ようやく台本が演者の手に 最後の関門は尊敬する喜劇人
放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(48)
NHKがチェックして、OKが出た台本がそれぞれの演者に渡りました。私がメインの脚本家の一人として参加していた毎週木曜午後8時スタートの「コメディーお江戸でござる」(1995~2004年)。プロデューサーから「視聴率は気にしなくていい。とにかく面白いものを」と求められ、それを体現した脚本を仕上げても、話がNHK的ではないことが理由でボツ原稿が多く積み上がりました。
自信を持っていた原稿だけに不満も残り、けんかをしたくなることもありましたが、100本ほどの台本が本番に使われました。
本番前に行われるリハーサルは緊張しました。伊東四朗さんをはじめ、レギュラー出演者やゲストの前で「今回担当する海老原靖芳先生です」と紹介された後、演者が本読みをして舞台を練り上げていきます。伊東さん、由紀さおりさん、桜金造、重田千穂子、子役のえなりかずきらに、私の台本は面白いと思ってもらいたかったです。特に伊東さんには。
伊東さんは私が敬愛していた喜劇役者。三波伸介、戸塚睦夫と「てんぷくトリオ」を結成し、1960年代からお茶の間をにぎわせました。私も長崎・佐世保の大黒住宅の居間にあった14型白黒テレビの前で、彼らが演ずるコントに夢中になりました。
小松政夫さんやキャンディーズと絡んだテレビ朝日「みごろ!たべごろ!笑いごろ!」の「電線音頭」ではベンジャミン伊東を演じました。覚えてますか? 「ニン」や「どーかひとつ」のギャグを飛ばし、ばかばかしいキャラクターになっていても、伊東さんは全く下品ではない印象を受けました。そのせいか、クイズの司会者やNHK連続ドラマ「おしん」の父親役も務めました。本物の役者、最後の喜劇役者だと思っています。
それにしても、リハーサルで同席したときの伊東さんは怖い顔の上に、眼光も鋭い。伊東さんに注文され、決定稿のセリフや内容が変わることもありましたが、芸歴の長い喜劇役者の指摘はもっともだと感じました。
撮り直しなしのコメディーは重圧から生まれました。「視聴率を考えなくてもいい」と言われていた番組ですが、回を重ねるごとに視聴者の支持を得て、安定した視聴率を上げました。
やがて台本を褒められたことがありました。あの伊東さんからです。
(聞き手は西日本新聞・山上武雄)
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海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。
※記事・写真は2019年08月12日時点のものです