pixivは2020年3月30日付けでプライバシーポリシーを改定しました。

詳細

pixivへようこそ

この作品 「ツメアワセ」 は「ワートリ【腐】」「いこおき」等のタグがつけられた作品です。

一時期Twitterに、気が狂ったように投稿していたいこおきをやや修正したり大改...

糸村

ツメアワセ

糸村

2019年7月29日 00:36
一時期Twitterに、気が狂ったように投稿していたいこおきをやや修正したり大改造劇的ビフォーアフターなどをしたログ。文字数の少ない順に並べました。短いので約500、長くて2500ぐらいの文章です。当方、関西出身では無い為方言は似非です。ご了承ください。解釈違いが発生しても自衛等出来る方のみお進みください。それではどうぞ。
『月と湖』
イコさんは、見るもの全てに感動しているんじゃないかというぐらい、常に何かを見て、はしゃいだり、珍しがったり、面白がったりしている。
表情筋が出不精なので、一見、あまり変わっていないようにも思えるが、見下ろした先にある瞳はキラキラと輝いていて、歓喜に染まっているのがよくわかる。だが、今日はその視線の先に写っているのは自分だ。いつもの、イケメンだと褒めそやす発言もなしに、ただこちらを真っ直ぐと見つめている。何を考えてるのか、皆目見当もつかない。
「イコさん、どうしたんですか。顔に何か付いてます?」
「いや、隠岐の目ん玉が綺麗やなって思て」
「へ?」
「あの詩人が月を取ろうとして死んだ湖はきっとこんな色やったんやろうなと思って」
「えらい詩的な表現ですね」
軽く笑みを浮かべて受け流すが、内心は恐慌状態に陥っている。いきなり、こちらの心臓を撃ち抜く(この人なら切り伏せる、だろうか)のは勘弁してほしい。まさか、自分の瞳を褒められるなんて予想していなかった。
もう、どうしようもないぐらい惚れてるのに、これ以上深みを嵌るのはごめんだ。

『顔を眺める』
暖かな空気に包まれて目が覚めた。
カーテンからは淡い光が、閉じ損なった隙間から滲み出ており、影と組み合わさって、レース編みのように複雑な模様となっている。くわりと、欠伸を一つしてから目元を擦ると、隣に眠る恋人に視線を移す。
珍しい。いつもは自分より先に起床して、朝食を作り出すのが常だと云うのに。早寝早起きを体現したようなその人の寝顔を、肘をついて眺める。いつもの凛々しさと芯の強さを感じる表情はなりを潜め、穏やかな顔つきで幼子のように眠りについている。
この調子だと恐らく、まだ目覚めるのは先のことだろう。この人が一度眠ると、なかなか起きないのは、短くない付き合いでもう知っている。
今は何時だろうと時計の方を見遣ると、まだいつもの起床時間よりほんの少し早い。という事は、まだ眠りに身を委ねているこの人の顔を目に焼き付けられる。本当は写真を撮りたいぐらいだが、携帯を取る為に動いたら流石に起きてしまう可能性がある。彼の睡眠を妨げるのは、こちらとしても本意ではないので、眺めるだけに留めておく。
今まで付き合った相手だとしたら起きたらさっさと着替えて帰るのが常だったのに。
こんな小さな事を幸せだと感じられる自分になんだか泣きそうになった。

『昨夜の話』
八重歯。
午後一番の授業。老年の教師のゆったりとした語り口に、船を漕ぎそうになった時、ふと、その言葉が思い浮かんだ。多分それについて考えたのは、制服の下で、ジクジクと疼いている、湿布を貼った、歯型の痕が残る肩口がその存在を訴えてきたからだろう。昨日は、珍しく生駒の方から誘われた。何だと聞かれると、返答するのが気まずい類のものだ。端的に言ってしまえば、性的な行為である。平日ど真ん中だったこともあり、かなり遠慮がちな声色であった気がする。そんなこと、かまいはしないのに。いつもは自分の方から、日を問わず、もはや襲うと形容するに相応しい誘い方をしてるのだから。それにこちとら男子高校生だ。所詮、ヤりたい盛りという奴で、性欲は有り余っている。珍しい、彼からの誘い。する理由はそれだけで充分だ。しかも、そういう時は、いつもよりぎらついた目で、こちらを射抜いて、少しばかり荒々しく、頭のてっぺんから爪先まで食べてくれると、もう知っている。
互いに領域を侵して、快感で頭の中がぐちゃぐちゃにかき乱れて、それに何もかも委ねきっていた時、唐突に彼は一度大きく口を開けた。ぼんやりとした脳で、それを眺めていると、首の近くで、鋭い、針で刺すような痛みが降って湧いた。幾ばくか遅れて、どうやら肩を噛まれたらしいと、ようやく認識する。彼は跡が残るのを気にするので、思いきり噛んでくるのは珍しい。刹那、痛覚ですら快感に色を変える。全く、阿呆になった脳みそは便利なものだ。捕食にも等しい行為に、こうして震えて善がって果てることが出来るのだから。最後に脳裏にチラついたのは口を開いた時に見えた、犬歯にも思える八重歯だった。
昨夜のことを振り返っていると、いつの間にか、もうチャイムの鳴る時間が迫っていた。黒板に記されているものをノートに書き写そうと、慌てて手を動かす。
火花が散るような微かな痛みを感じ取り、掌でそっと肩を撫ぜた。

