PCR検査強化、保健所増員…10年前に提言されていたのに…新型コロナに生かされず
2020年6月21日 07時50分
厚生労働省が新型インフルエンザ流行後の2010年にまとめた感染症対策に関する報告書の提言が、事実上放置されてきた。保健所の組織強化や人員増、PCR検査の体制強化が課題として明記されているが、新型コロナウイルスの感染拡大まで十分に実行されてこなかった。加藤勝信厚労相も国会で、報告書で求められた対応の遅れを認めている。 (村上一樹)
報告書は、政府の新型インフル対応を検証した厚労省の総括会議がまとめた。
国立感染症研究所や検疫所、保健所など感染症対策部門の組織や人員の「大幅な強化」の必要性を訴えた。感染研については、米疾病対策センター(CDC)など各国の感染症担当機関を参考にした組織強化を提言した。PCR検査体制強化も明記した。政府対応の記録に関しては、意思決定過程を可能な限り公開する重要性を指摘した。
こうした提言は新型コロナ対策には生かされなかった。
感染研は新規採用が抑制され、一九年度の研究者数は三百七人で一〇年度より十八人減った。安倍晋三首相は当初のPCR検査数の少なさを認め、その原因について「目詰まりがある」と語った。政府の専門家会議は各メンバーの詳しい発言内容を記録する議事録を作成していない。
加藤氏は十五日の参院決算委員会で、提言について「時間的な問題があり、まだ適用できていないものもある。今後に向けての対応として、しっかり活用したい」と対応遅れを認めた。一二年末から一四年九月まで厚労相を務めた田村憲久衆院議員も本紙に「(在任時は)最優先課題に挙がっていなかった」と語った。
新型コロナに関する政府諮問委員会の尾身茂会長は五月二十日の参院予算委で提言を巡り「国民から選ばれた政治家が今まで以上にしっかりやっていただくことが必要だ」と求めた。
◆元厚労相”放置”を反省 「最優先課題にしなかった」
自民党の新型コロナウイルス関連肺炎対策本部長の田村憲久元厚生労働相=写真=は本紙のインタビューに対し、二〇一〇年に厚労省がまとめた感染症対策に関する報告書の提言が十分に生かされなかったことを認めた。 (聞き手・村上一樹、坂田奈央)
-〇九年の新型インフルエンザ流行の反省を踏まえた厚労省の報告書には、PCR検査の強化などが明記されている。
「(一二~一四年の在任中に)何とかしなくてはという最優先課題に挙がっていなかったのは反省点だ。韓国や台湾における重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の流行経験は日本にはなかった。対岸の火事とせず、わがふりを直さなくてはいけなかった」
-新型コロナでの政府、厚労省の対応で問題点は。
「初動が遅れたことは事実だ。クルーズ船対応で厚労省がかかりきりになってしまった。そこに全精力をつぎ込んだため、PCR検査の件数も伸びなかった」
-その後もPCR検査数が増えなかった。
「検査能力だけでなく、検体採取や運搬のマンパワー、防護具、検査後の療養場所の確保などがそろわないと検査ができない。どこかが目詰まりしていたら増えない」
-新型コロナへの対応などで、安倍政権の支持率が低下している。
「歴代最長政権であり、どんな内閣より批判を浴びるのは当然だ。その前提で自らを律し、情報を開示していかなければならない」
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