あの会社の商品企画の基礎はこの頃から、できてきた。それまでは、
「商品開発」
をしていて
「商品企画」
をしていなかった。
思いつきで商品を作って、売ってみる。
売れなかったら次を作るという生産性の悪いやり方が中心だった。
何かを変えるのがこんなに大変だとは思わなかったし、正しいと信じた道を行くのは、こんなに孤独で辛いとは思わなかった。
私はこれで会社を辞めました。11話です。
それまで会社では商品は商品開発部門がつくり、企画部門がパッケージデザインと広告宣伝、販売促進をやるという分業だったが、私が新商品企画のプロジェクト事務局をやってから、商品企画という仕事が独立することとなり、商品開発部門の影が薄くなった気がする。
というか、企画から提案がないから、開発するものがない。という言い分が通るようになってきた。
開発部門が受け身になって、自ら何かをつくることから離れていく感じがひしひしとわかった。
そんな中、当時の開発担当役員は、開発からも商品を出すことを継続して推進する人で、商品に関しては、よく開発談議をしたものだ。
商品開発部門のMT役員とは別に仲が悪いこともなくお互いに淡々と仕事をしてきたが、彼は彼なりに売れる商品を会社に提案したいと思っていたのだろう。
それ自体は自然なことだし、少人数の商品企画担当だけでは新商品の企画は出ない。
だから今までどおり開発が技術発想の商品を提案し続けてくれることは歓迎すべきことだと思っていた。
ある日、
寒天
を使った粘土の企画を聞かされる。
私が開発推進したおなまえスタンプが学童文具と言う同社では新しいカテゴリーの商材だったので、今後もそのカテゴリーの商品を増やすつもりだったので、本来歓迎すべきものだが、すこしひっかかる企画だった。
もう少し内容を練って売れる確率を上げてから商品化すべきとしてコメントした。
しかし、開発の担当取締役は売れると信じて疑わない。
万博会場でユーザーテストをしたり、社長に直訴して商品化の許可を得たりという行動に出た。
一応、社内の商品化プロセスというものがあって、会議で承認されなければいけないものだが、取締役が社長に許可をもらって商品化できるのであれば、社内プロセスはいらない。
そういう、手順を守らないというのは私自身がとても嫌いなことがあって。
相手が取締役だろうと協力する気になれなかった。(今思えば頑固だったなぁと反省する部分もあるが)
「かんてんねんど」は2005年に商品化されることとなるが、会社の被る損害を考えると商品化しないほうがよいと最後まで進言した。
双方ロジカルな主張があり、
開発の取締役のロジックは、小麦粘土は小麦アレルギーのある子は使えない。
だからアレルギーのある子でも使える寒天を材料にした世の中ではじめての粘土は売れる。というもの。
私が売れないのでやめたほうがいいと考えたロジックは、小麦アレルギーの子の発生頻度が莫大には多くない。
つまりターゲット人数が少ない。また、仮にアレルギーがあったとしても「紙粘土」、従来の「油粘土」といった代替品が安く手に入る。
自宅で粘土を使うことが少ない今、高い値段の粘土を幼稚園や保育園で購入することは考えにくく、市場が大きいとは思えないというもの。
この会社にいてすごく感じたことは、他社商品を知らなすぎる。
小麦アレルギーのある子は、小麦粉粘土が使えない。それでは小麦じゃない粘土を。おっ、売れそう。と言う一見ロジカルだが完全に破綻の論理。
これは一定法則と客観事実を並べて検討するアブダクションという論理展開ができればすぐにわかること。(アブダクションに関しては2020年5月発売の著書に記載)
ようするに、小麦が使えない、すなわち違う粘土なら大丈夫。違う粘土が他社にあるか=経済的な油粘土、紙粘土など多数ある。
ジャクエツなど幼稚園や保育園に納入する業者さんはすでに油粘土を取り扱っている。
また、家庭で遊ばせないのであれば価格が適正でなければならない。100円均一でも紙粘土の取り扱いはあり、それらと競合するわけなので高額な商品では太刀打ちできない。
だから売れない。
だから商品化しないほうがよい。
と主張しているだけなのだが、わかってもらえない。
結局商品は売ってみないとわからないと言う精神がすり込まれているのだ。
であれば、調査もマーケティングもいらない。
売れる確率を上げるのが私たちの役目なのに売れない確率が高いものを商品化する意味がわからない。
もうひとつ、商品化推進の原動力があった。
この商品を考えたのが研究所の
若い女性2人
ということである。
もともとは天然素材を使ったゲル化剤の研究で液体粘度を上げる研究をしていたところ、ゲル化した液体を「粘土」に使えると最終商品化してしまったのだ。
彼女たちには罪はないが、周りの男連中が嫌われまいと商品化に協力的だったことは一目瞭然だった。
彼らの関心ごとは
若くて可愛らしい女性
がつくった商品の商品化を手伝ってあげたい。
私の関心ごとはこの商品は売れるのか、売れないのかだけ。
作った人の容姿で商品が売れる売れないが決まるわけではないので、どんな可愛い女性が作ろうとダメなものはダメ。
ただそれだけ。
最終的には、とうとう副社長からも「社長がつくっていいと言っているのになんで協力してあげないの」とお叱りを受けることに。
そうなっては仕方ない。
私が折れるかたちで商品化したが80gで650円という高価格となりカタログにもまだ載っているがほとんど売れない商品である。
おいおい、副社長や取締役に楯突くなんて、どんだけお前生意気で偉いんだよと思われるかもしれないが、別に仲が悪いわけではないし、私も敬意をもって接している。
ただ、思ってもいない「副社長の仰るとおり」とか、「さすが取締役!これは売れそうですな」という、時代劇の桔梗屋のような媚びた発言が苦手だっただけ。
この頃から、売れる商品と売れない商品の分析を個人的に始める。
売れた商品ね武勇伝はいろんなところに書いてある。
でも、失敗商品の原因を企業は多く語らない。
しかし、この会社にいると、たくさんの失敗商品のデータが取れる。
これを成功商品と比較して、何が成功と失敗を分けているのかを研究すれば、さらに企画の成功率は上がる。
少ない新商品で莫大な貢献ができるわけだ。
しかし、余りにも成功確率にこだわる私の仕事の仕方は少しずつ周りとの溝を広げることとなる
つづく