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なぜ、国ごとに差が出たのか。そして第二波がどうなるか。

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 少し話は横道にそれますが、韓国の「ドライブスルー」方式を見て、「ちゃんと検査するたびにPPEを着替えなければダメじゃないか」と非難していた「識者」がいました。

 これは、PPEの本質、あるいは感染防御の原則を知らないことからくる誤謬です。ちゃんと勉強せずに「にわか」で理解するから、間違うのですね。

 確かに、病院でPPEを着るとき、、、、たいていや薬剤耐性菌対策とか、(いわゆる)偽膜性腸炎患者なんかに使うのですが、、、患者を見たあとは、PPEを脱ぐのが基本です。PPEにくっついた菌が他の患者に伝播するのを防ぐためです。

 しかし、エボラとか新型コロナウイルス感染では、全く考え方を変えなければなりません。

 どうしてかというと、PPEを着けている医療者そのものも感染リスクがあるからです。そして、その感染リスクは堅牢なPPEを着けているかどうか、ではなく、「着脱」作業中に起きることが多いのです。この話は「シューカバー」のところでちょっとしましたね。シューカバーを着けると、その着脱の手間が増えるために、シューカバーをしないよりもより感染のリスクが増してしまいます。

 大量の方が押し寄せるドライブスルー(大量の人が押し寄せるようになったからこそドライブスルーなわけで、たまにしか人が来ない状況下ではドライブスルーの設置なんて不要ですね)、で一人の人を検査するたびにPPEを脱いだり着たりしていたら、医療者の感染リスクはダダ上がってしまいます。まあ、手袋を取り替えるくらいなら許容範囲かもしれませんが、それも患者さんの体に触れなければほとんど「意味がない」。患者さんに触らない状況を維持したままで、検体を取り続ければよいのです。防護服(PPE)からウイルスは飛び出してはきませんから、、、、

 PPEがなにをやっていて、PPE自体にどういうリスクが内在しているか。そういう「原則」をちゃんと「理解」していれば、こういう勘違いは起きないのです(Honda H, Iwata K. Personal protective equipment and improving compliance among healthcare workers in high-risk settings. Curr Opin Infect Dis. 2016;29(4):400–6)。しかし、原則を「理解」せずに、「病院ではこうなってた」「普段はこうしている」という「体験記憶」や、「教科書にはこう書いてあった」という「知識記憶」だけを頼りにすると、こういう応用問題が解けなくなるのです。

 西アフリカでエボラ対策していたときも、特定医療機関で新型コロナウイルス感染対策をしていたときも、ぼくはPPEをいかに着ずにすむか、脱がずにすむか、に腐心しました。これはPPEの着脱そのものが感染リスク、という基本知識と経験があったからです。が、この話はゾーニングのときにもう少し詳しく説明します。

 さて、Our world in Dataによると、2月25日の時点で、韓国は人口100万人あたり毎日100件近く検査していました。当時としては世界ダントツの検査数です。同時期の日本は100万人あたりだいたい1件で、全然違います。しかし、このとき韓国では人口100万人あたりだいたい毎日1人程度の新規感染者を見つけていました。同時期の日本では0.1人でした(https://ourworldindata.org/coronavirus-testing)。

 日本の検査数は圧倒的に少ない。が、感染者数もやはり少なかったのです。一方、韓国では患者が激増していました。患者が多ければ、検査は増えるのは当たり前なのです。

 ちなみに、6月22日の段階では、日本のそれは82件、韓国は218件。まだ差はありますが、その差はあまりなくなっています。日本はようやくPCR検査のキャパシティが上がってきたからです。

 この話は何度もしていますが、韓国と日本では、新型コロナの検査対策戦略にはほとんど違いはありません。患者が出れば検査し、その周辺も検査する。ただ、韓国は患者が激増しており、日本の患者は非常に少なかった。検査数の差はその「結果」に過ぎません。 韓国でPCR検査を行った場合の陽性率は0.4%です。しかし、日本のそれは0.6%にすぎないのです。

 確かに、日本はPCR検査のキャパが当時少なかったので、検査に抑制的な態度は示していました。しかし、そのような現実的な制約とは別に、日本には感染者自体が韓国よりずっと少なかったのです。検査ができなかった、という現実的な事情もありましたが、検査をする必要もなかった、のです。

