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(音)そんなに売れとらんの?
(裕一)もっとみんなに聴いてほしいんだけどな~。
いい曲なのにね。うん…。
ねえ 契約金って本当に返済しないといかんの?うん。
いつもの脅しじゃなくて?
今度は 本気。
どうしよう…。
安心して。 なんとかすっから。
なんとかするって どうやって?
と… とにかく なんとかすっから音は稽古のことだけ考えて。
今 頑張り時でしょ? 気を付けてね。
「なんとかする」と すぐ言っちゃうのが古山家の悪い癖です。
行ってきま~す!
♪~
♪「泣いて 生まれて 響く命」
♪「きっと嬉しくて 笑っているんだ」
♪「僕らはきっと 出逢うでしょう」
♪「手を引き 背を押し 出逢うでしょう」
♪「きっといつか今日の日も意味を持って ほら」
♪「耳をすませば」
♪「星の見えない日々を 超えるたびに」
♪「互い照らすその意味を知るのでしょう」
♪「愛する人よ」
♪「親愛なる友よ」
♪「遠くまで 響くはエール」
とは言ったものの…。
(鉄男)いい曲なのにな~。
(藤丸)きっと私のせいです。私が下駄屋の娘だから。
(久志)それは関係ない。
元気出して。
んっ! 契約金返したら 一文無しだよ。音の学費だって 1年以上残ってんのに。
僕も おでん屋 手伝おうかな?おでん屋 なめてもらっちゃ困るな。
自分だって 成り行きで始めたくせに。はあ?
ごめんね。
近えな おめえ。 …まあいいや。
ド~ン!
・♪~(歌声)
ああ… ああっ あっ… ああ…。
どうしよう…。
(環)今度は どこを悩んでいるの?先生。
あっ… ここの半音階と…。
あ~ ここ 難しいわよね。
それと… 我が家の財政について。えっ?
主人の契約が打ち切られるかもしれないんです。
新しいレコードが全然売れてなくて。
あら…。
いい曲なのにどうして売れないんだろう?
あっ…。
これです。
「船頭可愛いや」。
環先生 もしよかったら聴いて頂けませんか?
♪「船頭可愛いや」
♪「波まくら」
♪~
ど… どうですか?
とってもいい。
ああ… よかった~!
ありがとうございます。
環先生が褒めて下さったって主人にも伝えます。
今 すごく気落ちしてるからきっと喜びます。
環先生?
ねえ… この曲…私が歌ってもいいかしら?
あの それは どういう…?
私が この曲を歌ってもう一度 レコードを出すの。
えっ?
(保)ここがね…。そうそう そうそう…。
あっ 背広着た方がよかったかな?あ~ どうかな?
えっ もう… もう来る?ちょちょ… ど… どう どう?
あっ 曲がってるかな? これも。まだまだ まだ大丈夫。
どうしようかな? えっ?
あっ!
ああっ あっ あああ…。
あ あの… はじ… 初めまして…。
双浦です。 初めまして。
うれしい…。
大体のことは奥様から聞いてらっしゃるかしら?
はい。 あの… ま ま… まことに まことに光栄に あの 思いますけど…ど ど ど… どうして…?
「船頭可愛いや」が大変すばらしい曲だからです。
あっ…。(環)西洋音楽をベースにしながら流行歌としての親しみやすさも兼ね備えている。
これが 評価を受けないなんて日本の音楽業界は後れていると感じました。
私が オペラの世界で広く認めてもらえるようになったのもプッチーニが 私を見つけてくれたから。
私は… いい音楽を広めたい。
あなたの音楽を大勢の人に届けたい。古山さん。はい。
私に歌わせて頂けますか?
も も… もちろんです!よ… よろしくお願いします!
℡
(廿日市)ええっ!? あの双浦 環が!?
社長… あの 世界の双浦 環ですよ!話題性 抜群!
絶対に売れます! 間違いありません!
わ… 私からも お願いします!
是非 もう一度 双浦 環さんの歌声でろ… 録音させて下さい!
どうか ひとつ!(専務)双浦 環が歌うってことは青レーベルから発売するということか?
(販売部長)そうなりますね。
赤レーベルの作曲家が作った曲を青レーベルの歌手が歌うというのはどうなんだろうね?
世間は 赤とか青とか気にしませんって!
(社長)世間は ともかく… 小山田先生がね…。
えっ?
えっ 許さん? 小山田先生が?何で あの人が口挟むの?
いや 先生は青レーベルの中心人物だからって会社の上の人が お伺い立てたらしい。何? それ。
いや 会社も先生の機嫌 損ねたくないみたいだし廿日市さんもすっかり おとなしくなっちゃって…。
じゃあ 環先生は歌わせてもらえんの?
あの… う~ん…。
許さん。 私 行ってくる。
いやいや いやいや…ちょっと落ち着いて。
ねっ? ちょっと…。
古山さん。うん?
私に任せて。
(小山田)君が訪ねてくるのは珍しいな。
お忙しいところ 突然すみません。
…で 何かな?理由をお聞かせ下さい。
理由?「船頭可愛いや」の件です。
なぜ 反対されていらっしゃるのか。
フフッ… そんなことは説明しなくても分かるだろう。
青レーベルは西洋音楽赤レーベルは流行歌 それがルールだ。
でも 小山田先生も赤レーベルで曲を書かれていますよね?
青レーベルの私が 赤で書くのと赤レーベルの新人作曲家が青で書くのと わけが違う。
身の丈があるだろう。
赤とか青とか その区分はそんなに こだわるべきものですか?
だったら なぜ 君は あの男にこだわる?
コロンブスのお荷物だぞ。
その古山さんをコロンブスレコードに推薦したのは 小山田先生ですよね?
その目…。
私 その目を見たことがあります。
ドイツにいた頃 先生と同じ目をした芸術家たちをたくさん見ました。
彼らは皆 自分の立場を脅かす新しい才能に敏感です。
フッ… バカバカしい。
だからさ~もう 俺を巻き込まないでくれよ。
僕が ディレクターやるって言ってたじゃないですか。
状況が状況だからさ…。
そりゃあ 悩みますよね。
環先生のレコードを出せば 小山田先生にけんかを売ることになりますしそれで もし当たらなかったら廿日市さんもクビになっちゃうかもしれませんし。
音。でも もし当たったら…。
そりゃ まあ… でかいわな。うん。
(環)ええ そのとおりです。
え~! 何? 本物!?
上の機嫌をとって 今いる場所を守るか勝負に挑んで 大きな利益を得るか。
どちらになさいますか?
お前らに関わったら 面倒ばっかりだよ…。
双浦 環が歌謡曲を歌う。
発売前から大きな話題となりました。
あ~ 気持ち悪い…。頼むよ~ 売れてくれよ~。
よし いこうか。(小田)はい。
♪~
♪「夢もぬれましょ」
♪「潮風夜風」
♪「船頭可愛いや」
♪「エー 船頭可愛いや 波まくら」
♪~
廿日市の決断は…。
当たりました!双浦 環版の「船頭可愛いや」は発売されるやいなや 大ヒット。
相乗効果で 藤丸版も売れ行きを伸ばし裕一のメロディーが街じゅうに流れるようになったのです。
そして…。あ~ すごいね!
今日ね 環先生に褒められたの。ほう!
声が伸びるようになってきたって。
地道な特訓の成果だね。絶対 いい舞台にする。
楽しみだな~ 音のヴィオレッタ!
(恵)最近 何だか 調子悪そうだけど…。
何か ムカムカするんですよね。
月のものは?
あれ?
もしかして 音さん…赤ちゃん できたんじゃない?
えっ?