リリックを送り合うときはいまだにドキドキしちゃう。“らしさ”を失わないワケ:chelmico interview
ついには『Mステ』出演を果たすなど、二人の存在感が“お茶の間”にまで浸透しはじめた。RachelとMamikoからなるガールズラップユニットchelmicoは観る者に元気を与えてくれる。
NHK総合テレビアニメ『映像研には手を出すな!』主題歌や、AppleのCMを筆頭にいくつものタイアップ曲としてテレビからじゃんじゃんラップが聴こえてくる。i-D Japanには3年前から誌面に登場するなど、彼女たちを取り上げてきた。冒頭にあるように2人を取り巻く環境は、ここ数年で大きな変貌を遂げ、親友同士からはじまったラップユニットが、笑顔を見せながらメジャーシーンを鮮やかに乗りこなしてみせる様子は痛快そのもの。
コロナ影響下でステイホームを余儀なくされて、早数カ月。そんななか2人のお家とつないだ今回のSkype取材。インタビュー中も時折夕日が綺麗だからと夕日を眺めたり、相変わらず自由に話は様々な方向に派生していった。けれども以前より力みのない雰囲気でケタケタと明るい笑い声をあげながら、今の心境を素直に話してくれた。そうか、こんな塞ぎこんでしまいそうな時こそブレないchelmicoの存在は必要なのだ。
—— お久しぶりです〜。元気にしてましたか?
Mamiko(以下、M):元気元気〜。あれ、Rachelがまだきてないや。
Rachel(以下、R):(少し遅れて)どーもー。
—— それじゃあ、早速取材を! メジャーレーベルに移籍して2枚のアルバムをリリースするなかで、躍進を遂げたと思います。自分たちの存在がオーバーグラウンドになるにつれてchelmicoとしての活動スタンスに変化は生まれました?
R:うーん、基本はそこまで変わってないかな。ライブも曲作りも以前と同じメンバーで制作のやり方も変わってないですし。
M:部分的なことを言えば、少し変わったかもしれない。例えばどういう曲を作るかにしても、前は自分たちが楽しいやり方を一番に考えていたけど、最近はどうやったらみんながもっと楽しんでくれるのかを考えられるようになったり。
—— それはどうして?
M:HIP-HOPを聴かないファンにもchelmicoの音楽を届けたいからかな。きっかけとして爽健美茶のCMでラップしたことで、10代の女子たちも聴くようになって。そういう子たちが楽しんでくれるためには、どんなラップがいいだろうって考えたり。
R:ほら、私たちって「地元・仲間・メーン?」って感じではないので。
——(笑)。
R:chelmicoを聴いてくれてる人たちは、きっと私たちにあんま嘘つかないこととか、肩肘張らない感じを求めてくれてると思うので。それはそのまま伸ばしていったらいいんだろうなって。
—— 自分たちを曲げないように、守ってきた。
M:そうそう。chelmicoが無理に変わったら、みんなきっとびっくりしちゃうだろうし、それはうちらも嫌だから。
R:でもこのまま自分たちが楽しくいるためには、みんなに伝わりやすいものを作る必要があるし、そういう面では変わったよねぇ。マインド的にも。
M:そうだね。前よりもいろんな人の意見を取り入れられるようになって、頑固じゃなくなってきた部分はあるかも。
R:例えばライブパフォーマンスを客観的に見て、課題があったら直すようにしたり。
M:でも今も昔も格好つけることができないから、それは変わらずかなぁ。ちょっとだけ恥ずかしい気持ちを持ったままずっといる感じ。「まだ照れくさいやぁ」って。
——ファン層の変化に目に見えて気づいたのはいつ頃ですか?
R:「Balloon」を出した頃かな。所属レーベルの方がどういったリスナーがいるのか教えてくれるんですよ。だから客観的にこういう人たちが聴いてくれてるんだなぁって分かるようになって。
M:その頃からライブにも年下の女の子たちが増えたしね。
R:やっぱり恋歌は強い!
——(笑)。
R:あとはYouTubeだと海外の人がコメント欄で英語で反応してくれてるのも嬉しいな。私たちの歌は日本語だけど、雰囲気とかフローの気持ち良さを感じてくれている人がいるんだなぁって。
—— リリックを書くときも何か発信するときも「これは自分たちっぽいよね」、とか「これはらしくないよね」といった話はするんですか?
M:めっちゃするよね。
R:するする。ラジオもそうだけど、歌詞の内容も嘘っぽかったり、背伸びした言葉を使わないように気をつけてます。
—— 言葉ってその人らしさにつながりますもんね。
M:うんうん。
R:だから意外と気をつけてるところかも。
—— 普段ヴァースの順番はどう決めているんですか?
R:曲によって様々かな。アップテンポな曲は私のパキパキしたラップを先にして、しっとりした曲は滑らかに入りたいからマミちゃんに先にしてもらうとかが多いのかな。
M:「先にリリックを書き終えちゃったから歌い出しで使わせて」って時もあるし、様々だよね。
—— 会えてない期間に相手のリリックを見て、話してない心境を知ったりすることはありますか?
M:でもなぁ、ラップする前にほとんどお互い話しているから、知ってるんだよね。
R:悲しいリリックを書いてきたら、『悲しい気分って確かに言ってたもんなぁ』って。
—— リリックを送り合うことはもう慣れました?
R:未だにリリックを送るのは恥ずかしいです。まずテキストでLINEのグループに送るんですけど、全然既読がつかないと。「早く読んでよぉ!」ってソワソワしちゃう。
M:ははは!
