江戸時代が舞台の仕事に初挑戦 落語と「どん底」が突破口に

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(46)

 江戸時代の庶民の人間模様を描くNHKコメディー番組の台本作家を務めたことがありました。

 「コメディーお江戸でござる」(1995~2004年)。コメディーと歌手による歌、江戸風俗研究家の杉浦日向子さんが江戸時代に関するうんちくを傾ける「おもしろ江戸ばなし」の3部構成です。

 フジテレビ「オレたちひょうきん族」を書いていた広岡豊、本名がサッカーの強豪校のような清水東、そして私の3人がメインで台本を持ち回りで書きました。「江戸の人の気持ちになって書いてください」とプロデューサーに言われたとき、「そんなもん、現代人が分かるわけないだろ」と言い返そうと思いましたが、そこは理性のある私。胸の中にしまい込み、「はい分かりました」と、これでもかというくらい最高の笑みでうなずきました。これも処世術です。

 さてどうすれば、江戸の人の気持ちが分かるかと思案し、杉浦さんに尋ねたところ「落語をお聞きになったらどうですか。円生、文楽、志ん生あたりがいいですね」と薦められました。

 三遊亭円生、桂文楽、そして古今亭志ん生。いずれも昭和の名人です。それぞれのCDを買い、聞き比べた結果、自分には志ん生の感覚が合いました。志ん生は、そう、あの特番「山口瞳の行きつけの店」(テレビ東京)で一緒に仕事をした古今亭志ん朝さんのお父さんです。

 江戸と志ん生。この二つの結び付きに思い当たる節がありました。黒澤明監督の名作「どん底」(1957年)。ロシアの文豪マクシム・ゴーリキーの同名戯曲を江戸時代に移し替え、長屋を舞台に映画化。主な出演者は三船敏郎、山田五十鈴、香川京子、中村鴈治郎らで、場末の長屋に暮らす江戸庶民の人生の哀歓を描いています。

 その「どん底」は見ていましたし、黒澤監督が志ん生に声を掛け、出演者やスタッフが江戸を感じられるように、映画のセットの中で落語を演じてもらったエピソードも知っていましたから。

 優しく知的で、そばと昼酒が好きだった杉浦さんのアドバイスはまったくもって的を射ていました。おかげで、私も江戸の人たちの暮らしぶりを感じることができました。それは良かったのですが、台本作りがこれまでの民放の番組と違って、なかなか難しかった。皆さまのNHKはハードルが高いでござる。

(聞き手は西日本新聞・山上武雄)

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 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年08月09日時点のものです

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