 ちなみに、ぼくがお手伝いしている兵庫県の指定医療機関でも、患者が激増した時期にはドライブスルー検査体制を作りました。病院の外でPPEを着た職員が待っていて、保健所から依頼された方が車で乗り付けてそこで検査をするのです。最初は陰圧個室に案内してそこで検査をしていたのですが、いちいち導線を気にして個室まで人を誘導するより、ドライブスルーのほうがずっと楽だったのでした。感染者が増え、検査の必要性が増えたらドライブスルーは合理的な判断です。韓国も日本もありません。ちなみに、兵庫県のその病院でもPPEの着脱は全然してませんでしたよ。

 繰り返しますが、検査数は状況が生み出す「結果」です。目的ではありません。感染者が多ければたくさん検査をする。感染者が少なければ検査は多くは要らない。感染者がいなければ、検査そのものが不要です。

 検査そのものが不要、というのは「検査のキャパは不要」という意味ではありません。火災報知器はどこでも必要なのです。ただ、それをジャンジャン鳴らすのはナンセンスだ、ということです。

 押谷教授の検査抑制作戦は、PCRが足りないという現実的な制約から来るやむを得ない判断でした。が、当時の日本では感染者が非常に少なかったので(中国からのチャーター便、ダイヤモンド・プリンセスを除く)、そもそも検査のニーズがありませんでした。火災報知器は足りなかったけど、ジャンジャン鳴らす必要もなかったのです。

 そして、少数のクラスターを見つけ、封じ込めることで日本は3月下旬まで非常に上手に感染対策をし続けました。

 ただし、その対策は非常に泥臭く、効率の悪いものでした。保健所を介さないとできない検査(抑制してたから)。電話とFAXという非効率、かつ不正確な伝達方式。患者とクラスターが非常に少ないときはよかったですが、神戸市・兵庫県のように同時に複数のクラスターが発生したりすると現場は大混乱に陥りました。

おまけに、軽症者・無症候者も病院で入院していなければならない、退院には2回のPCR陰性が必要という「謎ルール」のために(後に両者は撤廃されるのですが)、経過の長いCOVID-19患者で指定医療機関はあっという間に一杯になってしまいました。これで医療従事者の疲弊はさらに増しました。

さらに物品不足が祟りました。ディスポーザルのマスクが足りなくなり、本来は捨てねばならないマスクをリユースするようになります。ガウンが足りなくなり、病院によってはゴミ袋を切り裂いてガウンの代わりにしていました。そのような不満足な防護具のなかで、院内感染が複数発生し、大量の医療従事者が隔離、入院、自宅待機となりました。

外来や入院の差止めが行われ、あぶれた患者を受け入れたためにCOVID-19を見ていなかった周辺医療機関も非常に多忙になりました。

 3月下旬から、特に東京でクラスター追跡では追いつけない感染者が見つかるようになりました。検査抑制、クラスター追跡という「後から追っかける」方法では間に合わなくなるのです。そのため、日本は「緊急事態宣言」という「先回りする」方法を選択せざるを得なくなりました。

 この4月上旬の段階で、日本の複数の地域では「医療崩壊一歩手前」だったのです。

押谷教授は「小さな感染はある程度見逃しがあることを許容することで、消耗戦を避けながら、大きな感染拡大の芽を摘む」と言いました。しかし、実際には日本の医療現場、公衆衛生の現場(保健所)で起きていたことは、消耗戦以外の何物でもなかったのです。

 もしPCR検査のキャパが十分にあれば、保健所を介することを義務化した検査の抑制と非効率な伝言ゲームは回避できていたことでしょう。防護具が十分にあれば院内感染リスクも軽減できていたはずです。そもそも、入院患者を具体的に減らす方法はあったのに、ここをいつまでも看過していたのも大問題でした。

 日本は伝統的に、(前線の)人とモノを大事にしません。ノモンハンやインパールを例に上げるまでもなく、現場の人間をこき使って、疲弊させ、消耗させ、そして物資が足りなくても精神主義で我慢させるのです。

