専用病棟で重症患者のケアに当たる看護師(5月20日、京都市上京区・京都府立医科大付属病院)

専用病棟で重症患者のケアに当たる看護師(5月20日、京都市上京区・京都府立医科大付属病院)

 肺に障害が残るリスクを覚悟で人工呼吸器を使うべきか、それとも投薬治療を選ぶべきか。「未知の病気だけに手探りだった」。新型コロナウイルスの感染者を受け入れている済生会滋賀県病院(栗東市)の越後整医師(44)は、1人の重症患者の男性を担当した。

■「アビガン」投与も効果なく

 高熱の男性は苦しそうに肩で小刻みに呼吸し、食事も取れなかった。血中の酸素飽和度は低く通常の肺炎なら人工呼吸器の適用だが、本人の意識ははっきりしていた。「他の肺炎と進行が違う。見定めにくかった」

 日本中の研究機関から毎日のように公表される新型コロナに関する論文を片端から読み、すでに重症患者を受け入れた県外の病院に電話して見解を聞いた。「肺に障害が出るリスクを避けて投薬で回復させることができる」。そう判断した。

 1週間、抗ウイルス薬のアビガンを投与したが効果はなかった。その後1週間は炎症を抑えるためステロイド薬も併用した。すると熱が下がり体調が改善し、約1カ月で退院できた。「結果として投薬で正解だったが、効果が出るまではいつ人工呼吸器が必要になるか分からず、難しい治療だった」と振り返る。

■「ECMO」治療、10人がかりで

 新型コロナの感染症で治療方法はまだ確立していない。同病院では人工呼吸器の適用は見送ったが、重症化すると人工呼吸器や人工心肺装置「ECMO(エクモ)」を導入するケースもある。ほかの病気の治療で使うことはあるとはいえ、ECMOを用いる際も新型コロナの患者ならではの困難さがあった。

 「ECMOを使うとして、どこで患者に機器を装着するのか。そこからだった」。京都府立医科大付属病院(京都市上京区)の藤田直久・病院教授(64)は説明する。

 同病院では、重症呼吸不全の患者1人にECMOを適用した。ECMOを導入する場合、静脈から血液を装置に送る必要があり、多くの処置が伴う。「万全を期すために手術室でやることに決めた」

 人工呼吸器や点滴を着けた患者を病室から手術へ運ぶ際、ほかの患者と接触しないようルート上についたてを設けた。感染防御の装備をした医師や看護師ら約10人が作業に当り、循環器内科の医師がECMOを装着。その後は、臨床工学技士がECMOの日々の動作を確認した。「さまざまな職種の力を結集して治療に取り組んだ」と強調する。

■「設備だけでは治療できない」

 京都府の感染者向けの病床は6月上旬時点で431床。うち人工呼吸器やECMOを備えた重症者用は86床となっている。しかし藤田病院教授は「設備があるだけでは治療できない。装置を使える人材がいて初めて意味がある」と語る。

 医療現場で試行錯誤が続いただけに、行政が感染者を収容できる病床数として公表する数字と実際の状況には乖離(かいり)が生じた。府医師会の松井道宣会長(62)は、府内の医療体制について「重症者病床の場合、数字の上では80以上を確保していたが、人員の問題で実際の上限は20床くらいだったのではないか」と指摘する。軽症者も重症者も特定の病院に集中したことも背景にあるという。

 第1波は、現場の奮闘と府民の行動制限の効果で医療崩壊にはならなかった。しかし第2波も同じように切り抜けられるとは限らない。松井会長は「治療のノウハウはある程度は蓄積した。第2波では感染者を早期に診断し、隔離・入院のために病院やホテルでうまく役割分担するシステムを機能させる。そうすれば医療体制をより強化できる」と話す。