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マスクについて

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 さて、医療機関内でのマスクの効果はかなり堅牢な研究データが出ています。しかし一般社会におけるマスクの効果は研究数も少ないですし、その効果もSARS以外では示されておらずCOVID-19についてははっきりしないままです。では、どうしてこのような違いが出てしまうのでしょうか。

 単純に言えば病院の中のほうがデータが集めやすい、対象者を追跡しやすいという「便利さ」の問題があるでしょう。しかし、他にも理由があります。

 それは、「病院の中には感染者がたくさんいて、感染リスクが高い」ことです。

 感染リスクが高ければ高いほど、その防御策の効果ははっきりと統計的有意差を持って示されます。感染リスクがもともと低い状況下だと、そもそもリスクが低いわけだから、対策の効果は示しにくい。

 5mの高さからジャンプしたとき、パラシュートの効果は示されるでしょうか。おそらく示されないでしょうし、パラシュートが絡まってかえって危ないかもしれません。では、500mの高さならどうか。これなら、明確にパラシュートの効果は示されることでしょう。

 リスクが高ければ高いほど防御策の効果は出やすい。リスクが低くなるほど、防御策の効果はでにくい。リスクがめっちゃ小さい状況下では、防御策はほとんど効果がないばかりか、返って逆効果にすらなりかねない。

 あれ?この話、どこかで耳にしたことなかったでしょうか。

 そうです。検査の話です。事前確率=リスクがある程度高い状態では検査の効果ははっきりしています。PCRも意味がある。しかし、事前確率がとても低くなると、PCRの効果は下がってしまい、場合によっては偽陽性のリスクが高く出て有害にすらなってしまいます。

 マスクも同じです。感染がかなり広がっている場合、例えば指定医療機関内などではマスクの効果は絶大で、感染リスクを減らしてくれます。しかし、感染者が非常に少ないコミュニティーではリスクはほとんど、場合によっては全く減りません。もともと少ないリスクをさらに減らすのはそもそも難しい、という単純な一般法則があるためです。マスクに限らず、すべての防御策は同じ原則に従います。

 ぼくは2月に某テレビ番組に出演して、「マスクなんて意味ない」という発言だけがキャプチャーされて「マスク不要論者」のレッテルを貼られ、かなり激しく攻撃されました。切り取り、怖いですね。

 2月中旬の日本ではコロナウイルス感染者はほとんど存在していませんでした。ちょうど本稿を書いている6月25日の神戸市のように。ほとんど感染者がいない場合には、マスクを着用しようが、しまいが、リスクは減りません。だから、「意味ない」だったのです。

 晴れているときに雨傘をさしても意味がありません(日傘として使うなら別ですが)。かといって、雨が降っているときに傘をささないのも間違っています。「あのとき(晴れてるとき)傘をさしても意味ないじゃないか」と怒られても困ります。

 コトバの断片だけを見て、全部決めつけてしまう。条件を無視して怒り出してしまう。コロナウイルス感染問題で、こういう人がとてもたくさん見つかっています。これはコロナウイルスが惹起した新たな精神状態なのか、もともとそういう人だったのをコロナウイルスが暴き出したのか、ぼくにはよく分かりませんが、「情報の断片」を見て、周囲の状況や「コトバの全体」を見ずに、ヒステリックにブチ切れてしまう。やばいです。非常にやばい態度です。なので、「ぶちっ」と来たら、まずはいきなりツイッターでクソリプするのではなく、大きく深呼吸して文章全部を読みましょう。ゆっくりと、繰り返し。

 今でも西浦博先生が「42万人死ぬ」と言ってたのに死ななかったじゃないか、デマ野郎。みたいに怒る人がいますが、「何も対策を取らなければ」という条件を完全に無視しています。もちろん、たくさんの対策をとったわけで、日本はそのおかげでなんとか第一波を乗り越えようとしているさなかです。西浦先生に感謝こそすれ、恨まれるいわれはないのです。スウェーデンのようにゆるい対策をとっていた国がどうなったか。経済活動をどんどん無鉄砲に再開したり、あちこちでデモ活動をやって集団を作ってしまったアメリカ合衆国がいま「第二波一歩手前」にまで感染者を増やした事実をどう考えるのか。テキサス州、フロリダ州、アリゾナ州はそれぞれ1週間で2万4千、2万2千、1万7千の新規のコロナ感染者を発生させています(“We’ve been hit badly”, Fauci warns of US coronavirus surge [Internet]. [cited 2020 Jun 25]. Available from: https://www.aljazeera.com/news/2020/06/fauci-testify-coronavirus-cases-surge-200623122027159.html)。アメリカでは本稿執筆時点で12万人以上の方がCOVID-19のために命を落としています。あれこれ対策をとっていたにもかかわらず、です。

 CDCやWHOの「マスク着用」の推奨も同様です。「CDCもマスク着用しろと言っている」とこれまたクソリプがぼくのところに飛んできますが、これも「条件」を無視しています。

 CDCは「ソーシャルディスタンスを保つ他の方法が困難」な公共の場で、特にコミュニティでとても感染が多いときに布マスクを着用しましょう、と推奨しているのです。条件を無視するのはとても危険です(CDC. Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) [Internet]. Centers for Disease Control and Prevention. 2020 [cited 2020 Jun 25]. Available from: https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/prevent-getting-sick/cloth-face-cover.html)。

 なんで効果が確認されていない布マスクなのか、についてもCDCは明言しています。医療用のマスクはリスクの高い医療現場で用いるべきだからです。とくにアメリカでは一時期、本気の本気でマスクやガウンが枯渇しましたから(日本でもそうでした)。

 ときに布マスクが「感染防御に効果がない」ことは以前から知られていて、古くはインフルエンザみたいな症状についてのランダム化比較試験で、医療用マスクよりも感染リスクが高く、「マスクをしなくていい(してもいい)」対照群に比べてすら、感染リスクが高いことが示されています(MacIntyre CR, Seale H, Dung TC, Hien NT, Nga PT, Chughtai AA, et al. A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workers. BMJ Open. 2015 Apr 1;5(4):e006577.)。

 CDCの布マスクの推奨は、そういうデータと文脈の中での、「やむをえず」の選択肢であり、積極的に採択すべきオプションではないんです。しかも、布マスクは「感染防御」には役に立たない。あくまでも自分が感染者だった場合に「周りに広めない」ことが目的です。これについてはSARSで古典的なデータがあり、布マスクをしていると周りにウイルスは広げにくいのです(Bae S, Kim M-C, Kim JY, Cha H-H, Lim JS, Jung J, et al. Effectiveness of Surgical and Cotton Masks in Blocking SARS–CoV-2: A Controlled Comparison in 4 Patients. Annals of Internal Medicine [Internet]. 2020 Apr 6 [cited 2020 Jun 25]; Available from: https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-1342)。

 一時期のニューヨーク市のように街で感染が爆発的に増えていて、誰もが感染者かもしれない、という疑念を持っていて、かつ家にいられない、かつ距離が保てないときは、、、という「かつ」を何度も重ねた限定的条件下では布マスクの効果は期待できたわけです。こういう文脈を無視してはいけません。

 ちゃんと文章を読むこと。ちゃんと話者の「言いたいこと」を理解すること。「言っているように見えること」ではなく。断片的な言葉尻をとらえて、文脈を無視してブチ切れても、コロナ問題は少しも解決しませんし、その人物がより立派な人物になるわけでもありません。

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