しかし、このような悪しき精神主義では正しい感染対策はできませんし、事実日本の医療現場は消耗しました。日本人の歴史と文化で感染症と上手く対峙できた、などという押谷謎理論はぼくにはまったく理解できません。あれにメロメロになって、感動してしまう人がたくさんいることは理解しますけど、それは日本の悪しき「物語主義」です。事実を無視したり、歪曲して、自分が気持ちよくなるような「物語」に事実を擦り寄らせてはいけません。

 そもそも、天然痘と共存する諦観なんてアジアのどこの文化にもありませんよ。それを諦めていたのは、昔は諦める以外に手段がなかったからです(西洋も同様です)。が、天然痘はワクチンで克服できることが分かり、日本も含め、アジアのすべての国でもこの病気を撲滅せんと全力を尽くしました。そして、現在はアジアのみならず、世界中から天然痘も撲滅されています。同様に、ポリオもワクチンで撲滅しようとしています。ヒトパピローマウイルスが原因の子宮頸がんも撲滅目標の「感染症」で、世界中がワクチン接種でこの忌まわしい病気を克服しようとしています。日本を除けば。

 そして、新型コロナについても多くのアジアの国は「諦めたり」しませんでした。徹底的な感染防御体制をもって、中国でも韓国でもタイでもベトナムでも、多くのアジアの国で新型コロナウイルスの少なくとも第一波は克服しようとしています。この感染症を「諦めた」のはいっときの英国とブラジル、そしてスウェーデンだけでしたが、これらの国が感染対策をしくじったのは皆さんご存知のとおりです。

 さて、ではこのようなアジアの国々やオセアニアの国(オーストラリア、ニュージーランド)はどうして、欧米諸国よりも感染対策が上手くいったのか。それは、これまで検討したように、文化や習慣、BCG、PCR抑制といった理由ではなさそうです。

 確定的な証拠はないですが、状況証拠から一番プラウジブルな理由は、

「スタート地点が違っていたから」 

というものです。

日本は、隣国の中国で武漢の肺炎が流行していたことを知っていました。春節が近づいていて、春節が来れば多くの中国人が大挙して日本各所を訪れることも熟知していました。その中に感染者がいて、日本で感染者が発生、流行することも危惧していました。しかし、世界保健機関(WHO)は国際間の渡航規制には賛成せず、日本政府も中国からの渡航を容認しました。感染危惧はさらに高まったのです。

 そして、日本では各地で散発的なクラスターが発生しましたが、それを追跡、捕捉することに成功し続けました。PCR検査抑制下でこれが可能だったのは、単純に患者数が少なかったからです。韓国のように短期間に大量の患者が発生していたら、このような追跡・捕捉は不可能だったでしょう(事実、ダイヤモンド・プリンセス号ではタイムリーな追跡は不可能でした。単に船内に隔離していたから、船外に感染が拡大しなかっただけです)。

 患者が少なかった。これが日本の対策がうまくいった最大の理由。これがぼくの推測です。

 韓国や中国ですら、感染者の数は比較的限定的でした。よって、徹底的な検査や隔離、街のロックダウンといったアグレッシブな対応で、アジア・オセアニアの各地では感染症を抑え込むのに成功したのです。

 一方、ヨーロッパ各国やアメリカ合衆国では初動が遅れました。対策スタート時点で、すでに大量の感染者が発生していたのです。

 フランスでは、2019年12月の段階ですでに新型コロナウイルスによる肺炎患者が発生していたことが分かっています(France’s first coronavirus case “was in December.” BBC News [Internet]. 2020 May 5 [cited 2020 Jun 23]; Available from: https://www.bbc.com/news/world-europe-52526554)。

ヨーロッパの流行は、その流行に気づくずっと前にすでに始まっていたのです。したがって、新型コロナ感染の存在に気づいたときにはすでに大量の感染者が発生していたことでしょう。よって、日本のように「あとから追いかける」クラスター追跡はとても間に合わない状況でした。だから、「先回りする」ロックダウンを選択せざるを得なかったのです。アメリカの東海岸も同様のことが起きたものとぼくは推測します。

 ちなみに、ロックダウンそのものは非常にパワフルな感染対策法です。なにしろ、感染症は感染経路を遮断すれば確実に伝播はしなくなりますから。感染経路の存在しない感染症の流行はありえないのです。

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