聞き手・机美鈴 聞き手・山本晃一 机美鈴
新型コロナウイルスの経済対策で決まった、1人当たり10万円の特別定額給付金。「少ない」「遅い」といった不満の声も上がりながらも、ようやく人々の手元に渡りつつあるようです。アンケートで使い道を尋ねると、生活費にあてる、寄付する、貯蓄に回す……など、多様な回答が寄せられました。10万円、みなさんはどう使いますか?
給付金10万円の使い道は? #ニュース4UのLINEアンケートに集まった声を紹介します。
●やむなく滞納した税金に回す
休校で子どもを預けられなくて仕事に行けなくなったり、会社が休業になったり、収入自体が減ったのに生活費が急増。年度初めで税金、学費もいつも以上にかかり、恥ずかしながら税金滞納中。払います。(栃木県・40代女性)
●消費で産地の手助けを
出荷できずに困っている産地の商品を買う。(神奈川県・60代男性)
●原付きバイクでウーバーイーツ
ウーバーイーツを始めるために、原付きを調達します。自己投資であり、それをカラダで稼いで回収します。利益の一部は社会貢献に使う予定です。(東京都・40代男性)
●オンライン環境設備費の穴埋め
子どものオンライン授業のための環境設備で買ったパソコンとルーター代の穴埋めです。(大阪府・50代女性)
●事業の運転資金に
小売業。国の特別貸し付けを申請中ですが、まだ借り入れできていません。なので事業の運転資金にあてたいです。(宮崎県・40代女性)
●音楽に助けられたから
ギターを買いたい。自粛期間中は音楽に助けられた。音楽業界を支援したい。(神奈川県・30代男性)
●ひとり親家庭、子の進学費用に
現在中学3年生の子を持つ母です。ひとり親家庭で、私立高校ではなく都立高校を本命にしています。少ない給料の中やり繰りは大変ですが、子供が通いたい!と言う都立高校の制服代、教科書代に使いたいです。(東京都・40代女性)
●体調が心配 国保料に回します
4、5月の収入が激減しました。体調が悪く、国民健康保険料が払えないと病院にも行けなくなると思い、とにかくこれを払います。(山梨県・60代女性)
●難民キャンプやホームレス支援に
支援が減り、苦しんでいる難民キャンプに寄付しようと思っている。また、ホームレスの方の支援などにも寄付したい。(神奈川県・10代女性)
●10万円より先に税の支払用紙
少な過ぎて右から左です。コロナで収入が減ってるのに、支給は6月。金が無いのに、税金の支払用紙は遅れず送られてくる。ナメとんか。(奈良県・40代男性)
●20キロの米があっというまに
家族が皆、ステイホームのおかげで、光熱費はもとより、トイレットペーパーや日用消耗品代が大幅に増えました。食費も朝昼晩と家で食べると、20キロのお米があっという間になくなります。仕事が減って収入は下がるし、失業したわけではないからぜいたくは言えませんが、生活はギリギリです。(千葉県・60代女性)
●旅行やめて貯金に
当初は旅行でお金を回そうと思っていましたが、公務員なので、今後給与が下がる心配があると判断し、貯金に回すことにしました。(三重県・20代男性)
ひとり親家庭の子どもたちのための学習塾を大阪府内で2カ所運営しています。生徒は約50人。ボランティアの大学生が講師を務め、世帯の負担を減らしています。僕自身がひとり親家庭で育ち、精神的、経済的に苦しい経験をしたことが原点です。めざすのは、「どんな家に生まれても子どもが前向きに生きることができ、その生き方で誰かの支えとなれる社会」です。10周年を迎え、かつての塾生が大学に進み、講師になって戻ってきています。
新型コロナをきっかけに格差の拡大が既に始まっていると実感しています。保護者にアンケートをしたところ、約半数から「収入が減った」「来月の収入がない」といった声が上がりました。休塾や退塾の申し出も複数寄せられています。
休校が続いたことで、家庭に全部の負担がのしかかりました。家で子どもの勉強を見るお金や時間の余裕のある家庭と、そうでないところとの差は歴然です。ひとり親の多くは非正規労働で、在宅勤務が許されず出勤せざるを得ません。親たちからは、子どもの生活リズムが崩れ、ユーチューブやゲームばかりといった嘆きが聞こえています。
