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この作品 「宿り木」 は「ワートリ【腐】」「嵐イコ」等のタグがつけられた作品です。

とにかく叫びたくなって青い鳥で嵐イコについて喚いていたらお題箱が息を吹き返してリ...

糸村

宿り木

糸村

2019年9月5日 20:15
とにかく叫びたくなって青い鳥で嵐イコについて喚いていたらお題箱が息を吹き返してリクエストが送られてきた件について(ラノベタイトル風)
という訳で(?)リクエストにお応えして書き上げた嵐イコです。18巻の例のシーンを見て爆散した結果がこれだよ。
その夜、いつもより早めに寝入っていた生駒に、何かを確かめるように扉を叩く音が耳に届いた。
横にあるチャイムを押すという発想さえ浮かばぬほど疲弊しているのかと、完全には覚めきっていない頭の中で、ぼやきながら鍵を開ける。
「寝てたのか。起こしてすまない」
「いや、別にかまへんよ。あがり」
「ありがとう」
「腹減ってるならカレーチャーハンあるけど食うか? シーフードミックス入りやぞ」
「それは美味しそうだな。好意に甘えさせてもらおう」
「じゃあ、温めるわ」
コンロの方へ向かう生駒を横目に、嵐山は着ていた上着を脱ぎハンガーにかけると、手を洗い、自身も家主のいるコンロの前へと歩みを進めた。
冷蔵庫から鍋を出し、コンロに火をつけていた生駒は、背後に温い物体がのしかかってきたのを事も無げに受け止めた。今、家の中にいるのは生駒以外にただ一人で、抱きついているのは誰かなんて分かりきっているし、この行動にはもう慣れていた。
「准ちゃん、火使ってる時は危ないから気いつけてや」
抱きついてきた当の本人はと云うと、そのまま無言で頭を肩口にぎゅうぎゅうと押し付けてくる。
「今日もおつかれさん。よく頑張ってるな。ええ子やな」
頭を撫でてやりたかったが、生憎、今は料理を温め返しているのでそれが出来ないのが惜しい。その髪の触り心地と指通りの良さは極上だ。絹糸のように滑らかで、美しい鳥を想起させる。
「……ありがとう、生駒」
「ええんやで。温まったし飯食べよ」
「ああ」
疲れの抜けきらない表情をした嵐山を、手を引いてテーブルへ誘導して座らせる。
「いただきます」
「召し上がれ」
手を合わせて挨拶をして、黙々と炒飯をかき込みだすと、そこには張りつめたような静寂が広がるのみだ。生駒は、ただ嵐山を眺めている。作法について厳しく躾られたのか、彼が食事する際に音を立てることは殆どない。だから殊更、それが身にひたひたと這い寄るように迫ってくる。やがて、それが脳まで達したのを認識した途端、全身が動かなくなってしまったような錯覚を覚えるのだ。すぐにそれからは解き放たれるが、毎度のことながら驚いてしまう自分が不思議で仕方がなかった。まあ、この男が無表情で淡々と飯を食う風景なんぞ、何回見ても慣れないものだと一人結論づけた。
「ありがとう。すごく美味かった」
蓮華を置くと、嵐山は、僅かに口角を上げて味の感想を述べた。
「それはよかった」
「色々、世話になってしまったな」
「何回も言うとるやろ。気にせんでええって」
「それはそうだが」
「飯を食って美味いと思えるなら大丈夫。風呂入ってはよ寝えや。疲れていても明日はまた来るんやし。そんで笑った顔見せてくれればそれでええから」
「ありがとう。生駒には、何度感謝してもし足りない」
「じゃあ俺は寝るからな。おやすみ」
「おやすみ。また明日」
「ん」
市民の前で、三門の象徴の如く強烈に輝くこの男も人間だ。ここが羽を伸ばす場所になれるなら、それで充分だ。
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