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この作品 「ケーキ」 は「飯轟」「hrak【腐】」等のタグがつけられた作品です。

週末飯轟のお題「ケーキ」をお借りしました。※寮が出来る前の時間軸です。

糸村

ケーキ

糸村

2018年9月1日 17:53
週末飯轟のお題「ケーキ」をお借りしました。
※寮が出来る前の時間軸です。
「轟君の色だな」
ふと、飯田はそんな事を口にした。
二人の目の前には皿に乗ったショートケーキが鎮座している。

今日は勉強会と言う名目の下、轟は飯田の家に訪問していた。時々、轟が飯田にわからない箇所を聞く以外は、お互い声を発さず、黙々と問題をこなしていた。
だが、集中するのにも限界がある。
轟の集中力はそろそろ切れようとしていた。
と、そのタイミングで唐突に飯田が口を開く。
「時間も経ってるし、そろそろ休憩にしようか」と。
おそらく自分を気遣ってくれたのだと思う。轟は飯田が時々、自分の事を伺うようにちらちらと見ていたのに気づいていた。
轟に休憩を促すタイミングを見計らっていたのだろう。
本当に気の利く男、もとい、恋人だと思う。

そう、頭の中で思案しているうちに飯田が紅茶とケーキを携えて部屋に戻ってきた。
そして礼を述べつつ、ケーキに手をつけようとした時に、飯田が口にしたのが冒頭の台詞である。

「どういう意味だ?」
少々、問い詰めるような口調になってしまった。
「あっ、いや。これは、色がほとんど赤と白で出来ているだろう?だから、轟君の色だな、と」
飯田はケーキと轟を交互に見るようにして、若干途切れ気味ながらもそう言った。
「なるほどな。そういう事か」
その言葉に納得して、轟はまだ湯気の立つ紅茶のカップを手に取り、一口啜った。そして、飲み終えたそれを、カツッと音を立て置いた拍子に、ふと気がついた事があり、少し試してみたくなった。多分、飯田は気づいていないだろう。きっと、これを言ったら彼は、何かしらのリアクションを取るに違いない。それが見たいというただの好奇心だ。不自然に思われないように意識しながら、口を開き、言葉を乗せる。
「これ、名前もそうじゃねえか?」
「名前···?」
飯田は首を傾げてみせる。やはり、気づいていなかったか。
「これ、ショートケーキだろ?俺の名前も焦凍だから。」
響きも似ているだろうと続けた。
さて、彼はどのような反応を見せてくれるだろうか。多分、動揺して、赤面しながらも、吃りつつ何かしら言葉を返してくれるのではないかと予想していたのだが、一行にそれが聞こえない。はて、彼はどうしているのだろう。轟は、先程の言葉を話してから、何となく手持ち無沙汰になって、掴んでいたカップの紅茶の水面を見つめるのをやめ、顔を上げる。
正面には、視線を下へ向け、顔を顰め、何とも言えない表情をして黙り込む飯田の姿があった。機嫌を損ねている訳ではなさそうだが、一体これはどのような感情だろうか。轟は、彼の視線をそっと追ってみる。
それは、食べかけのケーキが乗った皿に向けられていた。先程まで広がっていた沈黙が、紙に垂らしたインクのように、じわじわと染み出していく。

さては、自分はかなり恥ずかしい事を口走ってしまったのではないかと、 轟は思い当たった。
自分と似た名前、色合いを持ったケーキを食したと言う事は、つまり。
漂う気まずさを払拭する術を、どちらも持ち合わせてはいなかった。
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