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(三郎)うっ!
(音)大丈夫ですか?ちっと… 飲み過ぎたな。
(浩二)父さん もう長くねえんだ。
胃がんだって。
父さんの前で そんな顔 絶対にすんなよ。
♪~
♪「泣いて 生まれて 響く命」
♪「きっと嬉しくて 笑っているんだ」
♪「僕らはきっと 出逢うでしょう」
♪「手を引き 背を押し 出逢うでしょう」
♪「きっといつか今日の日も意味を持って ほら」
♪「耳をすませば」
♪「星の見えない日々を 超えるたびに」
♪「互い照らすその意味を知るのでしょう」
♪「愛する人よ」
♪「親愛なる友よ」
♪「遠くまで 響くはエール」
いててて… いてててて…!
ちょっ… もっと優しく触ってくれよ。
三郎さん 昨日も酒飲んだんだって?駄目だよ。酒飲まねえと健康かどうか分かんねえ。
(まさ)おとうさん。
絶対安静 酒は厳禁。 いいですね?
(あくび)もう一眠りするわ。
昼飯出来たら 呼んでくれ。 なっ?
はい。
とにかく 今は なるべく体力を温存して無理はさせないようにして下さい。
食事も 消化のいいものを。はい。
(裕一)あの… 手術はできないんですか?
難しいです。
あの状態では手の施しようがありません。立って歩いてんのが不思議なぐらいなんです。
気だけで もってるようなもんですから。
覚悟はしておいて下さい。
はい。
・父さん 入るよ。おう 入れ。
どした? しけた面して。 ヘヘヘ。
もともと こういう顔だよ。
暇だろうと思ってさ…。
何か 食べたいもんとかねえの?
ハーモニカ。うん?
久々に聴きてえな。
おめえが商業学校時代に作った曲なかなかよかった。
ごめん。 持ってくればよかったね。
ハッハッハ! 大作曲家はハーモニカなくても作曲できっからな。
いや そんなんじゃねえって。ハハハ…。
入りますよ。
おうどん 出来ました。おお…。
おっ うまそうだな。
裕一さんの分も持ってきたよ。ありがとう。
よ~し 頂きます。
ああ…。
どう? おいしい?
私が だし作ったんです。
いまひとつだな。 うん…。
えっ? また…。
い… あっ おいしいよ。すごく おいしいよ。
ゆっくりね。うん…。
食べてるよ ほら。いまひとつだな こりゃ。
何でよ。
(浩二)お願いします。 畠山さんの桑畑を是非 果樹園にして頂けませんか?
(畠山)何べん来たって答えは同じだ。ここいらは養蚕業で成り立ってんだ。
あんたら役所の人間だってお蚕様って ありがたがってたくせに今更 商売替えろだと?
でも 養蚕業じゃ やってけねえってお二人だって分かってんでしょ?
実際 廃業に追い込まれた同業者増えてんです。
一体 何 育てさせたいの?
りんごです。
りんごなんて もっと寒いとこじゃないと育たないんでねえの?
確かに 南で りんごを栽培するのは難しいとされてます。
でも ここ 福島なら問題ありません。
むしろ 気温差 調べっと福島の方が適してると言える。
例えば この地域でりんごを栽培した場合りんごの花が咲くのが青森より3週間ぐらい早くなります。
だからって さっさと時期 終わっちまったら意味ねえべ!
いや でも 専門家の先生が言うには福島なら 年の暮れまで収穫が可能らしいんです。
長い時間かけて熟した りんごはほかの地域で作った りんごよりも甘く栄養価も高くなるって。
そんなの全部 絵空事でねえの?
絵空事かどうかはやってみねえと分かりません。
市からの援助も取り付けますから。
あんた… なして そげな賭けみてえなことやりてえんだ?
うまくいかなかったら責任取れんのか?
それは…。
そだ覚悟のねえやつに先祖代々受け継いできた土地を使うわけにいかねえ。
さっさと帰ってくれ。
分かりました。 これ…。
今日は これで失礼します。
おう! そういや あんたんとこの兄貴「船頭可愛いや」の作曲家なんだって?今度 来っ時は兄貴のレコードぐらい持ってこ!
また来ます。
(障子が開く音)
怖いの…。
いつ おとうさんが… って思ったらすご~く… 怖いの。
川俣のことで苦労かけてきたからかな… とか。
どうして もっと早く気付いてあげられなかったのかなって…。
おんなじことばっかし頭ん中で ぐるぐるしてんの。
♪~
(泣き声)
父さんのことさ…何か 僕らにできっことないかな?
東京の大きな病院 連れてくとか。
汽車に乗るのは体に障るんじゃない?
着くまでの辛抱だよね?
こんな田舎の医者じゃなくてもっと腕のいい先生に診てもらえば手術だって できっかもしんない。 ねっ?
お義母さん 泣いとったの。
お義父さんの前では一生懸命 振る舞っとるけどずっと つらかったんだと思う。
うっ! うう… ううっ!
うっ うっ… ううっ うう… うっ。
よかったね。
母さん。うん?
これ… やっぱ受け取ってくんないかな?
あなたたちだって これからが大変でしょ? 華ちゃんだっているし。
いや…。私たちの滞在費でもあるので お気にせず。
母さん 本当に。
じゃあ… ありがたく頂きます。
ただいま~。
また 母さんに 擦り寄ってたのか。
そんな言い方しないの。 裕一は…。
母さんは黙ってて。
こんなもの要らねえって言ったろ?
いや ほら 今 いろいろ大変だろうしさ父さんのことも 僕に できっこと…。兄さんの手助けはいらねえ。
ねっ… こ… 浩二 浩二 ちょっと…。
僕に頼りたくないのは分かんだけどさ父さん このまま ほっといたら本当 大変なことになっから…。
兄さんは何も分かってねえ。
俺らだって やれっことは全部やってきた。
金 工面して福島で一番いい先生に診てもらってそれでも駄目だったんだ。
いっつも自分の感情ばっかで動きやがって。
兄さんはな…もうとっくに家族じゃねえんだよ!
・(足音)
騒がしいな おい。何でもないから ゆっくり休んでて。
目 覚めちまったよ。いいがら 横になってろよ。
おい 裕一 飲み行くぞ。(まさ)駄目よ!はあ?
ぼけっとすんな ほら。 ハハッ。
いやいや 父さん…。先生に止められてんだろ?
大事な話があんだよ! ほれ。
父さん ちょっと… ねえ 大丈夫?
裕一さんがついてますから。
♪~
みんな 心配してるよ 父さん。
♪~
父さん 帰ろう。
裕一… 俺は もう駄目だ。
みんな 必死に ごまかしてっけどそれぐれえ分かる。
な… 何の話?
その顔…おめえ ちっとも変わってねえな。
おめえに承諾してもらいてえことがあんだ。