ジャパンディスプレイ(JDI)は9日、経営再建策を発表した。工場再編や全社員の3割にあたる約3700人の削減を伴う構造改革を実行する。東入来信博・会長兼最高経営責任者(CEO)は経営に参加して4カ月で「出直し計画」をつくった。それでも単独での生き残りは難しい。赤字体質にメスを入れた後は、提携相手探しが次の焦点になる。
4月上旬、千葉県内のホテル会議室。JDIの経営幹部10人ほどが東入来氏を囲んでいた。手元には数十ページの資料。部長級180人を対象に実施したアンケートの集計結果がまとめられていた。
「固定費を下げなければ利益は出ない」「意思決定の階層が多すぎる」アンケートには経営陣への不満が並ぶ。具体的な改革案の提案もあった。東入来氏は「やっぱりな」と感じていた。
2012年に日立製作所と東芝、ソニーの液晶事業を統合して誕生したJDI。部長級は日本の電機産業が輝いていた1990年前後に入社した世代で「個で見れば優秀な人材ばかり」(東入来氏)。その上で東入来氏は「肝心のマネジメントが欠落していた」との思いを強くしたという。
■経産省を口説く
JDIが15%出資する有機EL研究開発会社のJOLED(ジェイオーレッド)。同社の社長を兼任しながら、4月にJDIの副会長になり、6月に会長兼CEOに就任した東入来氏。着手したのが構造改革の策定だ。しかしリストラをするにもカネが要る。資金繰りに苦しむJDIは再建に動くこともできないほど資金不足の状態だった。
「このままでは立ちゆかない。潰れてもいいんですか」。まず東入来氏が口説いたのは経済産業省だった。筆頭株主の産業革新機構を飛び越えて経産省幹部にJDIの現状を訴えた。経産省側も経営危機さなかのJDIのトップに就いてもらった負い目もある。さらに東入来氏には昨秋の「借り」もあった。
16年10月の家電・IT(情報技術)見本市「CEATEC(シーテック)ジャパン」の懇親会。安倍晋三首相は会場に並べられた有機ELパネルに見入っていた。「奥行きが再現され美しいですね」。首相の言葉を満足そうに聞いていたのが経産相の世耕弘成氏だった。
このとき、東入来氏が社長を務めていたJOLEDは、経産省の依頼を受けて急きょ京都市の研究所から高精細パネルの試作品を運び入れた。新型ディスプレーの技術力を内外にアピールしたい経産省の思惑は果たされ、東入来氏と経産省幹部のパイプも太くなった。
■革新機構は距離
ただ革新機構の事情は違う。JDI設立を主導した幹部も4月末に退職しており、「いち早くJDI案件から手を引きたい」(関係者)という立場。昨年末に750億円の資金支援を「これで最後」と明言した手前、直接的な支援はできない。東入来氏の支援要請に対し、間接的な債務保証を用意した。巣立ちのための「支度金」だ。
革新機構の債務保証を得て主取引銀行から1100億円の新規融資枠を得たJDIは、リストラ策を打ち出し、赤字体質に大ナタを振るう。
事業構造の転換も急務となる。受注変動の激しいスマートフォン(スマホ)向けパネルに依存していては安定的に収益を稼げない。何度も「スマホ依存からの脱却」を掲げたが、8割超のスマホ向け比率を一向に下げられていない。
東入来氏は9日の記者会見で「非スマホ事業の拡大に鋭意取り組み、売上高比率で50%まで高める」と話し、車載や産業機器、さらに新規事業に注力する考えを示した。
液晶から有機ELへとディスプレー産業の転換点にも直面、液晶一辺倒だった製品ラインアップの見直しも急務だ。だが有機ELは韓国サムスン電子が独走している。
そこでJDIは外部との連携も模索する。構造改革に伴って大幅に毀損する株主資本を回復させるために外部企業の資本参加も検討する。東入来会長は「有機ELの設備投資での連携や(資本注入を意味する)財務投資という話もある」と述べている。18年3月までに提携先を決める考えだ。