3つ目は、初動対応です。少しでも疑わしい事象が報告されたら、すぐに関係者会議を行い、情報を共有し、指示を出します。すばやく、かつ適切に初動対応ができるかどうかが、ボヤで終わるか大火事になるかの差になるのです。

 健康観察、行動チェック、初動対応。

 これが、たとえ院内感染が発生したとしてもクラスター拡大を防ぐことができるもっとも理にかなった方法だと思います。感染リスクをゼロにできない中で少しずつ元の活動に戻りつつある会社や学校でも同じでしょう。感染自体をゼロにはできませんが、健康観察、行動チェック、適切な初動対応によって、感染の拡大は小さくできるはずです。

報告しやすい組織になっているか

 具体的に、最近当院に勤務する麻酔科医が発熱した時に、健康観察、行動チェック、初動対応がどのように行われたのか紹介しましょう。おもなメールのやりとりを時系列で記しますので、参考にしてみてください。

【発熱初日19時】麻酔科医から讃井へ。帰宅後37.4度の発熱があった旨の第一報。「その他の症状はほぼなく体調も悪くありません。今後の対応をご指示ください」。

【初日21時】讃井から麻酔科医へ。明日は休んで様子を見ることと、夕方の報告を指示。「個人名を出すことになりますが、病院内で接触したスタッフにヒアリングしてもいいですか? 先生の勇気とご協力に感謝します。本当に大事なことです」

【初日21時】麻酔科医から讃井へ。個人名を出すことを了承する旨の返事。

【初日22時】讃井から感染制御室医師へ。念のため麻酔科医のPCR検査を要請。

【初日23時】讃井から院内のおもだったスタッフへ。麻酔科医が発熱し、しばらく自宅療養してもらうことになった等、状況を周知。接触があった人は健康観察にとくに留意し、もし症状が出たらすぐに所属長に連絡するよう指示。報告の重要性にも触れる。「××先生の勇気と迅速な対応に感謝いたします。今後院内で(患者から感染して、あるいは自ら持ち込んで)院内感染が発生した時、クラスター化させないことが最も重要な目標になります。『あれ、もしかしたら』と思ったら、すぐに報告し、休める雰囲気を作りましょう」。

【3日目19時】讃井から院内のおもだったスタッフへ。麻酔科医がPCR検査で陰性だったこと、その他の症状もなく体調が良いことを周知。

【5日目15時】麻酔科医から讃井へ。復帰許可に対する返事。「ご迷惑をおかけして申しわけありませんでした。感染対策は徹底しておりましたが、体調管理にもより一層注意して勤務していきたいと思いますので今後とも何卒よろしくお願いいたします」。

 幸い、この麻酔科医は新型コロナウイルスに感染していませんでしたが、もし感染していたとしてもクラスター化は防げていたでしょう。初動対応をすばやくできていたからです。

 そこで鍵となっているのは、報告です。報告をできるか否か、言いかえれば、報告をしやすいかどうかが初動対応の成否を握っています。

 皆さんの所属する組織は報告しやすいでしょうか? 次回は病院を例に、企業文化・風土やガバナンスについて話をしたいと思います。

(6月14日口述 構成・文/鍋田吉郎)

※ ここに記す内容は所属病院・学会と離れ、讃井教授個人の見解であることをご承知おきください(ヒューモニー編集部)。

◎讃井 將満(さぬい・まさみつ)
自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長・ 麻酔科科長・集中治療部部長
集中治療専門医、麻酔科指導医。1993年旭川医科大学卒業。麻生飯塚病院で初期研修の後、マイアミ大学麻酔科レジデント・フェローを経て、2013年自治医科大学附属さいたま医療センター集中治療部教授。2017年より現職。臨床専門分野はARDS(急性呼吸促迫症候群)、人工呼吸。研究テーマはtele-ICU(遠隔ICU)、せん妄、急性期における睡眠など。関連学会で数多くの要職を務め、海外にも様々なチャンネルを持つ。

◎鍋田 吉郎(なべた・よしお)
ライター・漫画原作者。1987年東京大学法学部卒。日本債券信用銀行入行。退行後、フリーランス・ライターとして雑誌への寄稿、単行本の執筆・構成編集、漫画原作に携わる。取材・執筆分野は、政治、経済、ビジネス、法律、社会問題からアウトドア、芸能、スポーツ、文化まで広範囲にわたる。地方創生のアドバイザー、奨学金財団の選考委員も務める。主な著書・漫画原作は『稲盛和夫「仕事は楽しく」』(小学館)、『コンデ・コマ』(小学館ヤングサンデー全17巻)、『現在官僚系もふ』(小学館ビックコミックスピリッツ全8巻)、『学習まんが 日本の歴史』(集英社)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。