母に重ねて作った「レンタルおやじ」 伊東四朗さんから感激の一言
放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(49)
NHK「コメディーお江戸でござる」(1995~2004年)はお笑いであり、時代劇にして、歴史学習番組の要素を持っていました。これが子どもからお年寄りまで楽しめる番組として支持を得たのでしょう。
本番は東京・渋谷のNHK放送センターで、観客の前で生放送と同じ通しの収録です。長時間収録し、編集して放送する今のバラエティー番組主流のやり方とは違います。だから、セリフの間や呼吸などリハーサルを何度も繰り返します。本番のアドリブはなし。演者も実力が問われ、台本も練り上げたものでなければなりません。最終稿の台本が本番前のリハーサルで手直しが入る場合もあります。
演者で座長の伊東四朗さんのチェックも入ります。1960年代からお笑いの第一線に立ち、クイズの司会やバラエティー、そして刑事ドラマの主役を張る役者です。私は人にこびることはしませんが、この方には一目置いていました。
その伊東さんに褒められたことがあります。こんな内容の回でした。
タイトルは確か「親はなくとも損料屋」。江戸時代に日用品を有料で貸し出す「損料屋」という職業がありました。婚礼があると羽織、誰かが泊まりに来ると布団。庶民がそのときだけ必要な物を借りる。今のレンタルショップです。
伊東さんが演じる損料屋の徳兵衛は金に厳しく、決して情に流されません。お金さえ出せば、何でも貸すのが自慢。そこへ父親のいない小僧の和吉(えなりかずき)が「父を借りたい」と頼みに来たので、徳兵衛は自分を貸し出します。「レンタルおやじ」です。
徳兵衛は和吉の前で見事にお父さん役を演じるのです。優しさにあふれ、困った和吉を助けておやじらしく振る舞う。強欲だと思われた徳兵衛が、たとえ本当の父ではないとはいえ、父親のいない子どもに慈悲深く接する姿-。伊東さんの演技に笑いながらも、ほろりとする内容でした。
以前申しましたように、私の母は産みの母ではありません。それでも優しく、ときに厳しく接してくれました。実の母のように。そんなことも交錯し、思い入れのある台本でした。
江戸の「レンタルおやじ」を演じてくれた伊東さんはリハーサルの時に事務所の社長をわざわざ連れて私にあいさつしてくれました。
「海老原先生の今回の台本は、一字一句、直すとこがありません」。これぞ作家冥利(みょうり)です。
(聞き手は西日本新聞・山上武雄)
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海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。
※記事・写真は2019年08月14日時点のものです