有名税?「お江戸でござる」ヒットの裏で…冷や汗かいたハプニング

西日本新聞

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(50)

 NHK「コメディーお江戸でござる」は江戸時代の庶民の生活模様を描く人情喜劇、ゲストの女性歌手による歌、江戸風俗研究家の杉浦日向子さんが庶民の文化などを解説する「おもしろ江戸ばなし」の3部構成で、私はコメディーの台本を担当しました。

 木曜午後8時のゴールデンタイムに放映され、1995年から2004年まで続きました。毎週火曜午前11時に、東京・渋谷のNHKで番組会議。その前後は渋谷の大盛(たいせい)堂書店や新宿の紀伊国屋書店、ときには神田の古本店に行って江戸に関する資料を探しました。

 文献に目を通すと、江戸の庶民は子どもの教育に熱心で、実はリサイクルやボランティアの意識が高い。下水道が整備され、同時期のヨーロッパ諸国より都市環境も優れていました。視聴者の方に「ヘー」と思わせる江戸の意外な庶民生活、現代との共通点を描き出したことがヒットの要因だったのでしょう。

 放送作家であり、裏方の私も「有名税」とも言える経験をしたことがあります。

 ある日、横浜の自宅の電話が。女性からです。「あたしよ、あたし。知ってるでしょ?」。電話の向こうの「あたし」が誰だか分からない私。聞けば「お江戸」で書いた船宿のおかみについて「あれ、あたしのことを書いたでしょ」と。

 「あたし」は誰なんだろうと戸惑う私。一体どこの女なのか。恥ずかしながら身に覚えはないと言えない私。あの女性か、それともあの、いやいやあの女か-。近くに妻や娘がいます。頭の中がぐるぐる回ったまま、焦るうちに相手は電話を切りました。いたずらでした。冷や汗がどれだけ出たことか。

 まあ、こんなハプニングもありましたが、充実した仕事でござる。一番は視聴者の評価。そして座長の伊東四朗さんとの出会い。杉浦さんに「今回の海老原さんの作品には間違いがありません」と台本を褒められ、NHK会長だった川口幹夫さんはわざわざスタジオまであいさつに来て「家族で見て腹を抱えて笑ったよ」と言ってくれました。

 紅白歌合戦を国民的番組に育て上げ、笑いにも理解のある川口会長に評価をいただいたのは放送作家冥利(みょうり)です。認めてくれた杉浦さん、川口さんが故人になったのは寂しい限りですが。

 こんな感じで仕事の幅を広げていきました。そういえば、国民的アイドルグループにも書いたことがありましたね。

(聞き手は西日本新聞・山上武雄)

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 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年08月15日時点のものです

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