月に何回も打ち合わせに行くところがあった。
原宿に近いところにある(今は移転した)深澤直人氏の事務所だ。
コア商品を性能的にリニューアルし、デザインを変えるというもの。
当時INFOBARなどで名が知られた、
深澤氏と契約することになった。
デザインをすることに興味はあったが、売上が落ちつつあるモノ、特に市場が小さくなっているモノをリニューアルしても販売が伸びるとは正直思っていない。
しかし、デザインという分野の仕事も好きなので、嫌な気分でもなく、むしろ前向きにやっていた。
正直、設計などの職種が多く、工業系の勉強をしてきた人かベタベタの営業しかいない会社だったので、企画的なセンスやデザイン面での勉強をしてきた人はいなかった。
私が芸術大学と言うこともあったし、社内にMacintoshコンピュータを導入し、部分的な内製化を始めたのも私であったので、デザインに興味があると社長は思ったのであろう。
たぶんそれは正解だった。
2005年に深澤直人氏とつくった、デザインランゲージを基に一つ一つ基盤商品を変えていくというプロジェクトが水面下で進展していたのだ。
はじめの商品は朱肉をつくった。
単純ではあるが深澤直人氏のデザインは造形が難しい。
シンプルすぎて再現が難しいと言ったところだろうか。
以前ドイツのFrogDesignと商品をつくったことがあるのでデザインランゲージを使うデザイン展開は初めてではない。私自身はすぐに意図を理解し飲み込めたが、会社側はたぶん本質をわかっていない。
デザインランゲージは、古くはアップルコンピュータも採用しており、FrogDesignが提案したSnow Whiteというデザインランゲージで初期のMacはデザインされている。
ちなみに我が家には1987年製の初のカラー化MacであるMacintosh IIが未だにある。
これもSnow Whiteデザインだ。
たかが事務用品だが、深澤氏のデザインランゲージをもとに実際の設計をするために、デザイナーと設計者の間をつなぐことに注力した。
深澤氏の意図はすごくわかりやすい。
大きな特徴がないのが特徴だ。
今まであったデザイナの中で私好みの考え方をする方である。
一方開発者は手ごわい。
量産性や成型のヒケやパーティングラインの出方などを計算するので、これはできない、あれもできない、で何とかつくりやすい形状に変えようとする。
ランゲージに合致する改変は許可するが、そうでない場合は却下。
何度も議論を繰り返し形にしていった。
おかげで2006年深澤氏と私はグッドデザイン賞を受賞することができた。
つづく