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この作品 「物思い」 は「ワートリ【腐】」「いこみず」等のタグがつけられた作品です。

お題箱のリクエストで書いた一品。いこみずというよりいこ←みず。大丈夫。この世界線...

糸村

物思い

糸村

2019年9月13日 22:52
お題箱のリクエストで書いた一品。いこみずというよりいこ←みず。大丈夫。この世界線の二人はくっつくさ!!
ボーダーのランク戦ブースにて、生駒は自隊の隊員である水上が、同い年だと思われる者達と話しているのを目にした途端、そちらへ歩を進めた。眉間には少々の皺が刻まれており、圧のある顔面と相まって、周りの​──主にC級隊員がびくりと体を震わせる事となった。水上の方はと言うと、生駒が近付いているのに欠片も気づいておらず、話し相手となっていた荒船が、視線を自らから逸らし、僅かに目を見開いた事により、漸くそれを知った。自分もそちらを向いた時にまず驚いたのは生駒の表情だ。普段、喜怒哀楽どれにも属さない(人によっては怒に見える)殆ど無に近いものであるその顔に顰めた眉間が鎮座しており、微かに苛立ちが募っているのが分かる。次は水上が自分を見た事に気づいた生駒による爆弾にも近い一言だった。
「なあ、水上。今、お前には三つの選択肢があるんやけど、どれがええ?俺にお姫様抱っこされて作戦室に行くのと、俺に俵かつぎされて作戦室に行く。に、後は自分の足で作戦室に行く。やな。あっ、作戦室を仮眠室に置き換えてもええで」
「いやいやいや。いきなり何言うてはりますの?」
見慣れない表情で突然現れて、その上、意図の読めない事を言う生駒に困惑するばかりで、上手く考えをまとめられない。
「水上。最近、何や疲れとるやんけ」
「そんな事ないっすよ」
当たり障りのない事を口にしつつも、心の内で冷や汗が止まらない自分を水上はどこか他人事のように自覚していた。最近の睡眠時間は普段のそれより格段に短く、埃が床に積もるように疲労が蓄積している。まだ学校で寝落ちするような事態には陥っていないが、それも時間の問題だろう。
この人にだけは、気付かれたくなかった。
嘆いた所で、生駒の記憶を消せる訳でもなし。取り敢えず有耶無耶にして話をあちらから切り上げさせるように仕向けよう。ほんの一時しか効かないだろうが、とんでもない言葉を吐かれるよりはマシだ。もう既に手遅れな気もするが。僅かな会話の間でそう思案した水上は、改めて生駒の顔に焦点を合わせた。
「ついこの間までテスト期間やったからでしょう。別に大丈夫ですよ」
「それだけやないやろ」
何故、こんなにも食い下がってくるのか。普段は戦闘時以外、あまり発揮される事のない勘の良さをここで使わないでくれ。早く話を打ち切りたいのに。そんな焦りを顔に出さないよう意識しながら、凪いだ表情で向かい合った相手を見つめる。
「理由を教えてくれとは言わんけど、無理はせんといて。とりあえず寝てくれ。余計なお世話かもしれんけど、お前のことが心配なんよ」
真っ直ぐにこちらを気遣う言葉に、胸の内に蔓延っていたものが、はらはらと削がれていくのが分かる。
「……分かりました。作戦室に行きます」
息をつきそうになるのを抑え、若干の間を開けてから、水上は生駒の発言に従う旨を伝えた。
「自力で?」
「当たり前やないですか。というか、お姫様抱っこやら俵かつぎやら出来ると思うとるんですか?」
「当たり前やろ。お前を持ち上げられん程ヤワな鍛え方してへんわ。生身でもイケる自信あるで」
「さいですか」
愚問であったな。この人と自分では身体能力に天と地ほどの差があるのを失念していた。
「それじゃあ、失礼します」
「おう。はよ休みぃ」
「はい。スマン、荒船。話の腰折って」
生駒の闖入によって会話が止めになっていた事を思い出し、荒船に詫びを入れた。
「構わねえよ。また次会った時聞く」
「俺からもごめんな。先に言わんとあかんかったのに」
「生駒さんも気にしないでください。隊長として心配になるのは俺も分かりますから」
「荒船くん、ええ子すぎんか?」
生駒が荒船と話している隙に、そっと距離を取り、そのまま背を向けて歩いて行った。

だだっ広い本部をしばらく進むと、目的地に到着した。扉を開けて、一直線に歩み寄り、ベッドの上に転がる。幸い、作戦室の中には誰もいなかったので、これで存分に考え事が出来る。
「あんたのせいやぞ、イコさん」
ぼそりと、恨み言にも似た響きの呟きを落とした。
最近の睡眠不足の原因。それは、自分の所属する隊の隊長である生駒達人その人であった。正確に言うと、彼に抱いた拗らせた想いによって、である。
まさか、あの人に対してこんな劣情を発生させるとは微塵も予想していなかった。これで寝る時間が削られるなんて、少女漫画の主人公じゃあるまいし。自然と、自嘲の篭った笑いが漏れる。はてさて、まだこれを自覚してからあまり日が経ってないと云うのに、もうこの有様か。どう誤魔化していくべきだろう。生憎と、嘘八百は己の十八番だ。いくらでも術は思いつく。彼に看破されない保証はちっともないが。七面倒臭い事この上ない。まずは、この想いを何かしらに落とし込む所から始めなければ。そう思い直し、自身の感情と向き合う事にした。
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