プログライズキー作っちゃったお話。


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作:翠晶 秋
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ゼロワ……ゼロツー


 

『……いつかはやると思っていた。俺は嬉しい』

「ラボを使うには親父の許可が必要だ……息子の権限で使わせてもらうぞ」

『ついに、お前が俺の夢を継いでくれるときが』

「多分永遠に来ないと思うよ。俺はただ、やりたいことをしたいだけだから」

『それでもいい。いつかはお前も手を出すのだ……ヒューマギアのシンギュラリティ研究にな』

 

もうとっくに手を出してるよ。

なんて、口が裂けても言えない。

それを言えば、あのクソ親父と同じ道を辿るハメになる。それだけはいやだ。

 

『申請が受諾されました』

 

『ほら、これで使えるだろう』

「……ありがとう」

『ちゃんと礼が言えるのはいいことだ』

 

もうその声は聞きたくない。

早々に通話を切る。

 

でも、これでラボが使えるようになった。

とりあえずは……ゼロワンドライバーだ。

 

工程を重ねて、設計図やデータにある素材をかき集めて……。

溶接、動作テスト、溶接、動作テスト……。

 

形にはなった。まだ歪だけど、これは時間が余ったときに直すことにしよう。

3Dプリンタの力は偉大だ。

勢いよく腰に巻きつけると『ゼロワンドライバー!!』と音がする。

この音声要らない……と思ったが、どうやらこの音声システムはゼロワンドライバーの深部に組み込まれているらしく、製作の過程で消すことは不可能だった。

……なんで?

 

まぁ結果的に、ゼロワンドライバーとプログライズキー。2つは用意できたわけだ。

あとはライダモデルだが……そうだな、最初のライダモデルはウサギにしよう。

それじゃあ、ウサギのいるところまで移動しよう───。

 

 

 

 

「きゅー!きゅー!」

「こら待て……待ってってば!」

「きゅー!」

 

動物園。

触れ合いコーナー。

 

「きゅー!」

 

全ッ然捕まえられない……!

観察してデータを取りたいのに、こちらの不穏な雰囲気を感じてか全くこちらに寄ってこない。

 

「ママ、あのお兄ちゃんおめめの下が黒いよー!」

「シッ!!ウサギさんと遊びましょうねぇ〜!!」

 

……もしかして近寄られないのって、この隈のせいか?

だとしたら、今日は帰ってまた明日、良く眠ってからのほうがいい気がする……。

せっかくプログライズキーが完成したのになぁ……。

 

ポケットに手を入れて、ブランクプログライズキーを取り出し……。

取り、出し……。

 

「……ない……」

「きゅ?」

 

プログライズキーが、ない。

ちょっと待て、どこに落とした!?

軽いから落としても気づかなかったんだ!

バッと辺りを見渡す。

 

「おい……返して?それはお前の晩御飯3、4年分は価値があるんだ」

 

ウサギという身で賢い頭をもち、群れのリーダーでありながらこの触れ合い動物園のマスコット。

『みーちゃん』が、俺のプログライズキーを咥えている!

 

「待っ、それ返せぇぇぇぇぇ!」

「むきゅううううううう!!」

 

体が小さく、すばしっこくて捕まえられない。

自身の体の半分くらいの大きさはあるプログライズキーを咥えて、重心をブレさせることなくひょいひょいと俺の手を交わす。

動物育成用ヒューマギアが、騒動を聞きつけてやってきた。

 

「あーっ!困りますお客様!みーちゃんへの乱暴は困りますお客様!」

「こっちだって好きで追いかけてるんじゃないんだけど……」

「むっきゅうううううううう!」

 

みーちゃんの飛び上がりキックを交わし、突き出した手は空を切る。

膠着状態で睨み合って、互いに隙を窺う。

ふっと息を吐いた俺の隣を、一頭のライオンが通り抜けて……。

 

 

は?ライオン?

