新型コロナの感染予防対策で公共図書館の多くが休館した。在宅時間を使って気になっていた本を読みたい。仕事や子どもの自習に役立つ資料がほしい。そんな望みをかなえることができず、利用者と図書館の双方が悔しい思いをした。
次に感染の波がきた時に備えて何をしておくべきか。経験やアイデアを共有し、社会全体で知る権利と自由を守りたい。
図書館や美術館などの活動を支援する市民団体「saveMLAK」によると、ピーク時には全国の9割超の図書館が開架エリアも立ち入り禁止の措置をとった。今も新聞・雑誌の閲覧やネット端末の利用を制限している館が少なくない。
いつにも増して多様な情報が必要な時期なのにアクセスできない。そんな状況に困惑し、図書館の存在意義を改めてかみしめた人も多いだろう。
一方で、予約本については窓口での貸し出し業務を続ける、送料を負担してもらって自宅に郵送する、ドライブスルー方式で本の受け渡しをする――といった工夫で、市民との接点を維持したところもある。
電子書籍の貸し出しは大幅に伸びた。扱っている自治体は100以下にとどまるが、これからの図書館を考える際の必須のアイテムといえよう。
再開が難しいサービスの一つに、子ども相手の絵本の読み聞かせ会がある。日本図書館協会は、外出自粛要請が出ている期間中は読み聞かせの動画を配信できるよう、著作権者の協力を求める運動に取り組んでいる。ぜひ前に進めてもらいたい。
難しい問題も持ちあがった。
協会は感染防止のガイドラインを作り、「来館者の氏名と緊急連絡先を把握する」とした。だが協会自身が定めた「図書館の自由に関する宣言」は、借りた本はもちろん、図書館を利用した事実も含めてプライバシーを守るとしている。図書館が思想統制の担い手になった戦前の反省を踏まえた約束だ。当初示された「来館者名簿の作成」には批判が出て、緩やかな表現に落ち着いた経緯がある。
感染者の来館が後でわかったら、その日時をホームページに載せて広く注意を促すことにとどめる図書館もある。何らかの形で記録を残す場合でも、目的や取り扱い方法を利用者に丁寧に説明し、保存期間を極力短くするなどの対策をとるべきだ。地域の感染状況なども踏まえながら、多くの人が納得できる対応を心がけてほしい。
誰もが、いつでも、気軽に訪れ、古今東西の「知」に接することができる場。コロナの時代でも、そんな図書館の使命を果たし続けなければならない。
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