拡大するコロナの時代 薄氷の防疫
私たちは果たして新型コロナウイルスの感染対策に成功したのか。もっと早く拡大を抑え込み、「自粛」に伴う経済的打撃を減らすことはできなかったのか。日本モデルを誇る前に、感染者が急増していた時期に起きたことを3回にわたり検証する。それが「次の波」に備える力になる。「薄氷の防疫」シリーズ第2回。
人口約58万人を抱える東京都杉並区で地域医療を支える荻窪病院。村井信二院長は3月下旬、感染者の急増に「このままでは院内感染が起きる」と恐怖を感じた。区内では19日以降、連日で新型コロナウイルスの感染者が確認され、1週間過ぎるごとに累計は12人、30人、88人と膨れあがっていた。
新型コロナは2月1日に感染症法上の指定感染症に指定され、感染者は原則、対策の整った感染症指定医療機関(指定病院)の専用ベッドで受け入れてきた。
指定病院ではない荻窪病院が都から2月に求められたのは、酸素吸入が必要な中等症の症状があるが、感染しているか未確定の患者用のベッド2床の確保。PCR検査で陽性と分かれば、指定病院に転院してもらう手はずだった。だが、感染拡大後、指定病院の受け入れが止まった。陽性患者も自身の病院で診ざるを得なくなり、対応するベッドの増床を余儀なくされた。
4月に入ると、自宅で検査結果を待つ軽症者が急変し、救急外来で人工呼吸器をつける事態が2度起きた。人工呼吸器が必要な重症者は指定病院が対応するはずだった。この間、救急車は断り、急性大動脈解離や心筋梗塞(こうそく)などの救急医療が中断した。「通常の医療ができなくなる医療崩壊が起きていた」と村井院長は振り返る。
拡大する東京都の入院者数の推移
3月26日。文京区の日本医師会館であったテレビ会議で、都医師会の幹部が都内の窮状を伝えた。政府の専門家会議のメンバーでもある日本医師会の釜萢(かまやち)敏常任理事は耳をうたぐった。「空いた途端にベッドが埋まり、待機者がたくさんいる。通常では考えられない。緊急事態宣言を早く出してもらわないとだめだ」
新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言は、私権制限も伴い、専門家会議でも慎重論は強かった。だが、非公式の集まりで釜萢氏が会議メンバーの医師らに確認すると、現場が深刻だという認識で一致した。
専門家会議は4月1日、切迫感を前面に出して提言した。「爆発的感染が起こる前に(中略)医療現場が機能不全に陥る」。政府は7日、7都府県に緊急事態宣言を出した。安倍晋三首相は会見でこう説明した。「全国的かつ急速な蔓延(まんえん)には至っていないとしても、医療提供体制が逼迫(ひっぱく)している地域が生じていることを踏まえれば、もはや時間の猶予はない」
都内の指定病院の感染症専用ベ…
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6/21 21:00 時点
退院者数はクルーズ船の乗客らを含めた数。厚労省などによる
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