■ヤオヨロズはたつきを中心にしたスタジオへ
――『けものフレンズ』が一躍ブームになる以前にも、『てさぐれ!部活もの』『みならいディーバ』といった他のスタジオにはない作品群が業界でもかなり目を惹きました。
設立当初、ヤオヨロズはアニメ業界にどんな形でアプローチしていこうと考えていたのでしょうか。
福原P
別に「ロックな姿勢で攻めていこう!」と思っていたわけではなく、その時々の自分たちができる最大限をしてきただけなんです。後発スタジオですし、人数もコストもできるだけ抑えて。
『直球表題』が「ロボット」を扱ったのは口パクがないからですし(笑)、その時の自分に必死にできることを探して、その中でおもしろいものを目指してやっていました。
今思えば、音楽業界で培った「お客さんがこうしたら喜ぶだろうな」という“読み”の部分はアニメにも流用できていたんだと思います。
今、ヤオヨロズはたつき監督という“クリエイター”を中心にしたスタジオになっています。
クリエイティブ方面はたつき監督がすべて見てくれています。ビジネス面は寺井が見ていているので、僕は両者の架け橋という役回りです。
今後、ヤオヨロズはたつき監督の作りたいものを具現化するためのスタジオという形を取ります。
――たつき監督が関わらない作品はどうなるのでしょうか。
福原P
ヤオヨロズを使わない、ということですね。たとえば僕の色が出るような作品の場合は、ジャストプロ名義でプロデュースしていく形になると思います。
――いわゆるスタジオジブリと宮崎駿さんのような関係性でしょうか?
福原P
他のスタジオの事を正確にわかっていませんがそうなのかもしれません。たつき監督のような強烈なタレント性を持っているクリエイターはそうそういないと思うので、この形がベストだと考えています。
――ジャストプロとヤオヨロズの関係性はどういうものなのでしょうか?
福原P
アニメの企画部分を担当するのがジャストプロ、クリエイティブを担当するのがヤオヨロズという形になっています。
ジャストプロ内には声優部門があり、系列会社として音響制作と声優俳優養成機関の運営を行うエスターセブンもあります。
巨大なコングロマリット(複合企業)を目指しているわけではないのですが、なるべくグループ内で完結できるような体制を作っています。
――製作委員会方式の影響もあり「1人のクリエイターの色」が出しづらい世の中にあると思いますが、ここまでのバックアップは意義深いですね。
福原P
僕も寺井も、ずっと音楽業界で生身の人間を扱ってきたんですよね。だから「作品」ではなくて「クリエイター」に寄り添ったつくり方をしてしまうんだと思います。
■「たつき監督はまさに『天才』という言葉がふさわしいクリエイター」
――福原プロデューサーから見て、たつき監督はどんなクリエイターですか?
福原P
そうですね……。音楽業界でも「天才」と呼ばれるような人たちと一緒に仕事をしてきましたが、たつき監督はまさに「天才」という言葉がふさわしいクリエイターだと思います。
――詳しく教えてください。
福原P
とにかくひたすら仕事をしているんです。「天才」というと何も無いところからポンとアイデアが浮かぶような人を想像しがちですが、そうではなく「尋常ではない努力をしているからなんだ」と気付かされました。
特にたつき監督は、脚本・絵コンテ・演出まで1人でやってしまうためなのか、脚本に疲れたら気分転換にモデリング、それに疲れたら今度は同人、それに疲れたら……と結局アニメしか作ってないじゃん! ってなるんです(笑)。
――アニメの息抜きにアニメを作る。それもひとつの才能とも言えますね。
福原P
才能と言ったら失礼になるぐらい努力をしています。
あと面白いのは、作品を好きになってくれる人のことを決して「ファン」と呼ばないんです。自分が楽しませるべき対象として「お客さん」と呼んでるんですよ。
自発的につくりたい作品があったときも、たつきくん自身の好みではなく、お客さんが好む絵を選択している。お客さんに満足してもらうために一切妥協をしないんです。
――プロデューサーである福原さんから「もうちょっとお客さんに寄せましょう」といった提案はないんですか?
福原P
何が作品やお客さんにとってベストなのか、たつきくんの方が考え抜いています、なので僕から言える事は残っていません。
プロデューサーとして、たつきくんに足りてないところをわずかながら僕たちがカバーする、ということぐらいですね
――ヤオヨロズのスタジオとしての特性をどう捉えていますか?
福原P
たつきくんがクリエイティブをすべて見ているので、フローを大きくさかのぼったりして作り直す事ができるところです。
例えば、ふつうのスタジオならあり得ないと思いますが、動画まで進んだ段階でコンテに戻ったりする。スタッフ全員に大きな負担はかかりますが、だからこそ納得できるものが作れているんだと思います。
スキルの高い人たちが少人数で、ものすごい量をものすごい速さでこなしている状態です。これは今の制作規模・スタイルだからできることですね。
――その体制は来年放送予定の『ケムリクサ』にも引き継がれているわけですよね。新作を作るにあたって増員などはしてないんですか?
福原P
『けものフレンズ』と比べると、ちょっと増えてるかな、というぐらいです。
――そのぐらいなんですね。
福原P
先ほども話した通り、人を厳選しているし、やっぱり志が合う人でないと大変な現場なので単純に増やせばいい、というわけではないんです。
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