学生のバイト、遊ぶ金じゃない 休業手当未払いの企業が知らない懐事情
2020年6月24日 05時56分
新型コロナウイルス感染拡大に伴い勤務を大幅に減らされた学生アルバイトに休業手当が支払われない問題が深刻化している。一部の企業が「学生には休業手当を支払わなくてよい」と誤った認識を持っていることが大きいが、国の制度も「学生が働かざるを得ない」状況に追いついていない。(池尾伸一)
◆間違った認識
首都圏で営業するもつ鍋居酒屋チェーン「木村屋本店」は、4月以降の営業停止で勤務がゼロになったバイトの大学生(20)らに、休業手当を全く払っていなかった。学習塾「英才個別学院」でも、塾が閉鎖になっていた間の休業手当を求め、大学院進学準備中のバイト講師(23)が交渉中。個人加盟の労組「総合サポートユニオン」には、学生バイトから同様の相談が150件きている。
学生に休業手当が支払われない背景には、企業が学生にとってのバイト収入を軽く見ていることがある。「遊ぶ金なら出さない」。木村屋本店の役員が学生にこう言ったのもその表れだ。
学生は厳しい経済状況にある。全国大学生協連の調査では、家族からの仕送りが「ゼロ円~5万円未満」の人の割合は、2019年時点でほぼ4人に1人に相当する23・4%。1995年の7・3%から大幅に上昇している。親も氷河期世代などバブル崩壊後に社会に出た世代で支援の余裕がない。その分、学生はバイトで学費や生活費も稼ぐよう迫られている。日本学生支援機構の調べ(岩田弘三武蔵野大教授推計)では、授業期間もバイトしている学生の割合は、94年は35%だったが、2018年には73%だ。
法律では学生にも最低6割の休業手当を出す必要がある。4月から特例で雇用調整助成金が学生バイトにも活用できることを知らない企業も多いとみられる。
◆追いつかぬ制度
国の制度も学生の厳しい状況に追いついていない。9月末までは一般会計からの予算で雇用調整助成金が出るが、本来の制度では学生はどれだけ長く働いていても雇用保険に加入できず、助成金が出ない。学生は「生活に決定的な影響を与えるほどバイト収入に頼っていない」(厚生労働省担当者)のが前提になっている。状況は変わっており、同省担当者も「前提が当てはまらない学生が増えているのは事実」と認める。
学生の労働事情に詳しいブラックバイトユニオンの渡辺寛人氏は「同じ働き方でも、一般のパートの人たちが雇用保険の安全網があるのに、学生がカバーされないのは不公平」として「学生も対象とすべきだ」と指摘。一方で学生にバイト漬けの生活を強いる状況はおかしく、「貸し付け型ではなく給付型の奨学金を充実させ、学生が本来の勉強に専念しやすい状況をつくるのも社会の責任だ」と話す。
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