「兄ちゃん、表情が良くなったね」
聞くようになったことで、ほかにも変化はあったのでしょうか。
ドラマに出てきそうな素敵なエピソードを話していいですか? 私の妹は故郷で美容師をやっていて、毎年正月に帰省した時に私の髪を切りながら1年間の出来事をお互いに話すのが恒例行事。「あまちゃん」の撮影が終わった翌年の正月のことです。妹が「兄ちゃん、変わった」って言うんですよ。
それまでの私は相談を受けたら、すぐに自分としての答えを口にしていたそうです。ところが、「今日は話をじっくり聞いてくれたから、話しやすかった」って。人を半ば見下ろすような性格も変わったのでしょう。「笑うと口元に浮かんでいた皮肉な表情が消えた」とも言ってくれました。
かつては「妹のためになる」と思って、自分の考えばかりを話していた。でも伝えることだけが重要ではない。妹の言葉で、「そうか、話し手はまずは“聞いて”ほしいんだ」と確信したし、「自分は変われたかもな」と少し自信がつきました。長時間話し込んだから妹が切りすぎて、すごい短い髪形になりましたけどね(笑)。
1週間、恋愛映画だけを観る
「エゴを捨てて、とにかく人の話を聞く」。言うのは簡単ですが、簡単な話ではない気がします。
誤解されがちですが、聖人君子を目指すわけではない。「目の前の状況をありのままに受け入れる」と発想を変えてみてください。
確かに「自分を変える」という意味では大きなストレスなので、努力しました。自己中心的なエゴを捨てるには、「心の中にもう1人の自分を作る」ことがポイントになる。自分を見るのと同じように、相手も視野に入れられますから。だから、普段やらないことに集中して取り組む“1週間チャレンジ”を習慣づけました。
例えば、「この1週間は親切になる」と決めて、ひたすら親切な行いを心がけるとします。エレベーターで全員が降りるのを待ったり、困っていそうな人に率先して声をかけたり。すると「人に親切にするとこんな反応が得られて、こんなうれしい気分になるのか」と「普段なら気づけなかったことや、いつもと違う自分」を発見できる。この時点で一歩引いて自分を見ることができている。
つまり、目の前の状況を俯瞰して見る姿勢に少しずつ慣れて、逆に「オレがオレが」という超主観的な考えを弱められる。ほかにも「苦手な恋愛映画だけを鑑賞する」「街で人とぶつかりそうになったら、必ず自分が先に避けて道を相手に譲る」といろいろやりましたね。
仕事相手との関係が劇的に良くなるなら、聞く力を身につけない手はありません。
効果はもっと大きいですよ。「サラリーマンNEO」を担当していた時、周りから「仕事が引く手あまたでしょう」とよく言われましたが、依頼が来たことは1回もありません。スタッフはほかの撮影現場に行っても、私のことを良くは言わなかったはず。誰だって、自分の存在を認め、話を聞いてくれる人を信頼するし、一緒に仕事がしたいのもそういう人です。
でも、「あまちゃん」が終わってからは、ものすごい数の依頼を頂くようになりました。これは「あまちゃんの大ヒット」だけでは説明がつかない。きっと、「吉田と仕事すると楽しい」と思ってくれたスタッフが、あちこちで私を“営業”してくれているんだと思います。本当にありがたいことです。
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