「『食育』について」
「えぇ……。何それコワイ」
「どこが怖いっちゅうねん。健全な食育の話やろ」
今日は久しぶりに本部へ寄り、食堂を利用しようとしたら、生駒っちと向かい合って話している未来を視た。まあ避ける理由もないし、飯を一人で食うのも味気ないと思い、その未来を出迎えた。だが結果はこれである。あの時の自分を全力で殴り飛ばしたい。感情を乱される羽目になった理由は、先程話題に出された『食育』にある。
このブレない武士のような男は女の子大好きと言っておきながら、なんと二つ年下の同性の狙撃手と付き合っているのだ。それを知った時は大層驚いたが、恋愛なんてどう転がるか分からないものだし、当人同士が合意しているなら、当事者でないこちらに手を出す権利はない。正直、仲裁だのなんだのをする事態にもなってほしくないのが本音だが。
けれど、なんだかなあ。思わず溜め息が口をついて出る。
これはおそらく、無自覚だからどうすることも出来ない類のもので、その恐ろしさに気づく者も限られているだろう。大概の人間は違和感なんて持たない。けれど、一応指摘した方が良いかもしれない事だ。恋愛沙汰に意図せず巻き込まれるのは久しぶりだ。しかも、巻き込んだ当の本人は欠片も気づいていない。これだから天然は嫌なんだよ。と心中で叫ぶ。
「だって、食欲って人間の根本的な欲求でしょ? それを支配するなんて恐ろしくて震えちゃうよ」
「支配って大袈裟やな。俺はただアイツのことを心配して飯食わせてるだけやぞ」
「でも付き合う前は口出さなかったんでしょ。過干渉に入るって自覚はあったんじゃないの」
「せやな。おかんでもないのに、世話焼きすぎてる気もせんでもないけど放っておけなくてな。でも、支配やないやろ。こんなん」
「いやいやいや。これがね、まだ付き合う前の隊長とその隊員って関係なら、おれも世話焼きで過保護だなで済んだよ。けどさ、今は恋人同士でしょ? だからおれとしても、ちょっと文句というか忠告みたいなことを言ってしまいたくなる訳よ。だって、まるで、もう離さないって言って相手のことをぐるぐる巻きに縛っているように見えるからさ」
「えらい不思議な感性を持ってるんやな。迅は」
「んー。確かにそうかも。まあ、支配じゃなくても、餌付けなのには変わりないよ」
「餌付け? 動物の世話やあるまいし」
「まあ、要するに、生駒っちは、あの子の胃袋を掴みにかかってるってことだよ」
「……そうなんか?」
「少なくとも、俺にはそう見えたよ。まあ、悪いことじゃないから良いんじゃない? 多分」
これで話は終わりだと理解させる為に、空になった食器の乗ったトレーを手に取って席から立ち上がる。
「じゃあね。また会う日まで」
「旅人みたいな台詞やな。まあ、今度また飯食いに行こうや」
「うん。それじゃあ」
そう言えば、あの子は『食育』についてどう考えているのだろう。勘は決して悪い方ではなかったはずだ。……薮蛇だな。これ以上考えない方が良さそうだ。彼とあの子が何やら話し込んでる未来が視えたのを、見なかったふりをして振り切るようにスタスタと歩き続けた。

『夜に度々訪れる隠岐くん』
「イコさん、こんばんは」
空が、墨を注いだかのようにとくとくと明度を落として、しばらくした後。鍵が開く音さえなければ気がつかなかったのではないかと思う程、密やかな気配を携えて、隠岐は生駒の部屋へ訪れた。
「こんばんは?」
「語尾が疑問形になってますよ」
「さっきまで一緒におったから、なんや変な感じがしてな」
「それもそうですね」
付き合い始めてそれなりの期間を経て、迎えた彼の誕生日のプレゼントに部屋の合鍵を渡した。その時見せた喜怒哀楽を綯い交ぜにしてぶちまけたような表情は今でも鮮明な記憶として残っている。
そして、隠岐は時々、夜も更けた頃に自分の部屋に来るようになった。