休校期間中、オンライン授業も実施しましたが、あまり相性が良くなかった。オンライン環境の問題に加え、勉強に腰を据えられる家庭環境でないこと、意欲に欠けがちな子どもと対面せずに向き合う難しさもありました。いまは密にならないように配慮しつつ、従来型の授業を始めているところです。
寄付を財源に、1万2千円の月謝を免除する奨学金制度を設けています。コロナ禍の現在、例年の倍のペースで申し込みが来ています。それでも今の残高で支援できるのは年間最大10人程度です。定額給付金の一部でも、と呼びかけています。
「どうせ自分なんて」と思い込みがちな子どもに、どうすれば「頑張ることは意味があるんだ」と思ってもらえるのか。学校は再開しましたが、先生方も余裕がなく、取り残される子どもは出てくるでしょう。学校でも家でもないところで子どもに関わる自分たちのような存在が担う役割はますます重要になると思います。(聞き手・机美鈴)
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わたり・つよし 1989年、熊本県生まれ。未婚の母子家庭で育つ。中学時代に兄の借金や祖母の介護などで家庭が一変。大学進学を機に「あっとすくーる」を設立。活動や支援は「あっとクルー」で検索。
これからの家計、どうしたらいいの……私の元にも先行きを不安視する声が寄せられています。でも、この不安こそがくせ者なのです。
リーマン・ショックの時の相談事例でも、不測の事態に動揺して家計の収支に頭が回り切らず、資産を目減りさせてしまった人がいました。
私自身、例外ではありません。今回は外出自粛だし洋服は買わない!と決めていたものの、在宅のストレスで食材やお酒をちょくちょくお取り寄せしてしまい……カードの明細を見たら、「不要不急」な出費が総額10万円。給付金がそっくり自粛生活の「我慢料」として消えた計算です。正直、反省しています。
気持ちを安定させるためにお金を使ってしまうのは、誰にもあり得ます。それでもダメージを最小限に食い止めるには、収支をきちんと把握し、今後の支出の予測を立てること。まず提案したいのが、外出を控えた4月と5月の支出の洗い出しです。
家族全員が巣ごもりするとどのくらいの食費がかかるのか、何にお金を使いすぎてしまったかなど、その家ごとの特徴が見えてくるはず。仮に今後、感染の第2波、第3波が来たときにどのくらいのお金が必要になるのかがわかります。
休業や雇い止め、ボーナスカットなど、収入の大幅な減少が見込まれる場合に提案したいのが、今後の支出の予想を立てることです。
昨年までの実績をもとに、ローン返済や税金などコロナ禍にかかわらず確実に出ていく支出を○、子どもの部活動の遠征などコロナ禍の推移によっては生じないかもしれない支出を△、ボーナスをあてにした海外旅行など今回は出費を見合わせる項目を×として、必要となるお金のめどをつけておきましょう。
新型コロナに限らず、家計の危機は10年に1回は訪れるもの。危機の最中はなかなか客観視しづらいものですが、漠然とした不安にとりつかれるのではなく、手を動かして家計の見直しをする人こそが強くなれるのだと思います。(聞き手・机美鈴)
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ふかた・あきえ 1967年、北海道生まれ。ファイナンシャルプランナー集団「生活設計塾クルー」取締役。著書に「知識ゼロの私でも!日本一わかりやすいお金の教科書」(講談社)など。
特別定額給付金について、慶応大学経済学部の井手英策教授に聞きました。
僕は所得制限付きの給付は社会を分断すると指摘してきました。ただ、それは福祉や医療、教育などサービス(現物)についてで、一律の現金給付を主張したことはありません。
欧州諸国では、サービス給付に加え、現金給付、例えば住宅手当など低所得層向けのセーフティーネットが平時から手厚い。所得が減ってもひとまず生きていけるし、臨時的な給付を、元々の保障の仕組みに上乗せすればよく、効率的です。
それに対し日本では、困窮状態に陥っても医療や教育、介護などを安心して受けられるサービス給付の基盤が不十分です。収入減が生活不安に直結し、パニックが起きるから、バラマキに走ってしまう。
確かに、ウイルス感染による死者数などを見れば、日本は事態をコントロールしています。しかし、中小企業や非正規雇用の状況はどうか。アジア通貨危機や山一証券などの破綻(はたん)後、1998年は失業者が増え、自殺者が前年より約8千人増えました。
