決まったコースは歩かない
虚勢ではなく、ホンモノの自信を学生時代から身につけていたのが、土井氏と一緒に司法試験を受けた岩瀬大輔氏(34歳)だ。
経歴がすごい。東大受験の名門として知られる開成高校から東大法学部に進み、4年生のときに司法試験に合格。
卒業後はハーバード・ビジネス・スクールに進学し、日本人では当時過去3人しか受賞者がいなかった「最優等生」(BakerScholar)で卒業した。
といっても、岩瀬氏も、いわゆるガリ勉や受験秀才とは程遠いタイプだ。
「高校2年のときジャズにはまって、コンサートに行ったりジャズ喫茶に入り浸ったり。ジャズミュージシャンに可愛がられて、夜、色々なところに連れていってもらいましたね。当時は両親が海外赴任していたので、寮で一人暮らし。自由でやりたい放題でした。それでも東大に入れたのは、僕が帰国子女で、勉強をしなくても英語で点数が稼げたからだと思います」
在学中に司法試験に受かったほどだから、検事や弁護士になるのが通常のコースだ。しかし、岩瀬氏はあえて避けた。
「そのまま司法研修所に入って弁護士を目指すのは、まるで自分が歯車になるようで嫌でした。それに、自分にしかできないことをやりたいという思いがあった。社員が大勢いる大企業も、高給で人気が高い外資系も嫌だったので、ベンチャーを目指したんです」
まず入社したのはボストン・コンサルティング・グループ。2年後にインターネット・キャピタル・グループの日本法人立ち上げに参画し、リップルウッド勤務などを経て、'08年、ライフネット生命保険の取締役副社長に就任した。
人と同じである必要はないということを、岩瀬氏は父親の赴任のために小学校2年から6年までを過ごしたロンドンで学んだという。
「ロンドンに行った当初は、私は他の人と同質的であることを求める日本人的な子どもでした。異質であることを怖がっていたんです。でも、その学校では日本人は私一人。髪の色も違うし、一人だけオニギリを食べているし、どうしたって人とは違う。5年もそんな日々を送っていると、『他の人と違っていてもいいんだ』という考えになってくるんです。それが卒業後の進路選択にまでつながっている」
東大とハーバードでは、ハーバードに愛着があると岩瀬氏は言う。理由を聞くと、なるほどと思う。
「東大の場合は、先生の評価の9割方は研究の成果だと思います。だから研究さえしていればいいという人も出てきて、しゃべりは下手だし、学生に教える気もなく、黒板に向かってボソボソ話す先生もいる。つまり大学のシステムとして、授業の面白さがまったく求められていないのです。
ところがハーバードでは、研究の評価と授業の評価の比率が半々で、東大と比べると授業の評価が格段に高い。当然、先生は真剣になるし、授業も面白い」
東大の「トップ5人」は、このように全員が実にユニークだ。彼らに共通しているのは、決まったコースを歩む気はまったくないということ。東大を一つの通過点としてとらえ、ゴールとは考えていないことだ。東大にいちばんこだわっていない彼らが、東大のホンモノのトップ。そこに天才の秘密がありそうだ。
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