October 4, 2012sao 16.5 | basketleoskyarchive.fo/mIPA■Sword Art Online #16.5■ 窓から差し込む仄青い月光が、ベッドの上に複雑な陰影を作り出している。 繁華街の無いセルムブルグ市ゆえに深夜ともなると人通りもぱったり途絶え、聴こえるのはかすかに届く湖のさざめきくらいで、ともすると早鐘のような俺の鼓動が部屋中に響いているような気すらしてくる。 着衣をすべて解除した俺とアスナがベッドの上で正座して向かい合った状況が、すでに約2分半継続していた。両手を膝の上でぎゅっと握り締め、俯いたままのアスナの表情を読み取ることはできない。俺からなにかアクションを起こすべき状況なのだろうが、悲しいかなすべての選択肢の結果がさっぱり予想できず、無言の硬直を強いられている。 仮にここで「ゴメン!」と一声叫び、マッハで最低限の着衣を装備してダッシュで部屋から遁走をキメたら一体どうなるだろうか。明日会ったとき「しょうがないなぁー」と笑って許してくれるようなことなないだろうか。――ないに決まっている。 遠い記憶を振り返ると、俺はSAOにログインしたときはわずか14歳だった。中学二年生の冬だ。当時の自分のことなど思い出したくもないが、同年代の男子が通常発生させ得る性衝動エネルギーをとことん犠牲にしてまでネットゲームにのめり込んでいたので、女の子の部屋で二人きりなどというシチュエーションにはついぞ遭遇したことはなかった。裸で向き合う状況においてをやである。 この際、実は俺より少々年上なのではないかと思われる(そしてこの方面の知識も俺よりはあるであろう)アスナに仕切って頂きたいというのが偽らざる本音であるが、SAO内では、彼女を含む周囲の人間はどうやら俺を実年齢よりかなり高く見積もっているらしく、そしてそれをあえて今まで訂正しなかったため、今更彼女に向かって「じつはボク......」などと言い出す真似はとてもできない。1/12
俺は覚悟を決めた。たとえ知識と経験はなくとも、俺のアスナに対する気持ち、未だかつてこれほど愛した人はいないというその感情だけは確かなものだ。SAO開始以後、何回か「どうあろうとここで逃げるわけにはいかない」という状況に直面したことがあるが、それら全てを上回るほどの意思力を振り絞って、俺は体ごと前方に移動しながら右手を伸ばした。 指先で、優美な曲線を描くアスナの肩にそっと触れる。彼女がぴくんと体を震わせる。そのまま指を、鎖骨のラインから首筋へとゆっくり辿らせる。「んっ......ふっ......」 目を閉じたままのアスナが、かすかな吐息をもらした。その頬がみるみる上気し、眉がきゅっとしかめられる。 かねてから、アスナをあれこれいじってその反応を見ることにひそかな楽しみを見出していた俺は、彼女の新鮮なリアクションに少々感動し、調子に乗って指先を触れるか触れないかの距離に保ちながら、ゆっくりと滑らかな肌の上にすべらせ続けた。両胸をしっかり隠している二の腕を這い降り、お腹を撫で回し、再び反対側の腕を登っていく。「ひゃ......んぅ......っ」 俺の指が動くたび、アスナの体がぴく、ぴくと震え、甘い声が漏れる。ひとしきり彼女の全身を撫でまわしたあと、俺は右手の指をちいさなおとがいにかけ、くい、と上向けさせた。濡れたように輝く桜色の唇を、左手の人差し指で丹念になぞる。「やぁ......指だけじゃ......やだ......」 顔をぽうっと上気させたアスナが、うすく目をあけ、うるんだ瞳で俺を見ながら言った。「キス......してよぅ......」「......」 俺は無言で顔を近づけた。アスナの唇が、待ちきれないといったように軽く開けられる。 だが、俺はすぐには唇を合わせず、舌先で彼女の下唇をそっとつついた。「ふぁ......」 アスナは、自分から求めるように舌を差し出してきたが、それを避けるように舌を動かし、軽く触れるにとどめさせる。2/12