 

 

「「「きゃああああああああ!?」」」

 

ライオンが逃げ出している。

だが客を襲う素振りは全くなく、ただ一心に何かから逃げているような素振りだ。

 

「……いったん休戦にしよう。わかるね?」

「むきゅ……」

 

ライオンが逃げてきた方向を確認する。

赤い目をしたヒューマギアが鍵を持っていた。

……赤い、目。ヒューマギアって目は青いんじゃなかったっけ。

鍵を持ってるってことは、このヒューマギアが逃したと見て間違いなさそうだ。

 

鍵を持ってる反対の手には……。

 

「プログライズ、キー?」

 

ヒビの入ったプログライズキーのようなものが、握られていた。

飼育ヒューマギアの腰に、禍々しいベルトが巻かれている。

ヒューマギアはプログライズキーを正面に構えて……。

 

『カリス!』

 

ベルトに、プログライズキーを差し込んだ。

 

『ゼツメライズ!!』

「ああああああああああああ!!」

 

ヒューマギアの外郭が吹っ飛ぶ。

焼けついた体が変質し、次の瞬間には……。

 

「これが、ヒューマギアの暴走……?」

 

背中に大きな鎧を持ち、両手に鞭を持った、アノマロカリスのようなロボット───否、怪人がいたのだった。

……無理。

 

「それじゃあちょっと用事を思い出したのでこの辺で」

「人間、絶滅!!」

「っっっっぶな!!」

 

横なぎに払われた鞭をしゃがんで避ける。

風切音が、そこに膨大な存在感を放つ死があることを教えてくれた。

しゃがんだことで視点が低くなり、とあるものが目に入った。

 

「アッ!お前、なにやってんだ!?かじるな!プログライズキーをかじるな!」

「もきゅもきゅもきゅ」

 

俺の……ブランクプログライズキー……。

打ちひしがれていると、みーちゃんのかじっているプログライズキーが光を放った。

……え?なに?そんな自己防衛機能あったっけ?

 

「ぎゃあああああああああ」

 

どうやら、ヒューマギアには十分な目眩しになったみたいだ。

再びみーちゃんに目を向けると、その小さなお口には……。

 

「白……?」

 

真っ白なプログライズキーが、そこにあった。

ただの複合ガラスであったはずのその表面には、ウサギの絵が描かれていて。

それが、今の状況を打破する(キー)になることは、誰がどう見ても明らかだった。

 

「おいみーちゃん」

「むきゅ」

「お前だって、この住処を壊されたくないでしょ。……そのキー、頂戴」

「むきゅ……」

「素直で賢い。いい子だ」

 

ヒューマギアの股下を抜け、俺の元までプログライズキーを運んでくれる。

先程から目を押さえて蹲っていたヒューマギアも、そろそろ回復したようだ。

覆面バッタの見様見真似で、プログライズキーを手に持つ。

リュックからベルトを取り出す。

 

『ゼロワンドライバー!!』

 

肘をピンと伸ばし、手のひらに収まるプログライズキーのボタンを右手親指で押す。

 

『バウンド!!』

 

親指と中指だけでキーを回転させ、ベルトのスキャナーにスキャン。

 

『オーソライズ!!』

 

ベルトからビームが飛び出る。

どしゃあんという破壊音を聞いて思わず振り替えると、後ろにデカいウサギがいた。こころなしかみーちゃんに見えないこともない。

 

ボタン部分が下にくるように腕を回転させ、左手と交差させるタイミングでキーを展開する。

ベルトに装填。あとは押し込むだけで……理論上は変身ができるハズだ。

 

「……変身」

 

プログライズキーをゼロワンドライバーに差し込む。

 

『プログライズ!!』

『ムーンライト?ムーンライズ!!』

『クライミングラビット!!』

 

Crush to the power of wearing the moonlight(月明かりを纏う脚力に粉砕されろ).』

 

視界が急にクリアになり、体が軽くなる、

自分の体だからうまくは確認できないけど、どうやら変身は成功したようだ。

真っ白なベルトに、真っ白な体。

ウサギだ。

 

「俺は……俺のために戦う」

 

ゼロワンドライバーは、プログライズをしたときに使用者の演算能力を上げるらしい。

だったらもちろん、戦うときも……!

