クトゥルフ系ラノベの世界へようこそ
2004年に「クトゥルフ神話ガイドブック」を書いた。以下は、2004年の拙著「クトゥルフ神話ガイドブック」以降の、クトゥルフ系ライトノベルの拾い上げである。
クトゥルフ系ラノベの定義
まず、実際に、クトゥルフ系の定義をしよう。正確に言えば、「クトゥルフ神話作品」のクトゥルフ神話の度合いを以下のような基準で計測していくというものである。
クラスⅠ:クトゥルフ神話作品(宇宙的な恐怖)
明確にクトゥルフ神話に属するオリジナル作品であり、ラヴクラフトが目指した宇宙的な恐怖を表現するものである。ここには広義の神話作品が含まれる。青心社の暗黒神話大系クトゥルーに入っているものから、「魔界水滸伝」や「邪神ハンター」まで含む。
クラスⅡ:クトゥルフ神話作品のリメイク、コミカライズ、映像化
クトゥルフ神話作品として分類できる作品などを別のジャンルで表現し直したしたもの。コミカライズや翻案作品などがこれにあたる。最近で言えば、「超訳ラヴクラフト・ライト」シリーズがこれに当たる。
クラスⅢ:シェアード・ワード(メジャー)
クトゥルフ神話の要素やクトゥルフ神話由来の用語が重要な形で使用されている。宇宙的なホラーかどうかは重要ではない。クトゥルフ神話を取り込んだライトノベル、例えば、ラヴ(クラフト)・コメディ「這いよれニャル子さん」は、このカテゴリーとする。
これとクラスⅠの境界線はホラーであるかないかに尽きる。日本のライトノベルでも、きちんと(ラヴクラフト的な)コズミック・ホラーになっていれば、クラスⅠとする。
クラスⅣ:シェアード・ワード(マイナー)
クトゥルフ神話用語が多少使われているだけの作品。例えば、最終回のオチにクトゥルフの邪神を持ってきた場合とか、地名や団体名で使われている場合など。「スプリガン」における「アーカム財団」や「ラヴィニア・ウェイトリー」などのような事例を含む。
クラスⅢとⅣの境界線は非常に曖昧なので、あと、評者の趣味と気分によるが、「文豪ストレイドッグス」におけるラヴクラフトは触手が暴れているので、クラスⅢにしたいものだ。
風に乗りて歩むもの (クラスⅠ)
北アメリカ五大湖地方を舞台にしたロードムービータイプのホラー・ミステリー。
主人公の私立探偵兼タクシードライヴァ(表記ママ)のボギィは、旧知のアローニ警部から “石ころ(グラニット)”と呼ばれる東洋人の少女を運ぶように頼まれる。「行先は言えない」と警部に言われるまま、少女と旅を始めるが、何かに襲われることになる。そう見えない何かに。
クトゥルフ神話ファンなら思いつく、あの邪神が登場することになる。作者の原田宇陀児(はらだ・うだる)は、「leaf」に所属し、美少女ゲーム「WHITE ALBUM」や「ToHeart」のシナリオを経て、ガガガ文庫で「新興宗教オモイデ教外伝」シリーズを執筆したが、本書を最後に、同名義での作品は後を絶った。
うちのメイドは不定形 (クラスⅢ)
自称探検家の親父によって、南極から何か送られてきたら、ショゴスのメイドさんでした!
何かの塊をお湯で戻すと、メイドさんの出来上がり。
メイドさんになったテケリさんは、メイドだけ不定形、メイドだけどショゴスなので最強生物。
……という実にラヴ(クラフト)・コメ展開のクトゥルフ神話系ライトノベル。バトルあり、メイドあり、神話ありの濃密な展開が楽しい。続編を待望します。
2010年にして、人外ラブコメだったりするのは、先見の明か?
共著者の一人、森瀬繚氏は、クトゥルフ神話研究家であり、シャーロキアンにして、指輪物語フリークであり、パソコン・ゲーム歴史家で、昨今はアニメのシナリオライターとしても活躍中という方。おかげで実は結構、濃いネタが入っています。
森瀬氏は私(朱鷺田)と一緒に、毎年、3月15日にラヴクラフトの命日イベント「邪神忌」、8月20日にラヴクラフトの誕生日イベント「ラヴクラフト聖誕祭」を阿佐ヶ谷ロフト@で開催しております。
今年ももうすぐ邪神忌。
今回は、ラヴクラフト没後80年ということで、基本に帰って邪神の話をする予定です。
未完少女ラヴクラフト(クラスⅢ)
新進惰弱な少年カンナは片思い中の少女の顔に開いた穴に吸い込まれ、異世界スウシャイへと迷い込む。そこで出会った少女ラヴに救われたが、ラヴは呪いによって「愛」に関する言葉を封じられていた。これを取り戻すにはカンナの世界に戻り、もうひとりの自分の創作活動を止めなくてはならない。
ラヴクラフトを美少女化したラヴをヒロインに据えた異世界ファンタジー。ホラーじゃないが、ラヴクラフトの異世界ファンタジー系統であるドリームランドものの系譜であるからだ。
第二巻では、毒舌少年ビアスも登場し、芸術の国ウルタールへ向かう。
作者の黒史郎氏は、「リトル・リトル・クトゥルー―史上最小の神話小説集」でデビューしたホラー界のエースである。
災厄娘(アイリーン)in アーカム (クラスⅠ)
ミスカトニック大学の美しき新任准教授アイリーン・ウエストは、謝恩会の出し物でサロメを演じていたが、そこに、不定形の異形が出現する。狙うのは、彼女が持つ〈黎明の天使〉。そして、国家安全局(NSA)まで加わり、事態は加速していく。
マーシュ家とウエスト家の血筋を引く美貌の准教授を主人公にしたホラー活劇。新しいクトゥルフ神話を目指した一作。
共著者のひとり、新熊昇氏は、『ネクロノミコン』の作者アブドゥル・アルハザードを主人公にした幻想恐怖譚『アルハザードの遺産』の作者でもある。
この他、多数のクトゥルフ系ラノベが次々刊行されている。
そちらに関しては、引き続き、連載「クトゥルフ補遺」において、拾っていきたい。