世界的な傾向ですが、検査は万能だという誤解があるように感じます。けれども、繰り返しになりますが、PCRをはじめ各種の検査は、病気の存在を100%正しく白黒はっきりさせてくれるものではありません。病気の可能性の高さ、低さを示してくれるひとつの材料に過ぎないのです。また、もし検査が陽性でも陰性でもその後の対応、つまり感染防御の方法が変わらなければ、検査を行う意味は、患者や医療従事者の安心材料、あるいは疫学的調査に限定されるでしょう。

 たとえば、当院では、予定手術前には、術中にウイルス暴露のリスクが比較的高い手術に限定してPCR検査を行っています。ただし、PCR検査の結果に関わらず、ウイルス暴露リスクの高い手術や処置には、完全なPPE(個人用防護具)対応を行います。もし検査の結果によらずその後の対応が変わらないのであれば、検査の目的は安心材料の提供に過ぎません。


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 一方、症状があって来院する多数の“疑い”患者に接する医療従事者にとって、PCR検査の結果がわかることは重要な要素です。なぜなら、目の前の患者の経過や接触歴、CT検査を組みあせて判断することで、感染があるかないか、その確度を上げることができ、患者に接する心構えや対応が変わるからです。

 夜間、車を運転するには、性能が良くないヘッドライトだって、ないよりははるかにましなはず。もし陽性であればますます注意深く対応し、陰性であればPPE(個人用防護具)レベルを下げることができて資源の節約につながります。じつは、夜間にヘッドライトなしに車を運転する恐怖は、つい先日まで我々医療従事者が身を持って体験したものでした。

 ただ、気をつけなければならないのは、今現在は巷にほとんど新規感染者がいない感染縮小期であるということです。確かに感染爆発期に、PCR検査の適応は広くしたほうが良いと思いますが、今は、冷静な、賢い使い方が理にかなっていると思います。

クラスター拡大を防ぐ3つのポイント

「院内感染は起こりうる」と念頭に置いて行動する――それは医療従事者に限らず、社会一般でも同じだと思います。

 できるだけ感染予防に努める。無症状でも感染している可能性があることを忘れない。疑わしい症状が出たら(発症したら)、感染を広げないよう適切に対処する。・・・感染リスクはゼロにはできないことを前提に行動していただければと思います。

 では、手洗いやマスクの着用以外にどんな行動をとればいいのでしょうか。当院では、状況に応じたPPE(個人用防護具)レベルの変更のほかに、おもに3つのポイントを重視しています。

 1つ目は、職員ひとりひとりの健康状態チェックです。発熱、だるさ、味覚・嗅覚の異常などを日々チェックしてもらっています。また、発熱したスタッフや接触があったスタッフは毎日健康観察表をつけてもらい、より正確に、できるだけ早い段階で発症を捕まえるよう心がけています。


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 2つ目は、自分の過去1、2週間の行動チェックです。どこで、誰と、どのように接触したか。マスクはつけていたか。接触歴がなくても感染は否定できませんが、検査が陰性だった時に本当に感染していない確率が上がります。これは、とくに発熱など症状があったスタッフにとって重要です。