことができました。

 実は次回作が内定し、準備が進んでいました。石川・金沢の料亭のゲストは、中尾彬、池波志乃夫妻。池波さんは古今亭志ん生の孫で、志ん朝さんのめい。縁ある人選です。

 この2人から古今亭一家のどんなエピソードを聞けるのか。本邦初公開の身内話にナレーションの志ん朝さんは、どんな反応を示すのか-。楽しみにしていましたが、山口瞳さんが体調を崩し、実現しませんでした。翌95年8月に山口さんは肺がんのため死去。68歳でした。

 私と同じコピーライター出身の山口さん。直木賞作家であり、菊池寛賞受賞の私小説「血族」では自身の複雑な生い立ちを描きました。私にも出生の秘密があり、感情移入しながら、いろいろな思いで読んでいました。そんな方との仕事は光栄でした。

 志ん朝さんとご一緒したのも、この仕事が最初で最後でした。肝臓がんを患い、2001年10月に63歳の若さで彼岸に渡りました。私が申すまでもありませんが、かの志ん生を父に持ち、入門からわずか5年、24歳で真打ちに。落語の世界にとどまらず、テレビで自らの冠番組を持ち、ジブリ映画のナレーションもこなしました。江戸の様子を描いた古典落語に、生き生きと新しい命を吹き込んだ「20世紀最後の名人」。

 在りし日を思い出しながら、毎晩のように志ん朝さんの落語を聞いています。ライカで始まった出会い。名人ながら偉ぶることなく、気さくに付き合ってくださった志ん朝さんは私の中に色濃く残っています。一期一会、記憶の宝物です。

 のちの落語への興味、次回に話す江戸時代に関する仕事への推進力にもなりました。

(聞き手は西日本新聞・山上武雄)

………………

 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年08月08日時点のものです

長崎県の天気予報

PR

長崎 アクセスランキング

PR

注目のテーマ