 

「ハァッ!!」

 

パワーアップした脚力で地面を蹴って怪人ヒューマギアに肉薄すると、思い切り回し蹴りをする。

本来、人間の脚力ではびくともしないはずのヒューマギアが、いとも簡単に吹き飛んだ。

怪人ヒューマギアは口から配線コードのようなものを出し、周りのヒューマギアがロボット兵みたいになった。

その数、いち、にい……ろく。六体か。

 

「大ボスもろとも、消しとばしてやるよ!」

 

ベルトのプログライズキーをさらに押し込む。

 

『クライミング!!インパクト!!』

 

足に白く可視化されたエネルギーが集まる。

大ボスを守るように集まったヒューマギアたちに標的を定め。

その場で空高く飛び上がり、神速のキックをお見舞いした。

 

 

イ   ク

ン   ラ

パ   イ

ク   ミ

ト   ン

    グ

 

 

戦闘訓練なんかしたことない体から出されたキックは、大ボスごと貫いて爆発を起こした。

バランスが取れずに地面とキスする。

……いてえ……。

ってそれよりも。

 

「プログライズキー!!」

 

爆発しちゃったけど大丈夫か?

プログライズキーを集めてノアを復活させないといけないのに……。

そう思って駆け出そうとすると、炎の向こう側にイケメンの姿があった。

頭にヘアバンドみたいなものを被っている。

 

「これはプログライズキーなんかじゃない……」

「は……?」

「ゼツメライズキーだ」

 

その手には先程俺が倒したヒューマギアが持っていたキーが。

 

「あっ、返せよ」

「もともと俺たちのものだ。新しいフォームを用意しても無意味だぞ、ゼロワン……」

「多分それ人違いだと思う」

「…………」

 

なんかごめん。

 

「ではお前は……?」

「ゼロワンって名前の人はもういるんだよな……じゃあゼロツーだ」

「……ゼロツー。新しいプログライズキーの使い手か……」

 

そうして男は消えていった。

……なんなんだアイツ。

 

まぁとりあえず、怪人は倒せたことだし……。

…………。

 

「あ。ゼツメライズキーだったかを回収するの忘れた!!」

 

 

 

 

玄関を通ろうとすると生体認証で扉が開く。

自室まで戻ってリュックのベルトとポケットのキーをクッションに投げた。

革の椅子に座って隣の本棚を見る。

幼い頃に買ってもらったヒーローの本。

背表紙には『仮面ライダー』と書かれていた。

 

クッションに視線を投げる。

窓からさす日の光が、ベルトとキーを照らした。

真っ白な筐体。

仮面ライダー、か……。

 

「仮面ライダーになれば、お前を救えるのかな?」

 

目の前にある筒。

ノアは答えない。

 

「だんまりか」

 

パソコンを開いてUSBメモリを差し込む。

 

「仮面ライダーとして戦うにはもっと力が必要かも……」

 

あれもこれも、思いつく力を手に入れる方法すべてをメモに書き込んでいく。

俺の視界の端でUSBから出してきたデータの一覧が三つある液晶の内一つを染め上げる。

 

ラボはまた使うことになりそうだ……。

ガレージも改造しないと。それとトレーニングルーム。

大っ嫌いな親父は金だけはもっていた。

……けれど、俺の意見に反対しやがった。

人の命を、わざわざ見捨てるようなことをしたんだ。

 

「刻んでやるよ……アンタの胸に」

 

独り言ちる。

 

奥気(おうぎ) 旋人(せんと)の名前をな」

 

 




おら、『玄関を〜』の部分からOPタイミングだぞ流せよ。
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