「あ、お取り込み中でした?」
目線はパソコンや本、やや乱雑に積み重なった資料が置かれた机の上に向いている。
「ちょうどレポートやってたところやってん」
「そんなら、おれ帰った方がええですか? お邪魔でしょう」
「アホ。こんな夜遅くにイケメンが一人で歩いたら危ないやろ。今の時間やと補導されるし。それに、俺はせっかく家に来てくれた恋人を帰らすほど野暮な輩じゃないわ」
こういった事を話すと毎回、隠岐はきょとんと言う擬音が似合う少々幼げにさえ見える表情を覗かせる。
そんなにすぐ帰ろうとしなくてもいいし、むしろ好きなだけここに居ればいい。その権利を、鍵を渡した時に、この少年に差し出している。最も、目の前にいる彼はそれに気づいていないようだが。

「そうですか。……コーヒーいれましょうか?」
「ん。頼むわ」

ひたひたと歩を進め、勝手知ったる何とやら、慣れた手つきで、コーヒーの粉の入った袋やカップを出して、湯を沸かし始めたその後ろ姿を、なんとはなしに見入ってしまう。
隠岐がコーヒーを淹れるのが上手いのを知ったのは付き合い始めてすぐの頃だった。

「隠岐、そんなにコーヒー好きやったのか」
「好きと言うか、その、夜に何となく起きていたくなる時があって、そうしたら、いつの間にか淹れてて。要は慣れです」
「そうなんか」
「イコさんは夜はぐっすり寝てたクチですか?」
「せやな。修学旅行とか、特別な時以外は基本。まあ、今は防衛任務とかレポートやらでそうも言ってられんくなったけどな」
コーヒー粉を入れたフィルターに静々とお湯が注がれ、ぽたりと一滴ずつ垂れる時間に交わされる会話の中で、隠岐は疑問を呈した。
「じゃあ、今は特別な時ですか?」
「うーん。確かに特別っちゅうか貴重な時間ではあるけど、これを日常にできたらええなと思っとる」
「……どういうことですの?」
分かっているはずなのに、それを飲み込めていない。小骨が喉に詰まったような顔をしてみせる彼に、生駒はもっと具体的に説明してみせた。
「同棲なりなんなりして、物理的に傍にいたいって言うた」
「そんなとこまで想定しとるんですか」
「ん。まあ、すぐに答えを出してほしいとは言わん。先はまだ長いしな」
「……考えときます」
そう言って、こちらにコーヒーを渡してから、自分用のカップの淵をそっと指でなぞっていた。

「イコさん、いーこさん。……やっと気付きましたか。どうぞ」
「おう、すまん。おおきに」
呼びかけの聞こえる方へ目を向けると、隠岐がテーブルの傍にしゃがんでコーヒーを差し出していた。
イカンな。つい思い出に気を取られすぎた。今、目の前には完成させなければならないレポートが鎮座している。改めて意識をそちらへ向ける。すると、隠岐が自分の隣に座って、寄りかかる姿が視界に入った。
先のことを話す機会は、自分が繋ぎ止める努力をしている限り、これから何度でも起こりうる。
一先ず、コーヒーと寄り添う温度があれば充分だ。

