香港の自由を支える「一国二制度」を根幹から揺るがす法案である。中国政府に対し、法案の撤回を強く求める。
香港での反体制的な言動を取り締まる「香港国家安全維持法案」の概要が公表された。
全体像の詳細はまだ明らかにされていないが、中国が香港への導入を決めた国家安全法制の柱とされる。中国による統制を格段に強める項目が多く盛り込まれている。
香港の法律を中国が頭越しに立法化することはこれまでになかった。香港の既存の法律と整合性がとれない場合は、新法を優先させるのだという。
香港の民意も、国際社会の懸念も顧みず、香港から「高度の自治」を奪い去ろうとする、きわめて乱暴な行いである。
香港の憲法にあたる基本法は、中国政府の各部門は香港政府の事務に「関与してはならない」と定め、中央政府の「管轄権」を厳しく制限してきた。
しかし概要によると、今後は中国の機関を香港に新設し、国家の安全に関わる犯罪に直接対応できるようにするという。
そうした事件の裁判は香港の行政長官が任命した裁判官が担当する、との項目もある。これでは中国寄りの判決を導く圧力が強まるのは間違いない。
香港返還に向けて、1984年に中英両国が出した共同声明は、香港の「独立した司法権」を約束していた。だがこの法制化で、一気に骨抜きにされる恐れがある。
一連の手続きは異例の性急さで進められている。香港メディアによると、中国の全人代常務委員会は来週にも、新法を成立させる可能性がある。
7月中旬には、今秋に予定される香港立法会選挙の立候補届け出が始まる。新法により、民主派は立候補資格を取り消されるのでは、との不安が高まっている。
世論調査では香港市民の6割超が法制化に反対している。しかし、英系金融大手HSBCなどは、逆に支持を表明した。中国当局がさまざまな経済活動の分野で圧力をかけたためとみられている。
民間企業が政治的な「踏み絵」を迫られているとすれば、自由で開かれた経済文化を誇った香港の地位は、すでに変質のふちにあるとみるほかない。
今回の動きに対し、日本を含む主要7カ国は共同声明で「重大な懸念」を表明した。今後もさらに中国に再考を迫る努力を強めるべきだ。
「一国二制度」の国際公約を軽んじ、人権を尊重しない強権の発動は、香港にとどまらず、世界全体に波及する深刻な事態と捉えざるをえない。
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