厳しかった台本チェック…悔しい日々で見いだした“プロの生きる道”

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(47)

 毎週木曜午後8時スタートのNHK「コメディーお江戸でござる」(1995~2004年)の台本を書いた私ですが、局のチェックがかなり厳しかったですね。私の台本は100本ほどオンエアされましたが、日の目を見ることがなかったボツも50本ほどあったのではないでしょうか。

 「お江戸でござる」は台本をこしらえる前に、シノプシスと呼ばれる粗筋を原稿用紙に2~3枚書き入れます。それが通れば40枚程度の台本を作りますが、その段階で駄目な場合もあります。NHKらしくないから、お江戸らしくないから放送できない。それが局側の理由です。

 台本の第1段階の初稿で駄目な場合もありますが、最終稿でボツになるのが一番精神的にこたえます。納得がいく台本も、プロデューサーから「この作品は捨てていただいて」と。「捨ててだと。このヤロー、簡単に言いやがって」。出入り業者だけど、一寸の放送作家にも五分の魂。

 負けるもんかと書店や古書店を巡り、江戸時代の文化、風俗を徹底的に調べ、書き続けました。それでもボツになる。ケンカはできないけれど、心の中で煮えたぎるものがありましたね。なんとか、気持ちを切り替えて違うストーリーを考えることにしましたが。

 仕事がはけると同じメインの放送作家である広岡豊、清水東とともに渋谷のNHK近くにある居酒屋で不満を吐き出しあって、ストレスを発散しました。私の見立てですが、使い古されたセリフまわしの方が通ったような気がします。

 NHK内部の人間関係で、たとえ担当ディレクターが面白いと思っても、上司であるプロデューサーが駄目ならボツということもありました。そうは言っても仕事を受けている身。憂さを晴らすには書きまくるしかありません。仕事の悔しさは仕事で晴らす-。それがプロの生きる道。

 余談ですが、ボツになった原稿は自宅で妻が天ぷらの油取り紙として再利用。これが抜群の吸収力。ボツにされた悔しさも吸ってくれました。

 それでも充実していました。コメディーなのに、江戸時代のことがよく分かる番組でしたから画期的だったと思います。私自身も勉強になりました。尊敬する喜劇人と出会うこともできました。コントやクイズ番組の司会で活躍し、2時間ドラマでも主役を張る存在感ある方。それは次回にお伝えしますね。「ニン」

(聞き手は西日本新聞・山上武雄)

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 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年08月10日時点のものです

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