スタバ、ロイホ、いきなり…外食産業「大淘汰の波」に気づいていますか コロナ禍で加速する「業界再編」
緊急事態宣言の解除を受けて、経済活動が徐々に回復しているが、外食産業は大きな方向転換を迫られている。営業を再開した店舗は席間の確保などで収益力が低下しており、デリバリーは競合がひしめく。
この業界は以前から供給過剰による過当競争が指摘されてきたが、コロナ危機がダメ押しとなる可能性が高い。店舗網の縮小はもちろんのこと、場合によっては業界再編も不可避となるだろう。
「店舗レウアウト変更」という大問題!
政府が緊急事態宣言を解除したことから、街には人出が戻りつつある。NTTドコモによる分析によると、東京駅の人手は緊急事態宣言前との比較でプラスに転じており、銀座については約10%増となっている(2020年6月22日)。だが感染拡大前と比較する東京駅は約55%、銀座も約75%の人出にとどまっている。
コロナウイルスが完全に終息すれば話は別だろうが、現状では終息宣言が出る見通しはまったく立っていない。今後はある程度、人出が回復したとしても、多くの人が感染を気にしながらの日常となる。
こうした状況から、営業を再開した飲食店も手探り状態が続いている。
コーヒーチェーンのスターバックスは、以前からデリバリーを重視していたが、営業再開後はさらにデリバリーを強化。店内についてもレイアウトを変更し、顧客と顧客の距離を確保できるようにした。ファミレスのサイゼリヤも顧客の密集を防ぐため、店舗レイアウトの変更を実施した。
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こうした措置は感染リスクの軽減に寄与するが、時間あたりの集客数は犠牲にならざるを得ない。席数が減った分は、理論上、そのまま売上高の減少につながるので、デリバリーなどで穴を埋められなければ、業績のマイナス要因となる。
実際、一部のチェーン店では、感染の長期化を見据え、店舗網の縮小に乗り出している。ロイヤルホストなどを展開するロイヤルホールディングスは、旗艦チェーンであるロイヤルホストなどを中心に70店舗の閉鎖を打ち出しているし、九州を中心にファミレスを展開するジョイフルも全国で200店舗を閉鎖する方針を明らかにした。
ジョイフルでは店舗縮小の理由として、今後も似たような感染症が発生するリスクや、外食に対する価値観の変化をあげており、一時的な客数の減少だけが理由ではない。
コロナによる影響が大きいのは何と言ってもアルコールを出す業態だろう。他人との接触回避に加え、テレワークの増加で、サラリーマンが居酒屋で飲むケースが激減している。大手のワタミは不採算となっている65店舗を閉鎖するとともに、唐揚げ店の展開を進めるなど、大胆な業態転換を模索している状況だ。同社は人材派遣子会社を設立し、休業中の従業員を他の企業に派遣する試みもスタートしている。
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いきなり!ステーキ、運営会社の異変
店舗網の縮小に加えて業界再編も進む可能性がある。「いきなり!ステーキ」などを展開するペッパーフードサービスは「ペッパーランチ」事業の売却を検討していると報道されている。6月22日時点では、(事業売却などについて)決定した事実はないと説明しているが、何らかの交渉を行っている可能性が高い。
同社はもともとペッパーランチを軸に事業を展開してきた企業だが、2013年にステーキを格安で提供する新業態「いきなり!ステーキ」をスタートさせ、当該事業の大ヒットによって業容を一気に拡大した。だが無理な出店戦略から2019年12月期には27億円の最終赤字に転落。ここにコロナ危機が発生したことから、大量閉店を余儀なくされている。
2019年末には490店舗だったが、5月末時点では414店舗となっており、5カ月で76の店舗を閉鎖した。同社は2020年1~3月期の決算発表を延期しているので詳細は不明だが、2019年12月末時点では約25億円のキャッシュしか保有しておらず、財務が良好とは言い難い。
同社は資金繰りを確保するため、同社の仕入れ先企業の経営者から20億円の融資を受けているという現状を考えると、やはり資金面での不安がある。
報道ではペッパーランチを売却すれば100億円程度になるといわれており、キャッシュに乏しい同社にとっては有力な資金源といってよい。ペッパーランチはいわば同社の祖業だが、外食産業が直面した現実を考えると、聖域を設ける余裕はないだろう。
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コロナ前から始まっていた一連の変化
重要なのは、一連の変化は実はコロナ前から予想されていたという点である。
日本の外食産業は需要に対して店舗数が多すぎ、これが過当競争を招いていると指摘されてきた。供給過剰から値上げができず、これが従業員の待遇を悪化させてきた面があることは否定できない。
社会のIT化によって、デリバリーサービスが急拡大するのも以前から分かっていたことである。
すでに米国ではコロナ前からデリバリーの急拡大でレストランの廃業が相次いでおり、日本でもデリバリーに対応できないチェーン店は生き残りが難しいと言われてきた。
つまりコロナが状況を変えたのではなく、以前から業態転換が求められていたところに、コロナがダメ押しでやってきたというのが実態といってよい。つまり外食産業に求められていた変化は、必然的かつ構造的なものであり、コロナはきっかけに過ぎないのだ。
もしそうであるならば、日本の外食産業はコロナ危機をきっかけに、供給過剰という根本的な問題について解決せざるを得なくなるだろう。
人口が減り、縮小が予想される市場環境において、規模の拡大を目指すチェーン展開は早晩行き詰まる。今後は業態ごとに適正水準を目指して、店舗網の縮小が進む可能性が高い。同時に規模が小さいチェーン展開の場合、利益率を上げないと企業が存続できないので、当然、客単価を上げざるを得ない。
外食産業はデフレの象徴などといわれてきたが、極めて安価な値段で食事ができる時代は、もうやってこないかもしれない。値上げを実施すればさらに客数が減る可能性があり、均衡水準に達するまで、市場規模の縮小と値上げが続くことになる。
一連の変化は、とりもなおさず、日本経済が一貫して続けてきた薄利多売ビジネスの終焉を意味している。このビジネスモデルが今の日本において持続不可能であることは、多くの人が薄々感じていたはずだが、いよいよコロナによってその現実が露呈した格好だ。