ちなみにちなみに、フランス、スペイン、イタリア、英国でのロックダウンの効果は覿面で、即座に感染を激減させたことが、のちの数理モデルで判明しています。ロックダウンのあとも患者が増え続けたイタリアやスペインでは「ロックダウンも効果なしか」といちどき、その効果を疑われたこともありましたが、感染症の対策をとってもその効果が視覚化されるのは2週間程度遅れます。この遅れのために、ロックダウンの効果は見えにくくなっていたのでした(Flaxman S, Mishra S, Gandy A, Unwin HJT, Mellan TA, Coupland H, et al. Estimating the effects of non-pharmaceutical interventions on COVID-19 in Europe. Nature. 2020 Jun 8;1–8.)。
もう一度、再確認します。欧米でも徹底的なロックダウンによってCOVID-19を激減させることに成功しています。しかし、それでも感染者、死者が非常に多かったのは、初動の段階ですでに感染者がたくさんでていたので、対策を始めたときはすでに手遅れだったのです。
一方、日本、韓国、タイ、ベトナム、シンガポール、香港、台湾、オーストラリア、ニュージーランドなどでは問題が顕在化したときには感染者数はでていなかったか、ほとんどいませんでした。韓国のように大量の患者が発生した国ですら、いそいでクラスター追跡をしたのでなんとか間に合ったのです。日本は3月下旬からクラスター追跡だけでは足りなくなりましたが、それでも手遅れなほどではなかった。
欧米と、アジア・オセアニアの違いを決めたのはこの「気づくタイミング」の違い。ここが決定的だったとぼくは考えています。
それは、察知力というより、多くの場合は単に「距離」の問題だったのかもしれません。ヨーロッパ大陸、南北アメリカ大陸からはアジアは遠いのです。遠いところで起きている問題は、深刻に、敏捷に察知しづらい。逆に、アフリカで流行していたエボラ出血熱についてはヨーロッパは日本よりも敏感に対応していました。
また、アメリカなどはトランプ大統領が早期に中国からの渡航を禁じてしまい、安心してしまったところもあったのかもしれません。実はアメリカも当初はPCR検査のキャパシティが足りなくて日本と同じ悩みを抱えていたのですが、患者数が増えすぎて検査が追いつかず、結果的に世界最大の感染者数を出した国になってしまいました(本稿執筆時点)。日本でも感染の察知が遅れていたら、同じことが起きていたでしょう。
そうです。日本がコロナの第一波を乗り越えた最大の要因は、「運が良かった」のです。アジアの文化や風土や歴史は関係ありません。
実は、日本は02年のSARSのときも運が良かった。あのときもたまたま日本にはSARS患者が渡航してきませんでした(一人渡航しましたが、何事もなく離日されました)。そのために、渡航者のいたカナダのような国内流行は経験せずに済みました。09年の新型インフルのときも、死亡率が低いパンデミックだったために大きな問題にならずに済みました。あのとき、「日本ではすぐにタミフルを使ったからよかったんだ」という意見がでて、それは厚労省の会議ですら示唆されましたが、実はタミフルを使わず「インフルになったら自宅で療養」の対応をとっていたフランスやドイツなどでも同様に死亡者は少なかったのです。起きている現象を批判的に吟味せず、情緒的に「日本はよかった」と結論づけてしまうのは、昔からの日本行政の悪いクセです。
そして、日本は韓国のようにMERSが入り込んでの院内感染も経験せず、14年のエボラ流行時も国内には一人の感染者もやってきませんでした。日本はとにかく、ラッキーだったのです。
が、ラッキーだったがゆえに感染対策が遅れたのもまた事実です。いや、ある意味、日本は長期的に見るとアンラッキーであったとすら、言えます。中国はSARSで痛い目にあったので、中国CDCを整備しました。韓国はMERSの院内感染で痛い目にあったので、検査体制や医療体制を整え、今回の新型コロナでも迅速に対応しました。日本だけがノホホンと、感染症の怖さを実感せず、感染症のリスクに晒されず、「平和ボケ」していたのです。
日本は、ぼーっとしたままでCDCも作らず、医療インフラも感染症の人材育成も不十分なままで新型コロナと立ち向かうことを余儀なくされました。N95マスクを洗濯バサミでつるし、なんどもつかいまわしているときは「竹槍で立ち向かってるみたいだよねー」と苦笑しながら言ったものです。それでも、春節アラートで早期対応が可能だったために、なんとかかんとか、ギリギリ持ちこたえたのでした。
押谷均教授は4月18日の日本感染症学会シンポジウムで、PCR検査について、「現在1日1万3000件実施できるキャパシティがあるはずだが、現実は1日4000から5000件にとどまっている」と述べ、現在の感染拡大実態に照らして検査数が不足しているとの認識を示しました(https://scienceportal.jst.go.jp/reports/other/20200420_01.html)。やはりキャパは足りなかったのです。「森を見る」戦略も、消去法によるやむなしの戦略だったのです。そして患者が増えた3月下旬以降、そのやり方も限界に至ったのです。
