個性豊かな 8 人の“激嬢”が主宰する演劇ユニット・激嬢ユニットバス。 2014 年の旗揚げ以来、着々とファン層を広げ、順調にステップアップを重ねる彼女たちの次なる挑戦が、第 4 回公演『緋色の刻印』だ。作・演出は、ユニットメンバーの南かおり。これまで本公演では、外部の劇作家・演出家を迎えてきた彼女たちにとっては、新たな試みと言える。その新境地の裏側には、激嬢たちの演劇にかける飽くなき情熱があった。
さらなる成長を目指して。念願の殺陣芝居への挑戦。
――― 激嬢ユニットバス、通称ゲキバスは、女優 8 人による演劇ユニットだ。これまで女優一筋だった南が作・演出にチャレンジしたのは、ある出来事がきっかけだった。
南「今年のはじめに、サンモールスタジオさん主催の新年イベントにみんなで参加したんですけど、何にも入賞することができなくて。自分たちの何が足りなかったのか反省会を開いたんです。ユニットとして成長していくために必要なことは何か。話し合う中で見えてきたことは、一度、カンパニーですべての役割を担ってガチで勝負をすることでした。そこで、私が作・演出をやってみたいと手を挙げたんです」
――― そう語る南は、もともと浅香光代のもとで修業を積んでいたキャリアを持つ。浅香と言えば、女剣劇の代名詞ともいえる女優。南自身も、和物の芝居に対する憧れは強い。
南「いつか女性がメインで立ち回りを演じる時代劇がやってみたいなとは思っていたんです。メンバーの中にも殺陣をやってみたいと言ってくれる子が多くて。せっかく女 8 人のユニットだし、自分たちの成長も兼ねて、これまでやったことのない殺陣芝居に挑戦しようと決めました」
――― 本作の舞台は戦国時代。生まれ育った村を何者かに焼き払われ、両親を失った 3 人の女性が悲しみの底から立ち上がり、戦うことを決意するところから物語は動き出す。その中で、さらわれた主人公の妹を演じるのが、演劇女子部の石井杏奈だ。
南「強く儚いヒロイン的なポジションの役どころを誰に演じてもらえばいいか、ずっと考えていたんですね。そんな時、メンバーから推薦されたのが杏奈ちゃん。去年、今井、うえのやま、傳田が『サンクユーベリーベリー』で杏奈ちゃんと共演して、すごく素敵な女優さんだったと口を揃えて推薦するんです。みんながそこまで言うんだから間違いないと思って、お会いする前に出演のお願いをしました」
――― 南自身が初めて石井と対面したのは、フライヤー撮影のとき。その瑞々しい存在感に、たちまち惹きつけられた。
南「杏奈ちゃんは立っているだけで内にあるものがにじみ出てしまうんです。大人になると、みんなそういうものを隠しちゃうと思うんですけど、まだ 10代の杏奈ちゃんにはそれがない。パッと見は純粋な少女なんですけど、カメラの前に立つと別人のようにスッと変わるところが魅力的ですね。杏奈ちゃんには劇中、歌もうたってもらいます。演技はもちろん、そのあたりも楽しみにしていただければ」
多彩な才能が集結し、新しい時代劇をつくり上げる。
――― 客演陣も豪華だ。「今回は女性が着飾れない分、男性に華のある人が必要だった」と南が指名したのは、数多くの時代劇出演経験を持つ重住綾。主人公たちに深く関わる謎の男を演じる。
重住「ゲキバスの 8 人はとにかく個性が強い。外見からキャラクターがにじみ出ていますよね。彼女たちが時代劇をやるとなるとどうなるのか僕自身も興味があるし、そこに自分が飛び込むことで何か化学反応のようなものが生まれたら面白いんじゃないかと思っています」
――― また、立ち回りに欠かせないのが、殺陣師の存在だ。南が「この人しかいない」と真っ先にラブコールを送ったのが、剱伎衆かむゐの松村裕美だ。世界を股にかけて活躍するサムライソードアーティスト・剱伎衆かむゐの中で唯一の女剣士である松村のことを、南は「女性なのに、男性的に刀が振れる人」と尊敬の眼差しを送る。
