コン! コン平だコン!
去る10月10日、池袋コミュニティ・カレッジにて
「乙女の日本史 文学編」の発売を記念して
『辛酸なめ子先生×堀江宏樹先生トークショー
~歴史はいつでも甘酸っぱい-乙女のパワースポット~』
が行われました! コン!
今回より、数回に渡ってその様子をお届けします☆
☆トークショーご挨拶
新刊『乙女の日本史 文学編』をベースに、「おじさん的解釈」を離れ、
はじめて浮かび上がってくる古今の名作の本質とは。
そして日本史を通じて「魂のタイムカプセル」である日本文学とは何だったかを、
第一弾「乙女の日本史」の帯を書いてくださった辛酸なめ子先生をお迎えしまして、
ざっくばらんに楽しく、お話していただきます!
■夢のなかでメイクラブ! 吉祥天のエピソード
辛酸なめ子先生(以下、辛酸):『日本霊異記』には、夢の中で吉祥天
と性交をした
男性のエピソードがあるんですよね。まじめな古典文学にそんな卑猥なことが
出てくるなんて信じられないです。
堀江宏樹先生(以下、堀江):そうですね。『日本霊異記』とは、仏教の説話文学です
(『乙女の日本史 文学編』の本がお手元にある方は22ページをご覧ください)。
「説話」というと小難しく聞こえますが、実際は「本当にあった○○な話」という意味でしかありません。
実際の仏教はあらゆる執着というか、「これでないとだめだ」というものを無くすことによって、
気持ちを楽にして、それが本当の幸せにつながると説いています。
しかし、『日本霊異記』はそれとは真逆の立場で、
「仏教を信じていると、現世でとてもいいことがあるよ」と説く本なんです。
日本にも昔から「幸せ」とか「幸い」という言葉や概念はあるんですけど、
「幸」という言葉に「福」という言葉がプラスされたのは明治時代以降だとか。
西洋でいう「HAPPY」の概念を日本語に翻訳したかったようです。
だから、もともと「幸せ」って日本でいうと、「楽」ってことなんですよね。「気楽」ということ。
要するに、「楽」と呼べるものを「幸い」と呼んでいたようです。
仏教は願いを叶える外国の教えとして日本に輸入されたのでした。
そこで、先ほど辛酸なめ子さんがお話された『日本霊異記』の
吉祥天と寝てしまう話なんですけれども。
これは、ある男性信者が、聖武天皇の時代に和泉国泉郡(大阪市和泉市)の
血渟(ちぬ)の山寺に祭られている吉祥天の等身大の像を見て……
辛酸:そんなに大きかったんですね。
仏像と人間の体の大きさをあまり比較して考えたことがないです。
堀江:そうそう、本(『乙女の日本史 文学編』)には、
等身大のフィギュア像って書いてありますけれども。
そこで信者が、「これくらいきれいな女性を私に与えてくれ」と一日6度も祈り続けていたんです。
そんな邪悪な祈りも続けていたら、なんと吉祥天が夢枕にでてきてメイクラブしてしまう。
辛酸:そのあとに、腰のあたりにシミが……
堀江:そう。腰布のあたりにシミがついていた。
辛酸:なんでシミがあるんですかね?
堀江:それはあんまり言えないですけどね(笑)。
謎のシミがついてあったって書いてあるんですけど。
ちなみにこの話は、シミの話でばっかりでオチまでいってしまうんですよ(笑)
■吉祥天はもともと七福神だった!?
辛酸:その話が、この『日本霊異記』の話の中に出てくるんですよね。
堀江:出てきますね。奈良時代から、これだけ飛ばした内容の本があるという。
日本史とか文学史の授業で先生が真面目な顔で教えるから、
みんなまともな内容だと思っているけど、本当に芯の話はね……
辛酸:触れてないんですね。性教育によさそうな気もしますが……。
堀江:触れてないんです。触れてはいけない部分がとてもあるんですね。
『日本霊異記』で他に有名な話に、実の息子に熱烈な恋をして、
そのまま恋人になっちゃう母親のエピソードもあります。
亡くなる時、「生まれ変わって息子と結ばれる」と宣言して、その通りになっちゃうんです。
我々はこういった説話の中から、いったいどういう尊い教えを学べばいいのか
根本的に疑問に思ってしまう(笑)。
辛酸:吉祥天や、仏様といわれている方の服は、前がすごくはだけていますね。
堀江:なんか、誘っている感じですよね。
いつでも脱げるようになっているのがある種の神様仏様の特徴です。
ところで吉祥天って、あるお経によると15歳位の美少女みたいなお姿なんだそうです。
しかも、一時期、いわゆる「七福神」に加入してたらしいです。
もともと、吉祥天は実は毘沙門天と結婚してるって知ってました?
