これからの季節は“サーモ検温”に要注意?

都道府県をまたぐ移動制限が19日に全面解除され、出張や旅行など、少しずつ「withコロナ」の日常にむかいつつある。

そして遊園地や動物園、水族館などの施設も、新型コロナウイルスの感染予防対策をしたうえで再開を始めた。東京ディズニーランドとディズニーシーでは7月1日に営業を再開することを発表したが、入園者数を絞って、アトラクションなどでの利用制限を行うほか、入園時の検温やマスクの着用などに協力を求めるという。

この来場者の体温チェックについて、おでこなどでピッと測る非接触型体温計や赤外線サーモグラフィーなどいくつかの機器があるが、今、このサーモグラフィーを使った検温における留意点に注目が集まっている。

Twitterでは、炎天下を歩いてきた後にサーモグラフィーによる検温をされた際に、日光に晒された黒髪の熱さに反応し、40℃以上と計測されたというのだ。

たしかに直射日光を長時間浴びていれば、髪の毛や肌の表面温度は上がってしまうこともあるだろう。これで「発熱」と判定されてしまったら、せっかく楽しみにしていたのに入場できないということも起こりうる。

画像はイメージ

では、本当にこのような事態が起こる可能性はあるのだろうか? そもそも「体温」と「表面温度」は何が違うのか? サーモグラフィーカメラなどを製造販売する株式会社チノーの担当者に話を聞いた。

新型コロナでサーモグラフィーの需要は激増

――新型コロナ対策としてサーモグラフィー​の需要は伸びている?

弊社取り扱いのサーモグラフィーは3種類あり、前年同時期(2019年3~5月)で、固定型高機能・拡張タイプが約10倍、簡易型汎用タイプで約600倍、携帯型高機能タイプは約2倍といずれも需要は増えています。

――サーモグラフィーはどのような仕組みで皮膚(体表)温度を測っているの?

一般の体温計は、腕の脇に挟んだり口にくわえたり、肛門に差し込んだり直接人体局部に接触し熱伝導を利用した温度センサで体温を測ります。

一方でサーモグラフィーは、人体の皮膚表面から熱を赤外線(8~14μm)の電磁波として放出する熱放射の変化量をセンサで捉えて温度目盛りに換算するための放射測温技術(JISで規定されています)を利用しています。電磁波を利用しているため非接触で物質の”表面温度”が測れるという事です。

皮膚温度と体温の違いとは?

――そもそもこの皮膚温度と、体温の違いってなに?

皮膚温度は、人体の皮膚表面の温度(体表面温度)です。体温とは直腸の温度で代表される体内温度の事で、一般的に37℃と一定です。直腸温度は皮膚温度に比べ3~4℃高いため、サーモグラフィーでは体表面温度を33℃から35℃で計測できているのが正解となります。


――Twitterに投稿されたような、黒髪だと温度が高くなるということは起こり得る?

黒色は熱を吸収しやすく、金髪などの光った髪色は熱を反射しやすい性質があります。このため黒い髪のほうが頭部に熱を蓄熱しやすい傾向はありますが、ヘアスタイル(アフロやパーマ、角刈り、束ねた髪など)によっては髪の量や密度にも関係がありますので髪色とは関係なく、頭部の蓄熱しやすさが温度上昇に影響してきます。

(画像提供:株式会社チノー)

皮膚温度が上がる要因はさまざま

――皮膚温度が上がる理由として、他には何かあるの?

以下の要因が考えられます。

(1)マスク
マスクに覆われた顔の内側部分は、呼吸で体内温度(36.5℃)付近まで顔の皮膚温度が上昇します。ただしマスクの外側は室温(外気温)ですのでサーモグラフィーで見た場合、額やこめかみ付近の顔の中でも温度が高い部分と同等になります。

(2)歩行や運動直後
気温の高い日に屋外で歩行したり、屋内でも運動直後は体温が上昇して、皮膚温度も上昇します。一方で、運動にともない汗をかきます。程度によりますがたくさん汗をかくと皮膚温度が下がります。

(3)室内外・環境の温度
気温の高い場所や屋内外の直射日光などにより日焼けして皮膚温度が上昇します。

(4)季節・気候変化
夏場は気温が体温(36.5℃)を超える日があります。気温が上昇すると、体温も上昇し皮膚温度も上昇します。

マスクの内側部分は、呼吸で体内温度付近まで皮膚温度が上昇(画像はイメージ)

運用側が上手に発熱者を発見できる対策することが重要

――このような場合は、体温計ではかり直せば大丈夫?

はい、サーモグラフィーで発熱温度を検知したからと言って不安になる必要はありません。この場合、冷静に体温計を使用して正しい検温を行っていただく必要があります。

なお、この時使用する体温計は医療機器認可を受けたものを使用してください。(体温計と称した無認可の非接触型温度計の使用は不確実さを招きますので避けてください)


――「帽子をかぶって来場し、検温時には脱ぐ」など、来場者ができる対策はある?

日光や風から顔・頭部を帽子で保護して皮膚温度の上昇を防いで頂く事は効果がありますが、基本的にサーモグラフィーで体表面温度を測定する場合は、運用する側が、赤外線温度計測の技術者の指導の下、上手に発熱者を発見できるよう機器の設置環境に配慮した対策を行うべきです。サーモグラフィーは運用・利用技術が重要なのです。

これまでサーモグラフィーは軍事産業からの技術転用で一般産業用の生産設備診断用に需要を拡大してきました。

その背景には赤外線技術を習得した計測担当者が運用管理を担っていたわけですが、新型コロナの影響で体温測定用サーモグラフィーが着目され官公庁、民間企業に向け一気に需要を拡大したため、現場の担当者が赤外線計測技術や利用方法を知らないままコンピューター機器の操作のみ習得して運用開始し、結果的に混乱しているものと思われます。

(画像提供:株式会社チノー)

今は梅雨の時期だが、これが明ければさらに暑くなる。短時間で多くの人を検温できることから一気に需要が増加したサーモグラフィーだが、担当者も来場者もこのような特徴があることを覚え、スムーズな運用を心がけてほしい。
 

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