このような万一の事態も想定して陰性確認後も慎重に感染防御策をとっていたので、院内感染は起こりませんでした。とはいえ、あらためて新型コロナウイルスの怖さを感じました。

検査は万能ではない

 新型コロナウイルスの感染リスクはゼロに近づけることはできても、ゼロにはできません。今後は、「院内感染は起こりうる」と念頭に置いて診療にあたらないといけないと考えています。

 たとえば、手術など、別な理由で患者が入院し、その時点でPCR検査が陰性だったとしても、100%感染していないとはいえません。入院時に陰性だった患者が、入院して4~5日後に急に発熱してじつは感染者だった、ということがあるのです。

 PCR検査の感度(新型コロナウイルスに感染している方が、PCR検査で陽性となる割合)はおよそ70%と考えられています。つまり、感染していても30%が陰性と出てしまいます。

 しかも、発症までの潜伏期間中は陰性と出る確率はもっと高く、発症3日前ではほぼ全員が陰性、発症前日でもまだ60%が陰性と出てしまいます。症状がない人へのPCR検査を無意味とまではいいませんが、検査した時点で陰性でも、その後に症状が出て感染が判明するケースがあるのです。その一方、潜伏期間中の感染力、つまり他人へのうつしやすさは、発症後と同程度であることも報告されています。

 にもかかわらず、「入院前や手術前に患者にPCR検査をすれば感染者の紛れ込みは防げるんだ」「陰性だったら無罪放免」とする傾向が医療界に少なからずあるように感じます。

 これは非常に危険です。検査の陰性は非感染を100%証明できないのですから、医療従事者は、院内感染が起こることを前提に、院内感染が起こったらどうするかを常に考えて行動しなければならないのです。