R:不安な気持ちもあるんですよ。このリリックで果たして本当にいいのかなって。それでマミちゃんのお墨付きもらえると、「よかったよかった。これでいこう!」って思えるので。早く見てほしくて、ソワソワしてる。既読が全然つかないときとか返事が遅いときは、「みた? こういうところ直したいんだけど」とか、一人で喋る(笑)。「あとで直そうと思うんだけど〜」って言い訳がましく送ってますね。でも、それをマミちゃんはわかってくれている。
M:私もまだ照れちゃう部分あるからね。
—— 文通みたいですね。
M:そうかもしれない。
R:やっぱりドキドキしちゃうもんねえ。
—— ライブができなくなった今だけど、聴いてくれる人達の反応によって気付かされることってあったりしますか?
R:最近ファンコミュニティを立ち上げたんです。そこでファンの人たちが掲示板にいろんなスレッドを立てて話しているので、たまに覗いてみるんですよ。例えば“好きな歌詞あげてくスレッド”でみんなのお気に入りの歌詞をみると、「へぇ、こういうところが受けているんだ!」とか発見があります。
M:意外とコアなファンにはアゲアゲじゃないしっとりした曲が人気なんだと気付いたり。他にも今Instagramでファンのタグ付け投稿から感想がダイレクトに伝わってくるので、みんなの反応に元気をもらってる自分がいます。昔は距離が近すぎてちょっとびっくりしてたんだけど、今はそれに「ありがとー!」って素直に言える。
—— そういう反応も次の創作する上でインスピレーションになりますか?
M:どうなんだろう。変わらなくていいんだぁって感じ?
R:そうだね。バランス丁度いい感じねって。でもゆっくりした曲を作るのも結構好きだから、『もうちょっと作っちゃおう』という感じですかね。
—— 最後にこれからのchelmicoの野望は?
R:ラジオ復活! 今YouTubeで好き勝手にやってるけど、改めてラジオっていう場所で自分たちの好きな曲をかけてさ、絶対楽しいよ。
M:私は主催ライブがしたいかな。野外の大きな夏フェスを主催で。私たちはトップバッターでちょっとやって、観たいアーティストを呼んで、観る。
R:じゃあ、タイムテーブルは全部回れるやつにしようよ。
M:それ、絶対やろ。
R:そうしよ、そうしよ。
—— 最後に、自粛中に読んでた聴いてた本や音楽を紹介してもらえる?
今なに読んでる?
Rachel:いしいしんじ『いしいしんじのごはん日記』、川上未映子『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』、猪木正道『共産主義の系譜』
「今ちょうど隣にあったのはこの3冊。生活の日記が書かれているいしいしんじさんの言葉になんか泣きそうになっちゃう。川上未映子さんは小説が好きで、エッセイも読んでみたくて買いました。関西弁のフロウが気持ちいい。共産主義の本は、イメージで共産主義が怖いって思っていたけど、なんでそう思うのか気になって買ってみた。けれど難しくて、挑戦しながら読んでる感じ」
Mamiko:穂村弘『あの人に会いに』
「高校生の頃、めちゃくちゃ根暗だったから、穂村弘に助けられたんです。それで穂村弘が助けられた人ってなんなんだろうって。それで読んでる。ルーツのルーツが気になって」
今音楽なに聴いてる?
Rachel:The Beatles「Yellow Submarine」、Fiona Apple「Fetch the Bolt Cutters」
「基本新譜をディグるのが好きなんだけど、無理しないで素直に聴きたい音楽を聴こうと最近意識していて。鼻歌してたのがThe BeatlesのYellow Submarine。Fiona Appleのアルバムは上半期にしてもう私的今年No.1。今のムードにFionaの感じが合うんだよね」
Mamiko:Hanne Hukkelberg「Birthmark」
「中学生の行き帰りによく聴いてたコンピレーションアルバムでお気に入りだったアーティスト。最近ふと気になって聴いて、新譜を調べたらそれもまためちゃくちゃよくてハマってる。楽器の録り方はチープなんだけど、ボーカルだけ異様に音良くて、そのバランスがかっこいい」
今欲している生活は?
Rachel:私は映画館に行きたいかな。昼過ぎに映画館行って、夕方魚屋さんに寄ってお魚買って帰る。焼いて、そして食う。
Mamiko:確かに、とりあえず七輪買いたいかも。家でキャンプ気分味わえるし。ってかキャンプしたい。広いところいきたいよね。山か海。今は外に気軽に行けない分、ロッキングチェアを買ったり、ベランダ周りを強化して家を強化して部屋を充実させてるよ。
〈2020年 chelmico出演情報〉
TBSラジオ主催 夏の魔物2020 in TOKYO
2020年8月30日(日)
エスフォルタアリーナ八王子
開場08:00 開演09:00(予定)
http://natsunomamono.com/
SUPERSONIC
9月19日(土) 大阪・舞洲SONIC PARK@舞洲スポーツアイランド(chelmicoの出演日)
9月21日(月祝) 東京@ZOZOマリンスタジアム&幕張海浜公園(chelmicoの出演日)
https://supersonic2020.com
Official site: http://chelmico.com/
Official Instagram: @chelmico
Rachel: @ohayoumadayarou
Mamiko : @______mmk______
Photograph by Rachel and Mamiko, Courtesy of the artist.
Interview and Text: Hiroyoshi Tomite