『猫の訪問』
空のキャンバスが、藍と紅を描き始める日の入りの初め。
珍しく任務もランク戦もない日で、真っ直ぐ自宅の方へ足を向けている事に違和感を覚えてしまう。
職業病っちゅうやつかと溜息を吐き、肩にかけていたバックから鍵を取り出すと、扉を開く。自分の「ただいま」という声がどこか乾いて響く。一人暮らしだ。当然、中には誰もいない、はずだった。
「うっ、おぁ……?」
ベットの上に、デカい猫が丸まっている。勿論、あくまで比喩で、実際そこにいるのは、制服を床に脱ぎ散らかして、布団も被らずカッターシャツだけの状態ですやすやと眠り込んでいる二つ年下の恋人であった。
靴を脱いで揃えてから、忍び足でベットへ近付く。荷物を置いてしゃがみ込んだ時に、もしかしたら、これまで立てた音で起こしてしまったのではないかと焦ったが、彼の方はというと、まさしく白河夜舟と言った様相で、瞼を閉じている。
さて、どうしたものか。合鍵をこの少年に渡してそれなりの月日が経っているが、彼が訪れる時間帯は夜ばかりで、夕方に来たのは初めてだ。服をぞんざいに扱うのも珍しい。何かあったのは明白だろうが、それを聞いても良いのか分からない。隠岐は、どうにも色々溜め込む癖があり、それを吐かせても大丈夫な時と、そうでない時があるのだ。今回はどちらだろうか。とりあえずカーテンを閉めたいが、如何せん、窓はベットの傍にあるため、この上に乗り上げて行わなければならない。だが、彼を起こすのは忍びないし、どうしようかと思案していると、目の前に瑠璃の瞳が顔を覗かせた。
「あっ、隠岐。起こしてすま……」
語尾は目を覚ますなり、胸ぐらを掴み、口づけをかましてきた美少年により掻き消された。
……いや、長ない?めちゃめちゃちゅうしてくるやんけ。おかげで伏せた瞼から生える長いまつ毛やら、泣きぼくろやら、顔のパーツをまじまじと眺められるけども。いつまで続くのか測りかねて硬直していると、ようやく大袈裟なリップ音と共に唇が解放された。
「おかえりなさい、イコさん」
「ただいま。まあ、ここ俺の家やけど」
「そうですね。すんません、お邪魔してます」
「謝らんでええわ、べつにいつでも来てかまへんし。でも珍しいな。こんな時間に来るなんて」
起床したばかりの彼は、目がまだぼんやりと眠たげで、もう少し寝かせた方が良いかと思いながらも、一先ず理由を聞こうと口を開いた。
「えっと、最近よう寝られんくなって」
「ほう」
どうやら今回は話してくれるらしい。何故それが分からなかったのだろうか等、疑問に思うことは多々あれど、とりあえず話の先を促す。
「それで、どないしよって考えて、イコさんの家で寝ようと」
「待って。なんでその結論になったん?」
反射でツッコミを入れてしまう。思考のプロセスどないなっとんねんと困惑しているのに構わず、隠岐は話を続けた。
「イコさんとおるとよく寝れるんですよ、おれ」
「へ?」
「気づいとらんでしょうけど、おれ、結構眠り浅いですからね。こんな人が入ってきても、しばらくグースカ寝てるなんてありえへんことやし」
「そうなんか」
「はい。で、話を戻すんですけど、そんでここに来て、服脱いでベット飛び込んだら、もうおやすみ三秒でしたわ。やっぱりイコさんの匂いが効いたんやろな」
もう、何と言って良いのか分からない。それは、自分に大事な部分を明け渡しているのとほぼ同義ではないか。ここに来た理由が、あまりよろしくないことから由来すると分かっていても歓喜してしまう。こういう時は、上手く機能しない己の表情筋に感謝する。尤も、洞察力に優れている彼にはお見通しなのかもしれないが。
「……そうか。とりあえず服着替えて寝とき。後、カーテン閉めさせてな」
もう殆ど紺色となった空が広がるのを横目に、腕を伸ばすと、それをガシリと掴まれた。
「イコさん、せんのですか?」
「……何を」
「セックス」
「阿呆。寝不足や言うてる恋人に無体強いる奴がどこにおんねん」
正直、シャツを前のボタンを全て開いた状態で羽織って、オマケに下半身は下着だけの状態は、扇情的で目に毒だ。現に、視線を首から下に向けないように意識することにかなりの割合の気力を割いている。
「据え膳って言葉知ってます?」
「知っとるわ。でも食わん方がええ時だってあるやろ」
「えー……」
「暗くなっとるし、電気付けてええか?それから出来れば手を放して欲しいんやけど。カーテン閉めたい」
「そこは電気付けるの先にやった方がええんちゃいます?暗い中、手探りでスイッチ見つけるの一苦労でしょう」
「おお、せやな。隠岐は目端が利くな。……ところで、その掴んでる手を放してくれる気はまだない感じか?」
「残念ながらないですね。……ダメですか?」
今現在、こちらが膝立ちした状態で、あちらがペタンと座り込む状態になっている為、隠岐が上目遣いしているように見える。お前、絶対俺がそれ弱いの知っててやってるんやろ。
「じゃあ、一緒に寝るのはどうや?どうせなら布団より本体おった方がええやろ。そんで起きたら飯食べよ」
「本体って機械やあるまいし。……まあ、今日はそれでええです。カーテン閉めますね」
妥協案を出すと、隠岐は観念したような表情をしてから、ぱっと手を放し、カーテンを閉めた。そうすると、薄闇に輪郭がぼんやりと浮かんでいるようにしか見えない。シーツを軽く叩く音がする。
「はよ来てください。おれのライナスの毛布さん」
「着替えしとらんのやけど」
「ええやないですか。おれがこの格好で寝てもうたんやから、どっちにしろシーツは洗濯せなあかんでしょ」
「……あー、しゃあないな。まあええか」
頭をくしゃりとかき混ぜ、判断を下すと、大人しくベッドに入る。
足元の方でくしゃくしゃに丸まっていた毛布を手繰り寄せると、ばさりと被せた。
「はよ寝えや。おやすみ、隠岐」
「おやすみなさい。イコさん」
彼は、夜空に浮かぶ三日月のような微笑みをしてから、ゆっくりと目を閉じた。後を追うように、自らも瞳を覆い隠せば、睡魔の海に沈むのはすぐだった。
フィードバックを送る