東京の耐えられない過密さ 加速する人口流入
2020年6月25日 05時50分
1400万人を突破した東京都の人口。満員電車など一極集中の弊害はかねて指摘されてきたが、「密」の回避が叫ばれるコロナ禍でも流入に歯止めがかからない。人口急増中の江東区から見えてくる、過密都市に必要な対策とは何なのか。(石井紀代美)
国土交通省の調査(2018年度)で混雑率199%と、日本で最も混んでいる路線となった地下鉄東西線木場―門前仲町間。門前仲町駅前の大通りに面した一画でスポーツ用品店を営む荒井昇さん(87)は「朝は人通りがとにかくすごいよ。多すぎて、道を横切れないぐらいだ」とため息をつく。
近くの職場に勤める会社員の石原聖也さん(25)は「今はコロナでそれほど混んでいないけど、それでも人と肩が触れる程度。コロナ前は本当にひどかった」と振り返る。3駅離れた南砂町駅から東西線に乗るが、自力で乗り込むのが困難で駅員に押し込んでもらうのが常。下車の際はドアが開いた瞬間、どっと人があふれ出し、流れに身を委ねながら降りるという。
「今はコロナで時差出勤が進んできた。政治家は、コロナ後も会社側に工夫を促すような対策を打ってほしい」
実際、東京への人口流入は近年加速傾向だ。国内でコロナの感染が拡大した4月でさえ、約2万人の転入超過だった。都人口統計課の間船芳秋課長は「予測を上回るスピードで増えている」と語る。
木場、門前仲町の両駅はいずれも江東区にある。同区の人口は1998年以降右肩上がり。区企画課の油井教子課長は、地下鉄有楽町線沿いの豊洲や、ゆりかもめ沿いの有明地域でタワーマンション開発が進んでいることを挙げる。「まだ開発が終わっておらず、この先の10年であと5万人は増えると推計している」というから大変だ。
人口が増えれば、電車が混雑するだけでなく、学校や保育所の需要が増え、待機児童問題なども深刻化する。前出の荒井さんは「人も経済も一極集中で、家賃や固定資産税が異常に高くていびつでしょ。政治が何とかしないといけない問題じゃないか」と注文を付ける。
だが、安倍政権は、東京一極集中の是正を目指し「2020年時点で東京圏から地方への転出・転入を均衡させる」との目標を達成できていない。
明治大の安蔵伸治教授(人口学)は「東京は良質な高等教育機関、大企業など地方にないものがある。人を吸い込むブラックホールだ」と説明する。進学や就職で地方から出てきた人たちは、そのまま住み続ける傾向が強い。「政治が規制して東京に来ないようにしたり、分散させたりするのは非常に難しい。地方が魅力を高める以外にない」と指摘する。
人口流入を止めるのが難しいとすれば、どんな対策が必要になるのか。札幌市立大の丸山洋平准教授(地域人口学)は「政治ができることは一極集中で今後起こる社会問題に対応することだ」と話す。東京への転入者で目立つのは20代の若者で、結婚を選択しない人も多い。
「ちょっとした買い物や入浴支援などの介護需要、孤独死が増える。これまで家族が担っていた問題に、行政がどう対応するかが課題だ」
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