松村「お話をいただいた時は、単純に嬉しかったですね。侍って、文化として男性というイメージが強い。私もよく海外に行くと、“何で女性なのに侍なの?”と聞かれることはあります。でも本当の意味での侍とは、相手を大事にするとか、節度を守るとか、そういうメンタリティを持った人のことを言うんだと思います。逆に言えば、そのメンタリティさえ共通していれば、老若男女は関係ない。そういう見えないメンタリティの部分を殺陣でもしっかり表現していきたいですね」
――― さらに、音楽も趣向を凝らしている。生演奏を担当するのは、 Carnavacation の村田匠。 Carnavacation と言えば、サマーシーンにぴったりの南国的なサウンドが持ち味。戦国モノの時代劇とは大きくイメージがかけ離れているように見えるが、そこに一筋縄ではいかない妙味がある。
南「 Carnavacation のライブには、パーカッションタイムっていうのがあって。楽譜もない状況で、複数の演奏者が打楽器を演奏し合うんですよ。もちろんタイミングなんて決まっていない。でも、そこには確かに“今だ”っていう瞬間があって。その間合いが立ち回り的だなと思ったんです。和楽器が立ち回りに合うのは、同じ文化圏だから当たり前のこと。今回は何か違うエッセンスを入れてみたかった。 Carnavacation のパーカッションと日本の伝統的な立ち回りが呼吸し合ったらどういう表現が生まれるだろうっていう私自身の好奇心から、村田さんにお願いしました」
村田「女性が殺陣をやるという面白さも、和物の芝居に日本の裏側にあるブラジルの音楽を使おうという面白さも、根底では通じるところがありますよね。きっと自然とオリジナリティのあるものが生まれてくると思う。演劇公演で生演奏をするというのは、僕にとっては初めてのこと。せっかくだから決められたシーンに音楽を当て込むというよりも、役者さんたちの稽古を見つつ、一緒に音をつくっていけたら」
――― 初の本格アクション時代劇だけあって、クリエイションにも熱が入っている。衣裳は、 BOWTIE BOWYA による完全オリジナルだ。
南「華美に着飾るというよりも、敢えてシンプルに。その中で、ひとつキーになるものを身につけることで、それぞれのキャラクターがイメージできるようなものになればと、今、話し合っています。どんなものになるかはぜひ劇場で確かめてもらえれば」
女性だから描ける、戦う女たちの生き様を見てほしい。
――― 異例の女性による殺陣芝居。男性メインの時代劇では描けないものがにじみ出る舞台となりそうだ。
南「当時は女性が刀を振る時代じゃない。彼女たちを戦わせるためには、刀を持たなきゃいけない必然性をつくらなくちゃいけない。そんな出発点から、この物語は生まれました。人を守るために刀を振ることと、人を斬るために刀を振ることは、同じ戦でも全然違う。この作品では、何かを守るために戦う女性たちの姿をきちんと描ければと思います」
村田「その話を聞いてて思ったんだけど、たぶん“土着”なんだよね。音もきっと土臭い感じがいいんだろうなって。アフリカの音楽の持つ土臭さが、今回の作品にはよく合うんだと思う。日本だろうとアフリカだろうと土の匂いは変わらない。そういうのがマッチングしたら面白いんじゃないかな」
松村「殺陣に関しては大事なのは、コミュニケーション。今回の公演に関しては南さんのお話しをお聞きしてカッコいい立ち廻りの手をつけることじゃなくて、流れに沿って気持ちが見える殺陣がいいと思いました。月並みな言い方ですけど、何を思っているのか見えるような、剣が台詞になっているような殺陣をつけたいですね」
重住「女性ユニットに参加するのは初めて。お芝居にしろ殺陣にしろ、女性だから描けるものってきっとあると思うんですよね。そこに男である自分が乗りこんで、ぶつかった時に感じるものを素直にお客さんにぶつけられたらと思う。どうなるかまだ全然わからないけど、今はとにかく稽古に入るのが楽しみです!」
(取材・文&撮影:横川良明)