さて、そろそろ結論です。では、日本で第二波が発生したとき、我々は第一波よりもちゃんと対応できるのでしょうか。
答えは、もちろんイエスです。ただし、そこにはいくつかの条件が必要です。
すでに延々と論じたように、新型コロナウイルス対策の要諦は「数」です。このウイルスは数が少ないときはどってことない感染症で、そのほとんどは軽症です。しかし、感染者の数が増えると、重症患者も増え、ICUを埋め尽くし、長期のケアを必要とするこうした患者は医療崩壊を助長します。「水」がコップ一杯のときはなんでもなく、バケツ一杯でもどうということはないのですが、大雨になるとつらく、洪水になるとかなりつらく、台風や津波になると甚大な被害をもたらします。「水」同様、コロナの問題はその「量」に大いに依存するのです。
よって、大事なのは量を増やさないことです。
流行早期を見逃さずに察知する。察知して、検査して、診断し、濃厚接触者を探してモニターする。数が増える前に、抑え込む。これができれば、第二波は適切に対応できます。
そのためにPCR検査の「キャパシティ」は絶対に必要です。ただし、PCR検査をするかしないかは状況が決めます。必要があれば大量の検査を、流行が起きていなければ検査は必要ありません。ただ、それだけです。
PPEなどの医療資源にも十分なキャパシティが必要です。いざというとき枯渇しないような十分な準備が必要です。
マンパワーにも十分なキャパが必要です。中央の、地方の行政担当者、感染症の専門家が必要です。中央から指示を仰がないと動けない人ではダメで、地方にも個々に判断できる行政専門家が必須です。海外のようなCDCやdepartment of healthの整備が必要です。この話はもう10年以上前から延々と申し上げているのですがね。
臨床現場のマンパワーも必要です。ようやく、退院時のPCRも必須でなくなり、軽症者の滞在先も整備されつつあります。第一波のときよりもそうとう有利な条件は整いました。
マンパワーを増やしても、人材が無駄働きを強いられていては、疲弊は避けられません。効率化は必然です。FAXと電話という非効率、不正確な方法はHER-SYSというオンラインシステムに置換されるようです。
が、役人アルアルで、現場のことを考えずにやたら入力項目が多いために、現場の負担は大きいようです。ぼくの周辺の感染管理認定看護師の評判はすこぶる悪い。
そもそも、入力項目が多いと、誤入力の可能性は増え、入力の遅れが生じ、遅れによりさらに入力の正確さは下がります。アンケートでもそうですが、入力項目が増えると情報は雑になります。みなさんも、5項目評価の質問がやたら多いと「とりあえず、みんな3に入れとけ」になりません?(ぼくはなります)。
これじゃ、意味のない情報がやたら大量生産されるだけになります。その昔、厚生労働省はA-netという悪評高いエイズ患者の情報管理システムを作りました(https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/a-net/tp0114-1_12.html)。これはものすごくユーザー的には使いにくかったので、情報は入力されず、情報の入っていないデータベースはただの「箱」となって、そのまま消滅してしまいました。情報収集システムは活かせるように「仕組み」を作らないと、死んでしまうのです。
というように、第二波をベターに乗り切るにはそれなりの諸条件が必要です。が、1918年の「スペイン風邪」ときと違い、その条件を整え、第二波をミティゲートする可能性は高いとぼくは思います。いまや、何をやれば上手くいって、何をやれば失敗するかはほぼ明らかなのですから。いや、第二波の発生そのものも事前に防止することだって不可能ではないかもしれません。小さなクラスターの断続のレベルで抑え続けるのです。
もちろん、地球規模でこのコロナウイルス問題を完全に克服するのは不可能でしょう。そして、「new normal」といわれる新しい生活様式に移行するのも避けられない運命だと思います。
それでも、ロックダウンとか緊急事態宣言といった「最後の手段」を回避できるだけでも、第二波回避のメリットはとても大きなものです。このメリット、大きいですよね。このメリット、享受したくはありませんか。ぼくはしたい。第二波なんて、来てほしくない。
だから、上述の条件を全部満たすことがとても重要になります。そして、今の日本になら、すべての条件を満たすことは可能です。
満たす覚悟さえ、関係諸氏が持ってくれれば。
記事
- 2020年06月23日 16:11
なぜ、国ごとに差が出たのか。そして第二波がどうなるか。
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