危険運転致死傷 時速146キロで不適用か

2020年6月22日 07時35分
 国道で時速百四十六キロの乗用車がタクシーに衝突、四人が死亡した事故で、津地裁は危険運転致死傷罪を適用しなかった。その理由は、市民感覚からすれば、とても分かりやすいとは言えない。
 痛ましい事故だった。男性被告(58)の車は、二〇一八年十二月二十九日夜、津市の国道23号で、制限時速六十キロの二・五倍近い猛スピードで直進し、国道を横切っていたタクシーの右側面に激突。乗客と運転手計四人が死亡し、乗客一人が重傷を負った。
 津地検は、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)の罪で懲役十五年を求刑。同罪が適用されず無罪になった場合に備え、同法違反の過失運転致死傷罪でも起訴した。判決は後者を選択し、法定刑上限の懲役七年(求刑懲役七年)を言い渡した。
 争点は、この事故で危険運転致死傷罪が成立する二条件とされた(1)車の制御が困難な高速度だったか(2)被告に危険性の認識(故意)があったか−だった。
 判決は「わずかなミスで思い通りの運転ができなくなる高速度だった」と(1)を認めた。半面「事故の危険性を具体的に思い浮かべていたと認めるには合理的な疑いが残る」と(2)は認めなかった。分かりにくい論理展開ではないか。
 一橋大の本庄武教授(刑事法学)は「いわば、<客観的に見れば危険な運転だったが、被告の主観では危険運転ではなかった>という流れだが、一つの事実に相反する判断をしており、構成には違和感をおぼえる」と話す。
 危険運転致死傷罪は、東名高速道で酒酔い運転のトラックが女児二人を死亡させた事故などをきっかけに二〇〇一年に制定された。現在の法定刑は一年以上の有期懲役(最長で懲役三十年)。成立条件として高速度のほか、アルコールの影響、殊更に赤信号を無視、あおり運転−など計六項目がある。
 厳罰ゆえ適用に慎重になる場合も。酒気帯びに加え一方通行の逆走、無免許運転、さらに無灯火だった死亡ひき逃げ事故(一一年、名古屋)の被告が、危険運転致死罪では起訴されず、自動車運転過失致死と道交法違反などの罪で裁かれた例もある。
 いたずらな厳罰化を疑問視する意見がある一方、「適用への基準が厳しすぎる」との批判も強い。今回の裁判では、被告側が量刑不当を訴えて控訴した。「時速百四十六キロは危険運転か否か」を二審の場で再度、分かりやすく審理してもらいたい。

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