辛酸:七福神の?
堀江:いるでしょ、ひげキャラの人。
あとは神っていっても、ろくでもない外見のじいさんとかそんなんばかりですけど。
あの吉祥天と毘沙門天が結婚してて、その二人がやってるスナックの客みたいなのが、
あのじいさんたち(笑)。イメージですけどもね。
辛酸:いいんですか、神様をじじいなんて言って。
でも七福神の紅一点っていうと、今は弁財天ですよね。
そうやって考えたら、やっぱり複雑な関係ですよね。
堀江:吉祥天の代わりに弁財天
が七福神として残った所には、オトナの事情があったようです。
もともと吉祥天の化身というか付き人みたいな人が、弁財天とも言われています。
辛酸:ああ、そうなんですね。
堀江:吉祥天は奈良時代の『日本霊異記』とか、
紙が非常に貴重だった時代の説話にも登場していますよね。
当時の貴族たちから強い信仰を集めていたと言えます。
でも、その頃の弁財天というのは、腕が八本あったりしましたから……
辛酸:そうですよね。天川(奈良県吉野郡の天川村)にこのあいだ行ったときに、
天河弁財天のお顔が蛇で三つの頭になっていました。
変幻自在で、中大兄皇子の前に現れた時は美しい乙女の姿だったらしいんですけど。
堀江:とにかく負けん気の強いキャラクターを与えられている弁財天は、
吉祥天にとってはキレイではあるが、何をしでかすか分からない妹キャラだった。
そんな妹キャラの反乱が起こり始めるのは、ちょうど鎌倉時代とか室町時代あたり。
その時代になると腕が8本もあるのはあまり見た目がよくないということで、
腕を2本に変えて、楽器の琵琶(びわ)を持ったんです。
さらになかなか売れないと、裸になるって法則が芸能界でもあるけど。
仏の世界もそれは同じようで(笑)、「吉祥天さんが、グラビアアイドルのイメージビデオみたいな
薄い服を着ているのなら、私は裸で勝負します」と、
弁財天はオールヌードになってしまいました。
江島神社には鎌倉時代中期以降に作られたとされる、
「裸弁財天」こと「妙音弁財天」の像があります。これは全裸像です。
そして先ほどお話ししたように、七福神はもともと七福神ではなかった。
八人ほど神様がいたところから、吉祥天が脱退することで、
現在の七人グループになったのです。
弁財天と吉祥天がツートップだった時期がありまして、
この時に弁財天が、吉祥天の旦那である毘沙門天に手を出したんですね。
妹みたいな存在に自分の男を奪われそうになって吉祥天はやはりショックを受けるわけです。
それで、2人が話し合いをして、「もう毘沙門天には手を出さない」という約束と引き替えに、
吉祥天は「わかったわ」と七福神から脱退したんです。
それがだいたい江戸時代くらいの話なんですけど、
当時は庶民も力を得ており、これまでみたいに皇室や貴族だけが仏教を保護するという
時代ではなくなってきてるんです。
七福神というキャッチーなグループに属して、庶民に応援されることで、
弁財天はずっと目の上のたんこぶだった吉祥天をやっつけ、
オールヌードの像にもなった甲斐あって、みんなの人気も得られたわけでした。
辛酸先生も、毎年初めに七福神のお参りをするのが習慣だと伺ってますが……
辛酸:そうですね。お正月に七福神にお参りに行ったりしています。
でも先ほどの人間関係を伺うと、バンドの中の男女関係みたいに乱れていますね。
神様って何だろうと思ってしまいます。エネルギーがシンボル化した存在なので、
俗世の人間の愛憎と同じように考えてはいけないのだと思いますが……。
堀江:そうですね。こういうことがどこに書いてあるかっていうと、
実は説話文学であるとか、あとはお経そのものなんですね。
その説話やお経自体に、実はこういった煩悩まみれなことが書いてあるらしくて……。
この続きは次回更新で! お楽しみに
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