いま国がやるべきは、そうした事態を防ぐセーフティーネット作り。雇用を守る安全網を整備することです。
今回の給付金は単発の事業で13兆円もかかりましたが、生死の境にいる人たちの保障に集中すべきでした。審査が大変と言われますが、給付額を増やしても、低所得層に集中させた方が断然安い。浮いたお金を審査の迅速化に使えばよかったはずです。困っている人に思いを致すことができなくなったら社会は終わります。
僕たちにはどこかに移動したり店を営業したりする権利がある。それを「感染防止」の大義名分で制限する。しかも補償もない。社会や国家に対する義務ばかりが論じられ、言うことを聞かなければ名前をさらし、相互監視や密告までする。まるで「穏やかな全体主義」です。
政府は「国民との一体感」と言いましたが、それは「個」を滅却し、全体に没せよと言うに等しい。そうではない。
なじみのない言葉かもしれませんが、個人と個人が連帯する意識を持つ「共在感」をつくっていくことが大事です。今こそ富裕層や大企業も負担に応じ、痛みを分かち合うべきです。同じ社会を生きる仲間同士が支え合う仕組みをどうやって作るのか。決定的な局面に僕たちはいるのです。(聞き手・山本晃一)
課題を解決するため、市民に支援を呼びかける動きが広がっています。一部を紹介します。
●全国小劇場ネットワーク 19都道府県の36劇場が参加しクラウドファンディング(https://readyfor.jp/projects/shogekijo-network)を実施。寄付金は感染防止対策や、「ウィズコロナ」時代に対応した企画を行う劇場に、参加劇場の合議で配分。京都の「THEATRE E9 KYOTO」の芸術監督、あごうさとしさんは「1劇場だけでなく、みんなで乗り越えていきたい。皆さんに助けて頂きつつ、出来ることから地域にお返ししていきたい」。
●ブリッジフォースマイル 児童養護施設からの自立を支援するNPO。施設や里親家庭で暮らせるのは原則18歳まで。退所者に家賃や食料品補助を行う。https://www.b4s.jp/entry/relief/
●東京アンブレラ基金 路上やネットカフェで生活している人たちを支援する「つくろい東京ファンド」など都内の15団体が協働し、一時的な宿泊費を手渡す。https://umbrellafund.tokyo/
●ひとりじゃないよPJ 困窮する女性や子どもたちの生活支援、学習支援、安全な居場所の確保などの活動をしている全国約20団体を紹介するサイト。活動団体のリストから応援したいところを選び、寄付する方式。https://www.hitorijanai.org/
●移住者と連帯する全国ネットワーク 生活に困窮する移民や難民、外国ルーツの人に現金3万円を給付するための「移民・難民緊急支援基金」を実施。https://migrants.jp/campaign/20200504.html
●プラン・インターナショナル 世界70カ国以上の途上国の子どもたちを支援する国際NGO。コロナ対策緊急支援の一環として、国内の女の子向けのチャット相談も実施している。https://www.plan-international.jp/
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「10万円が自粛生活の我慢料に消えてしまった」というファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんの言葉にハッとしました。支給対象や金額がころころ変わり、スピードも遅いと批判が出ました。ですが、一律の給付金は、ままならない日々へのいらだちを若干和らげる“ガス抜き効果”があったのかもしれません。
しかし、10万円では到底カバーしきれない打撃や損失に苦しむ人は今なお大勢います。必要な支援を届けるのは基本的には政治の役割です。10万円で目くらましされることなく政府の動きを注視し、どうしても行き渡らない部分は自らも寄付で支援する、そんな「心の目」を持ち続けたいと思います。(机美鈴)
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